参加理由
建国パーティー。
文字通り、王国が建った日を祝うパーティーのことだ。
これは毎年開催されており、各地が露店や催しといった賑わいを見せる中、王城に各国の貴族が集まり、交友を深める場である。
一部では『社交界最大イベント』と呼ばれるぐらいで、多くの令息令嬢がこのタイミングに合わせてデビューをしていく。
もちろん、ハルカも貴族令息として例外ではないのだが───
「僕、一回も行ったことがないんだけど」
朝食を食べ終え、ハルカの自室。
メイドのエルザに抱き締められ&膝の上に座らされながらのハルカは口にした。
クズ息子を演じるために今まで一度も社交界へ顔を出してこなかったハルカは当然、建国パーティーには参加したことはない。
一ヶ月後に控えている建国パーティーの存在こそ知っていたものの、今回もいつも通り参加する気はなかった。
そして、それはエルザにも事前に伝えてはいるのだが───
「坊ちゃんの初めて、いただいてもよろしいでしょうか?」
「言い方がいやらしい」
「では……」
「待って、僕の首に唇当てないでそういう話じゃないでしょ!?」
話が本当にいやらしくなりそうである。
「んー……」
その一方で、アリスはハルカがいつも座る席に腰を下ろしながら首を傾げていた。
正直「来てくれるの!? やったー!」と言うかと思ったハルカはアリスの反応に疑問を持つ。
「おかしいですね、結構乗り気な反応を見せるかと思いましたのに」
「うん、意外な反応で少し警戒する僕がいる」
「いやいや、君達。私のことをなんだと思ってるの?」
二日の出会いなのに、もう違和感を持ち始めている二人。
アリスは主従コンビを見て大きくため息をつく。
「いやさ、流石の私もハルカくんをドロッドロの王位継承権争いに参加させようとは思っていないわけよ」
「自分から巻き込みに来たくせにという発言をしたいのですが」
「それはそれ。っていうか、私だってこんなすぐに巻き込まれ事故に手を挙げさせると思ってなかったんだよ……」
巻き込まれ事故? と、気づかれていないと思っているハルカはもう一度首を傾げる。
「建国パーティーって、社交場の一大イベントだよ? うちの兄貴達が仕掛けるなら、間違いなくここだもん」
建国パーティーは、各国の貴族が集まる。
仕掛けるにしても、支持と仲間を集めるにしても、これほど格好の場はない。
王位継承権争いは、アリスの命を狙おうとしているほど過激化しており、この格好の場で何もしない方がおかしな話。
もし、ハルカがこの場に訪れたらどうなるだろうか? 今アリスを匿っていると知られている以上、過激な行為に走っても疑問ではなかった。
(まぁ、ハルカくんがどうにかなるとは思えないんだけど……)
とはいえ、それはそれ。
ハルカが常人に負けるとは思えないが、命の危険を晒すのは明白。
アリスも、今回は建国パーティーに参加するつもりはなかった。
だからこそ、こうして渋っているのだが───
「ここで仕掛けないと、あなたを取り巻く環境は変わりませんよ?」
「まぁ、それはそうなんだけど……」
このまま王位継承権争いが終わるまで待とうにも、先は長い。
それまでずっとハルカ達が守ってくれるわけもなく、いつかは元の環境に戻らなければならない。
故に、エルザの言葉にアリスは押し黙ってしまう。
「正直、僕は社交界に顔を出してないから詳しいことは分からないけどさ」
そんな時、ハルカがエルザに抱き締められながら真っ直ぐにアリスを見つめる。
「僕はアリスが困っているんだったら、助けるよ? 利害とか関係なく、君がそれで毎日を笑って過ごせるんだったら」
「……ッ!」
ドクン、と。
アリスの胸が高鳴る。
赤くなった顔を押さえながら、アリスはハルカから視線を逸らしてしまう。
「……ハルカくんって、歳下だよね?」
「ハッ! それは僕が大人びて見えるという───」
「超可愛い!」
「今の流れでそれはないじゃない」
ハルカが落ち込むと、エルザは優しくあやすように頭を撫でる。
その姿を見て、アリスは───
(嘘に決まってるじゃん)
本当は惚れるほどかっこいいのに、と。
照れを含んだ赤くなった頬を見せて、口元を緩めるのであった。
「そうと決まれば、やはり正装を見繕わないといけませんね」
「え、それって必須事項?」
「坊ちゃんは社交界に顔を出さないので、そもそも正装がございません。それに、私は坊ちゃんの傍付きをする前は冒険者をしておりますので、そもそもドレスの一つも持ち合わせておりませんから」
言われてみればそうだと、己のクローゼットの中を思い出すハルカ。
そうなれば、一ヶ月後に控える建国パーティーに備えて、今のうちに仕立てておかなければならない。
「ハルカくんの、タキシード……ッ!」
「坊ちゃんの背伸びした姿……ッ!」
仕立てておかなければならないが、どこか身の危険を感じてしまったハルカであった。
「けど、今思えばクズ息子が行くと騒がれるよね……」
何か対策をしなければ、と。
ハルカは顎に手を当てて思考する。
すると───
「ハルカくんは可愛いから大丈夫!」
「坊ちゃんは超の可愛いので問題ございません」
立派な大人な男を目指す僕にとっては問題しかないと、悲しい瞳を見せる可愛らしい少年であった。
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