第41話 エルフとアナザリアンギルド

 魔法歴二〇二五年 一二月八日 第一曜日


「おや、娘さん」

「あっ、エルフの人!」

 わたしたちパーティーが神殿を出るとそこにはドワーフの町、チクタクタウンであったエルフさんが立っていた。

(また記録に来たのかな?)

 わたしたちは北方にある始まりの木の町、生きた木の神殿の生い茂る葉の扉から出たところだった。

「こんにちはエルフさん!」

「こんにちは人間さん」

 わたしはエルフさんとあいさつをする。

「誰? トキコちゃん」

「え、えーと……、ドワーフの町のね、神殿で、時計の人で、いいエルフさんで……」

 わたしはこまる、ちょっと話ただけのエルフさんで紹介もできない。

「私は、ニキ・スズラン、この間ドワーフの町の神殿でお会いした一期一会の友です、ドワーフの町には時計の修理と古い友に会いに行っていたんですよ、トキコ、トキコさんとお呼びしても?」

 困っていたわたしにスズランさんが助け舟を出してくれる。

「はい、スズランさん、トキコです」

 わたしは安易に答える。

「トキコが知らない人に話すなんて珍しいわね」

「ゲームの中だとわたしあまり緊張しないから」

 カラテちゃん、わたしだって声をかけられたら話すよ。

「いや、してたろ」

(してました……)

 タテキシくんはしんらつだ。

「皆さんはアナザリアンの冒険者パーティーですか」

「あっはい、こっち格闘神官のカラテちゃん、あっちの男の子が鬼剣士のトウケンくんと重装甲騎士のタテキシくん、わたしが精霊召喚師で、そっちがユウコちゃん、今日から冒険をはじめた初心者神官です」

「ほう、では雷の神殿に行ってみては?」

「雷の神殿?」

 わたしはスズランさんに聞きかえす。

「ええ、最近、雷の神殿の周辺の森にゴースト系の魔物があらわれで雷の神殿になかなか近づけないのです、確かアナザリアンギルドにリクエストが入っているはずですよ」

「そうなんですか?」

(リクエストかー、ちょうどいいかも)

「そうですか、わかりました、ギルドに立ち寄って見ましょう、トキコ、みんな行くわよ」

(あれれ?)

 カラテちゃんがわたしを引っ張ってスズランさんから離れて行く。


 *


「なんかアイツ誘導かけてたな」

「そうだね、オレらをゴーストと戦わせたがってた……」

「そうなんですか?」

 タテキシくんとトウケンくんの会話にユウちゃんが入る。

「えー、違うよ、親切だよー」

 わたし、人を疑うの好きじゃないな。

「なに言ってるのトキコちゃん、エルフはハラグロよ!」

(カラテちゃんエルフとなんかあったのかな?)

 わたしはそんな事を考えながらアナザリアンギルドまで引きずられて行った。


 *


 アナザリアンギルド。

 町の雰囲気に合わせて建てられた、深い色の木材の柱と漆喰しっくいで壁を塗られた白い大きな建物。

 そこは別世界人、アナザリアンが集う集会所、そこは運営AIエーアイによって管理がされ、物やお金を預かったり、マジカリタさんたちからの依頼、リクエストを受けたり、アナザリアンの集団意思を収集してマジカリタさんたちの政府自治体と面倒な交渉事も行っていた。

 集団意思の収集とはアナザリアンの行動統計による意思の確認と選挙のないゆるやかな民主主義ともいえ、それはゲームとしてのストレスを感じさせず、わたしたちの意思をギルドに反映させるシステムだった。

 運営AIがなければアナザリアンはバラバラにマジカリタさんたちと交渉せざるおえず、不当な交渉をどちらかに追わせたり、政治対立を起こしていただろうとタテキシくんが言っていた。

 運営AI様々なのだ。


 *


「あっ、あったよー」

 わたしはまっさきに、ゴースト退治のリクエストを見つけた。

「オマエやる気満々だな……」

 タテキシくんが諦めムードの声を出す。

「確かに雷の神殿は魅力的だ、カラテは純粋な攻撃魔法は使えんしユウコさんの職業神官なら多様な神聖魔法を使える」

 トウケンくんはいろいろ考えてるみたい。

「確かにわたしは格闘神官で攻撃は物理が基本だからいいけど、ユウコちゃんには攻撃魔法が必須よね」

「いいんですか?」

 話はまとまりそう。

 やっぱりエルフさんの言っていた依頼を受ける。

 カラテちゃんも渋々納得した。

「でもエルフかー」

(カラテちゃんは偏見がすぎるな……)

 ホント何があったんだろ。

「気にすんな、この前までこのトキコにもそうしてたんだ」

 タテキシくんが偉そうにわたしの頭に手を置きワシワシとネジル。

(撫でてるのかな?)

「そうだよ、ユウちゃんは新人さんなんだから先輩に頼ればいいんだよ」

 わたしは先輩風をビュンビュン吹かせた。

「でも良かったなトキコ、両校とも期末テストが一一月末で、これから遊び放題だ」

 その期末ギリギリだったタテキシくんが偉そうに言う。

「タテキシもカラテとトキコに勉強教えてもらって赤点とらなかったし、良かったな」

(トウケンくんもっと言っちゃって‼)

「テメーはなにも教えてねーのに偉そうなんだよトウケン!」

 トウケンくんもギリギリだった。

 カラテちゃんがつきっきりだった。

「本当に最近ゲームばっかりしてるわ私」

 カラテちゃんはハマった自分が意外らしい。

「こんなにカラテがハマるとは思ってなかったなオレ」

 トウケンくんがカラテちゃんをこのゲームに誘った、トウケンくんは結構ゲーム好きだ。

 オンラインゲームだけじゃ無く、携帯レトロゲームやボードゲームもいっぱい持ってて、よくトウケンくんの神社で遊んだ。

「ユウちゃんもハマってハマって」

 わたしはユウちゃんともいっぱいいっぱい遊びたい。

「そうだね、トキちゃんやみんなといっしょならゲーム楽しそう」

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