第39話 エピローグ 日曜日の買い物

 西暦二〇二五年 一二月七日 日曜日


南川野みなみかわのさんおはよう、待ったー?」

迷路まよいみちさんおはよう、待ってないよ?」

 わたしは日曜日、友達と城下町駅で待ち合わせをした。

 南川野優子みなみかわのゆうこさんは川南高校かわみなみこうこうのクラスメイトの女の子。

「南川野さん白のコートかわいいね」

「うん、迷路さんも、ピンクのスカジャンかわいいね?」

 南川野さんは白いロングコートに茶色いアースカラーのワンピースにベレー帽、クリーム色スニーカーを履いて、黒いちっちゃなバッグを肩から斜め掛けしていた。

 わたしは川南高校の制服の白いブラウスと灰色のスカートの上にお母さんが送ってくれた背中にコアラのいるピンクのスカジャンを着て、ピンクのタイツとスニーカーを履いて。

 頭に黒猫を乗っけていた。

 私は今ココに制服万能説をとなえたい。

「猫ちゃんどうしたの?」

「なつかれた!」

 わたしは刀剣くんとトラック運転席さん規律護先生と黒猫を救ったあの日から、この黒猫の黒之助くろのすけに懐かれていた、黒之助はどうやらこの辺りの地域猫らしかった。

 地域猫はその地域の人がなんとなく面倒をみてる猫ちゃんだ。

 黒之助の他にもクロちゃんとかファミリアとかダークセイバーとか呼ばれている。

「ダークセイバーじゃねーか、まさか時子、テメーの猫だったのか?」

「ちっ、違うよ!」

 ダークセイバーこと黒之助は私の頭から顔を蹴って盾騎士たてきしくんに飛びついた。

 盾騎士くんは全身上から下まで真っ黒だった、革のジャンパーも革の手袋もデニムパンツもブーツもわたしを裏切って盾騎士くんの胸の中にいる浮気者の猫ちゃんも、乗って来たバイクまで……。

「盾騎士くんバイク乗るの?」

「夏に免許とったんだぜー、すげーだろー中型免許だぜー、二五〇のスポーツモデルだぜー」

「いいないいな、わたしも乗せて、二人乗りでしょ座るとこ二つある!」

 わたしは駐車スペース日とめられたバイクのまわりをぐるぐる回ってかっこいいバイクをながめる。

「来年になったらな」

「なんでー?」

「法律で一年間は二人乗りしちゃだめなんだよ!」

「えー、法律イジワルーーーー!」

「あの、時子ちゃん?」

 南川野さんが盾騎士くんに少し怯えながらわたしに声をかける。

「あっ! この人はね川乃北高校かわのきたこうこうの盾騎士くん、斧田盾騎士おのだたてきしくんです、口が悪いけどただのツンデレさんだから気にしないで」

「ツンデレじゃねーよ、俺がいつデレましたか? ツンツンばっかでデレる要素のない人生でしたが文句ありますか⁉」

「で、ツッコミがとっても上手じょうずなの、やっぱりツッコミって必要な文化だよねー、一家に一台必要だねー」

「おかしな文化を広めんな! 一家に一台もあってたまるか、ボケの方を減らせやゴラー!」

「すごいね、私、斧田くんがいつもバスターミナルで迷路さん待ち構えててたからストーカーさんとか思っちゃってた……ごめんなさい」

 南川野さんがぺこりと謝る。

「誰がストーカーだ、こんなやつ待ち構えててたまるか! こんなチンチクリン需要がねーわ! あやまんなボケ!」

「でもなんでバイク持ってるのにバス通学なのかしら盾騎士君」

「本当だな、別に川乃北高校バイク通学禁止じゃないぞ盾騎士」

 地方は交通のベンが大変なのだ。

「バッ、バスが好きなんだよ、バスが好きで好きで好きすぎて毎日バス通学だ! 文句あるか‼」

 なんだか盾騎士くん顔が赤い?

 空手ちゃんはデニムパンツの上に白いワンピースと緑のアースカラーのダッフルコート。

 刀剣くんは灰色のトップスに黒のボトムス、その上に真っ赤なダッフルコート。

「あっ、ダッフルコート色違いのお揃いのやつだ!」

 わたしは二人を指差す。

「はぁああん? なんですかお揃いですかカップルですかお付き合いしてるんですか、鬼と鬼嫁のご登場ですか? お似合いのご夫婦ですか、俺に夫婦円満のひけつをお教え頂いてもよろしいですかああああ⁉」

 わたしの変なアシストのせいで盾騎士くんが息を吹き返し、まくしたてる。

「時子恨むぞ……」

「別にいいじゃないお揃いくらいで、ねー時子ちゃん」

 なんでだろ、刀剣くんより空手ちゃんの方が怖い……。

「こんにちは、私は瘉水空手いやしみずからて、あっちの髪が赤いのは赤神刀剣あかがみとうけん、あなたが時子ちゃんのクラスメイトの……」

「南川野優子です今日は誘っていただいてありがとうございます」

「ありがとうなんて、時子ちゃんが友達呼びたいなんて初めてだったから私緊張したちゃった」

「そうなんですか?」

「時子ちゃん友達作るの苦手だから」

「あっ、それわかります、迷路さんって人見知りさんですよね、癒水さん」

「あっ、わたしの事は空手でいいわよ南川野さん」

「じゃあ、私も名字じゃなく名前で」

「優子ちゃんでいい?」

「はい、じゃ、私は空手さんでいいですか?」

「さん?」

「『ちゃん』より『さん』ですね、なんか空手さん、お姉さん感があって素敵です!」

(一瞬で打ち解けた! そしてもう下の名前で呼び合うスタイル‼)

 これがコミニケーションお化け!

 わたしには絶対無理‼

 あんな人間には一生なれない!

 そして空手ちゃんとられた⁉

 南川野さんは一瞬で友達を奪って行く怪異『妖怪友達奪ようかいともだちうばい』だったのか。

 騙された!

 信じてたのに!

 空手ちゃんわたしを捨てないで‼

「おい時子、テメーはテメーのやり方でゆっくりやりゃーいいんだよ……」

(盾騎士くん……)

 盾騎士くんが黒之助をわたしに渡す。

 黒之助、温かい……。

「オレも誕生日来たらバイクの免許取ろうかなー、盾騎士コレ中型だろ大変だった?」

「あぁ? オマエは俺の頭の悪さナメめてんのか? 誰だって取れるわ中型免許!」

「だよな!」

「だよなじゃねーよ! そこは否定しろ‼」

 なんかわたしのまわりにいっぱい人がいる。

 友達がいっぱい。

 わたし寂しくない!

「時子ちゃん、マフラー買いに行くんでしょ!」

 空手ちゃんがわたしに手を差し伸べる。

「迷路さん私も」

 南川野さんもわたしに手を差し伸べてくれた。

 わたしはそれを無駄になんかしない。

 わたしは手を取り歩く。

 誰も覚えてないけどあの日わたしは約束した。

 日曜日は友達と買い物に行く。

 わたしは幸せだ。

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