第30話 作戦会議という名の作戦会議とドワーフの職人

 魔法歴二〇二五年 一二月四日 第四曜日


 時計台神殿のある大陸中央部のドワーフ族たちの住む小さな町チクタクタウン。

 わたしたちは作戦会議と戦闘前のエネルギー補給の為に町のレストラン、ドワーフ族が経営をする『高原の腕っぷし乙女』に来ていた。

 空手ちゃんは今日も学校には来ず、刀剣君のお見舞いに行っていた。

 刀剣くんは面会謝絶で合う事はできない。

 このゲームはすでにわたしと盾騎士くんにとってリアルの世界と地続きだった。


 *


「とりあえず確認だ、過去にはワザや魔法は持って行けないんだな」

「うん、記憶だけ、記憶だけがそこにいた体に戻るって感じ」

「タイムリープってやつだな……たぶん全てのデータが記録されててそこに戻れんだ」

(タイムリープ、なんかかっこいい!)

 盾騎士くんは深刻そうにそう言ったけど、わたしはそんな事を思っていた。

「じぁあやり方は簡単だ、十二月二日に戻って刀剣と空手、念のために俺も横断歩道に行かせないようにするんだ、トラックが通過するまでな」

「うん、そしたら刀剣くんは事故に合わないし、先生も学校やめなくていいよね」

「オマエ先生のことまで考えてたのか?」

「うん……」

 わたしはみんな幸せに生きてほしい。

「まあいい、とりあえず授業が終わったらいつものように連絡はせず俺のところに来い、連絡してくると俺がそっちに向かって事故に巻き込まれかねない。

「わかった、連絡せず盾騎士くんの高校に行く」

 わたしは覚える。

「そしたら『刀剣が教師につかまって瘉水が付いてるから迎えに行く』とか言って俺を川乃北高校に連れて行け、あとは校門前で少し長話をして少し遅れて帰る、もし早く横断歩道についても猫には近づくんじゃないぞ、そして俺たちも近づかせるな!」

「……じゃ猫ちゃんは?」

「猫?」

「黒猫ちゃん!」

「猫は知らん」

「……」

「じゃあトラックの運転手さんは?」

「トラックの運転手? 軽症だろ? いや前は違うのか……」

「うん、前は横断歩道通りすぎて一人で事故、骨折して入院したって新聞に載ってた」

「刀剣ひいたやつだろ、それくらい自業自得だ」

「……」

 わたしは黙ってしまった。

 盾騎士くんは心配そうに言葉を続ける。

「俺はとにかく安全策を取りたい、猫が横断歩道にいる時間にトラックが来るんだよな、その時間には横断歩道に近づかない方がいい」

「……うん」

「わかってるのか? あるのは命のリスクだぞ!」

「…………」

「こう言っちゃなんだか、猫がトラック避けるかもしれないし、トラックが猫を引いたあと止まって運転手が軽症で済むかもしれない、その両方で猫も運転手も助かるって事だってあり得るんだ」

「…………」

「行動を変えたあとの未来は不確定だ、俺はわかってる範囲で確実な方法を取りたい」

「……うん」

「わかってんのか時子」

「…………」

「――わかってないんだな」

「……」

 わたしはまた黙ってしまう。

 盾騎士くんはわたしをしばらく見つめ話を続ける。

「一つだけ重要な事がある、一つだけだ、それだけは俺と約束してくれ、絶対の約束だ」

「……なに?」

「お前は死ぬな、タイムリープ出来なくなる」

 それはどんな自体が起きても、どんなにつらくても生きなくちゃいかない事を指している、盾騎士くんはそれがわかっててあえて冷たく冷静な言葉でハッキリとわたしに伝えた。

 わたしは絶対死んじゃダメ……。

(確かにそうだ……)

「わかった、約束する、わたしだけは絶対に死なない」

 わたしは怖くて泣きそうだった、でも、その絶対の約束を盾騎士くんとした。

(わたしは絶対死なない!)

「……良し、それでいい、それなら俺はお前に協力出来る、俺とお前で必ずその場所へ行こう」

 盾騎士くんはわたしが約束を守ると信じてくれた。

 わたしは絶対に彼を裏切らない。


 *


「注文はなんだい? 騎士さんと魔法使いさん」

 話が一段落付いたのを見て出来るドワーフ店員さんネキ・エーデルワイスさんが注文を取る。

「生タマゴと生野菜のミックスジュース」

「わたしも!」

 わたしもタテキシくんも、ドワーフの民族衣装の制服を着た、ドワーフのお姉さん、ネキ・エーデルワイスさんにトウケンくんがよく頼んでいたソレを注文した。

 白いブラウスに鮮やかな花々の刺繍入りの黒のコルセット、鮮やかな真っ赤なロングスカートに白いエプロンの民族衣装の制服のお姉さんネキ・エーデルワイスさんがすごい嫌な顔をした。


 *


「アレやめとけば良かったよタテキシくん」

「味なんかしないだろ?」

「絵的にだめだった……」

「そうかよトロ子」

「酷い……」

 わたしとタテキシくんはドワーフ族が経営をする高原の腕っぷし乙女を出てある場所に向かっていた。

 そこは前にタテキシくんが話していたドワーフ職人さんの工房。

 タテキシくんがドワーフ職人の戦斧を買った場所だった。

「この森の奥か?」

「うん、たぶん……」

「たぶんだあぁ?」

「タテキシくんが高校の帰り道に『時計台の町から森に入れるだろ?』とか言ってた、高原のはしに少し森があって、そこにドワーフの鍛冶屋さんがいるはずなの、そこでドワーフの戦斧を買ったって……」

「ホントかよ、今じゃドワーフの奴ら商売にかまけて時計のとか高価なからくり製品しか作らないぜ……」

「たぶん……」

「たぶんかよ!」

 わたしとタテキシくんはどんどん森の奥に入っで行った。


 *


「おいこれ村じゃないか……」

「そうだね」

 わたしたちが見つけたのは何軒もの工房のあるドワーフたちの工房村だった。

 工房はレンガ積みと薄く割れる石を使ったスレート屋根でほとんどの建物に高温を作る耐熱レンガの炉とたくさんのエントツが建っていた。

「何だこりゃ、ドワーフの奴ら守銭奴になったんじゃないのか?」

「見て見て、アレ! 鎧のお店がある! 鋼の予報専門店『フルメタルバーサーカー』だって!」

「何だその頭のおかしな名前の店は」

「あっちは盾のお店、名前は『盾は武器である』だって、面白ーい!」

「盾は盾だろ……」

「あっ見てみて、ガントレット専門店『殴り屋』にブーツ専門店『カカトオトシ』だってー、カラテちゃん連れて来たい‼」

 わたしはトウケンくんとカラテちゃんとしていた冒険のころを思い出して笑った。

「おい! 走んなトキコ! そこら中は火があってあぶねーぞ‼」

 タテキシくんは怒ってるけどなんかわたしがはしゃいでるのが嬉しそうだった。

 ひさしぶりの発見と冒険だった。


 *


「ここはドワーフの秘密の工房村なのさ」

 戦斧専門店、『戦士の心』の工房主、ドワーフのオノズクリ・イッタクさんが熱く焼けた戦斧を打つ。

「強い戦斧がほしい」

「訳ありか?」

「なんでそう思う?」

「お前さんはそうゆう顔をしている……」

 ジュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュ!

「斧焼入れしてんのか?」

 フゥ……

「鬼どもに習った方法だ……」

 オノズクリ・イッタクさんは一息つく。

「おい俺は戦斧を買いに」

「待ってろ」

 オノズクリ・イッタクさんは工房の奥に入り一振りの戦斧を持って来てくれた。

「ワシが打った中では最高の一品だめいは『甲羅割こうらわりの斧』硬い魔獣の亀の甲羅もたたき割ると言う逸品いっぴんだ」

「すげーな、そんなのほしかったんだじーさん」

「まだ割ったたことはないがな」

「ダメじゃん」


 *


「タテキシくんホントその斧での良かったの? 前の時はドワーフの戦斧って使ってたよ」

「ああ、コッチの方がドワーフの戦斧よりプラス五も物量攻撃力が上がるからな、これより強い武器がほしけりゃミノタウロスの戦斧しかないとかオノズクリのじーさんがウソブクんだからこれがいい」

「じゃ次は盾と鎧、だね、前は鋼の盾と鎧つけてたよ」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 何じゃこりゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ!」

「厨二病マント?」

 なんだか重そうな厚い布の表地が黒に裏地が青の鎧につけれるオプション装備が売られていた。

「買いだな!」

「何で?」

 わたしには男の子の気持ちはわからないよ。

「あっこれ、魔法防御力があるって、だから?」

「はぁ? 何いってんだオマエ、マントたなびかせるのはおとこのロマンだろ!」

「魔法防御力は関係ないの?」

 漢のロマンって何?

「トキコ、オマエも鎧選べ」

「えーわたしいらないよー」

 鎧はなんか可愛くない!

「今は俺とオマエしかいないんだぞ、俺は盾役ばかりのしてやれない、自分の身は自分で守らなきゃなんねーだ!」

「うーん、じゃあ……」

 わたしはシブシブ周りを見渡す。

(…………⁉)

「キャャャャャャャャャャャャャャャャ! 何これぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」

 わたしはラメピンクの胴鎧を見つけた!

 しかも物理防御プラス三に魔法防御プラス五の効果もある‼

 かわいいし実用的!

「これください!」

「オマエも変わらんじゃないか……」

「わたしはちゃんと性能も見た!」


 *


「盾はどうするのタテキシくん? 今度はわたし鎧あるし、小さい取り回しのいい盾にする?」

 わたしラメピンクの胴鎧が気に入りました。

「いや、盾はデカくてノックバックできるのがいいんだ」

「ノックバック?」

「盾をぶつけて相手が身動を取れなくするワザだ」

「あっ! 見たことある! タテキシくんがヘビータートルに突撃してた!」

「そうか……ヘビータートルにも効くのか……」

「タテキシくん?」

「いや、そうなら絶対必要だな、盾屋に行くぞ」

「うん!」


 *


「どう? タテキシくん!」


 名前 トキコ

 種族 人間族

 職業 精霊召喚師

 レベル 二一

 ダメージ 〇パーセント

 体力 五〇ポイント

 精神力 一六〇ポイント

 筋力 二〇

 魔力 五〇

 速さ 十八

 状態異常 無し

 装備 星の魔女帽子

    甘ロリマント

    甘ロリワンピース

    ラメピンクの胴鎧どうよろい

    桃の木の杖


「ああ、似合ってるぜトキコ」

「へへへ」


 名前 タテキシ

 種族 人間族

 職業 重装甲騎士

 レベル 二九

 ダメージ 〇パーセント

 体力 二七〇ポイント

 精神力 二〇ポイント

 筋力 八六

 魔力 一〇

 速さ 十九

 状態異常 無し

 装備 甲羅割の戦斧

    鋼の大盾

    鋼の全身鎧

    厨二病マント


「タテキシくんもカッコイイ!」

「当然!」

 わたしとタテキシくんは冒険の準備を整えた。

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