第26話 斧田盾騎士の視点
西暦二〇二五年 四月四日 金曜日
そいつは
その春の日、入学式のある四月最初の金曜日、俺はまだ馴染めていないブレザー制服と締め慣れて無いネクタイを緩めていた。
「真っ白なブレザーにピンクのネクタイか……」
(似合わねーな)
「ごめんなさい!
俺は驚く、目の前に
小学から中学二年生まで偶然が重なり同じクラスだった女だ。
(確か親の関係で引っ越したって)
黒に
そいつは同じ日の午前に入学式のあった、
そいつは突然泣き出して俺に「ごめんなさい」と言った。
俺の事を「盾騎士くん」と名前で呼んだ。
*
中学の時に俺はそいつが気になっていた。
授業中、よくボーと外を見ていてよく教師に注意されていた。
そいつはクラスメイトには友達がいないらしく、休み時間になると隣のクラスまで行って、スゲー美人で勉強の出来る
そいつは癒水と赤神のがいないところでは人前でビクビクしていた。
小学生の頃の俺はソイツを「トロ子」とか言ってからかって遊んだ。
最初の頃は泣いて、瘉水や赤神のところへ逃げていたがしばらくすると言い返して来るようになった。
そいつは臆病で人見知りでトロくてよく迷子になったが、負けず嫌いで意地っ張りで、諦めの悪い女だった。
*
「盾騎士くん? いつからお前は俺の事を盾騎士くんなんて名前で呼ぶようになったんですか? お友達ですか‼」
俺はそいつに悪態をつく。
そいつは俺の言葉に驚きさらにポロポロと涙を落とした。
「何泣いてんだよ、大丈夫か?」
(なんか様子が変だ)
コイツはいつも変だったが今日はどうしたんだ?
だいたいなぜ俺の通う川南高校に来た?
コイツが引っ越して以来、たまに瘉水や赤神と街を歩いてるのを遠くで見る程度で俺とは話してなかったのに。
「おい、トロ子、話せよ、これじゃわけわからんぜ」
「ト、トロ子じゃない、時子だよ……」
(なんだコイツ……、距離感おかしくねーか?)
「はぁ……わかった時子、話してみ」
俺はなんだか肩の力が抜けて、ふと「時子」そう呼んでしまった。
「へへ」
ズズッ
そいつは変な笑い方をして鼻をすすった。
涙と鼻水で汚い女だと思った。
*
「ホイやる、アンパンと牛乳」
俺はちょっと用があると学校前のコンビニに行き、アンパンと牛乳を買って時子に渡した。
「わたしあんまりお金持ってない」
(貧乏少女なのか?)
「おごりだよ、泣いてる女から金取れるか!」
「いいの? ありがと」
(素直なやつ)
時子は嬉しそうに受け取りコンビニの前でしゃがむ。
スカートを直しながらしゃがむ姿が女の子って感じがした。
「泣いてる時や嫌なことがあったら甘いもん食うんだよ、そしたら落ち着く」
俺は時子の横に立ちそう伝えた。
「そうなの盾騎士くん?」
(盾騎士くんか……)
「ああ、俺は嫌なことがあったら腹いっぱい甘いの食って風呂入って寝る!」
「へーそうなんだ~、初めて知った、これからそうしよう」
そう言って時子はアンパンを少しかじって笑った。
*
時子は黙ったままアンパンを半分ほどの食べてその動きを止める。
何かをどう話すか考えてるんだろう、たぶんアンパン食べ終わったら話さなきゃとか思って、食べるが止まったんだろう。
「金魚、元気か?」
俺は共通の話題がないかと金魚に思い当たる。
小学校のころに金魚すくいでとってやったやつだ。
お祭りで見かけたのは偶然……いや、もしかしたらと思ったからだが。
時子はデカい出目金がほしいらしく何度もポイ、金魚すくうヤツを何度もダメにしていた。
俺はそれを後ろで見ていた。
たぶん俺は時子にいいところを見せたかったんだと思う。
「デメちゃん⁉」
時子は俺を見上げ突然声のトーンが高くなる。
「……ああ」
俺は少しホッとする。
「デメちゃん元気だよ、取ってくれてありがとう、デメちゃん大切な友達だよ」
またアンパンをかじる。
「そうか」
(少し元気出たか?)
「デメちゃん、洗面器いっぱいくらいになったよ」
(…………)
「はぁあ⁉ デカくね‼」
それ金魚じゃねーだろ!
「デメちゃん、鯉の池で飼ってたらすごい大きくなったよ……」
「エサは?」
「鯉のヤツ……」
「なんでそんなところで飼った」
「――デメちゃん、水槽だと一人で寂しいと思ってしまいまして……」
(――しまいまして?)
時子みたいにか? とは言わないようにした。
「まあ元気で良かった」
「うん……」
時子は またアンパンをかじった。
*
「盾騎士くん、ごめんなさい」
アンパンを食べきり牛乳を一気にズズズとすすると時子は立ち上がり俺に深々と頭を下げた。
「わかった許す」
「まだ話してないよ……」
「俺が知らない事であやまられても困る」
「うん……」
「話したくなったたら話せ、面倒ならわすれろ」
「……うん、……話さなきゃいけない事だし、忘れないと思うし、話さないとずっと気になっちゃうから今話す」
「……わかった」
俺は時子が少しでも話しやすいように時子から視線をそらす。
春の空はまだ青く明るい。
*
「盾騎士くん、ワールドシミュレーター・マジカルアースって知ってる?」
「ああ、開発が遅れてて夏発売が秋発売になったオンラインゲームだな、俺買うつもりだよ」
「そう……」
時子の話はゲームの話から始まった。
*
「でね、トケイちゃんに試験日の日付を入力したら試験の日に戻ってたの……」
両方の目玉が時計のトカゲ追いかけて変な白い通路に入ってタイムリープ? 俺たちが
俺は何度もツッコミ入れそうなのをガマンしながら時子の話を聞いた事だろう。
それはヒドイ妄想の話に聞こえたし、時子の頭がどうかしたかとも思ったが、時子自身はそう思ってるのは間違いなさそうだし、真剣に悩んでるように見えた。
俺はなんて言えばいいんだろう?
「終わりです……」
時子は話し終えるそう言って、だまったまま俺の横に立っている。
視線はずっと下のままだ。
「いいか時子、俺は川南高校に不満はない(制服以外)、そもそも川乃北高校は無理めだったんだ、落ちてせいせいしてる、だから時子も気にすんな、以上、終わり!」
「でも私のせいだし……」
「はぁあ! 『せい』って何だ、時子は試験受けれなかったんだろ、バカみたいにカメ追いかけてて、じゃ普通にテスト受けりゃ元々この結末だったんだ、俺は何か、実力で負けてソレを根に持つタイプですか? そんな嫌な人間ですか、クズ野郎ですか‼」
「…………違います?」
(なぜ疑問符をつける……)
「いいか、だいたいタイムリープなんてたわごと俺は信じてない! オマエは夢でも見てたんだ、わすれろ」
「……………………」
「……忘れてくれ、俺は時子のそんな顔を見たくない、オマエはバカみたいに笑って生きてろ」
「……わかった」
「じゃこの話は終わりだ、オマエは瘉水と赤神と仲良しやってろ、じゃな」
俺はそのままコンビニに時子をおいで帰ろうとした。
「……」
「……」
「なぜついて来る?」
「駅行かなきゃ帰れない」
「瘉水とかと川乃北で合流しろよ……」
「盾騎士くんの話聞いて、『先に帰る』って飛び出しちゃた……」
「それ心配してるから、メールしとけ」
「わかった」
「歩きスマホ禁止‼」
「それ空手ちゃんと刀剣くんにも言われた」
「言われた事は護れ!」
「まだ言われてないからセーフ」
「未来の妄想ですか? 頭おかしいんですか?」
「妄想じゃないし頭おかしくない」
「いいから守れ」
「はい」
*
「今度こそじゃあな!」
俺はバスターミナルで自分の家方面のバスに乗り込む。
「うん」
時子はスマホをいじってる。
瘉水と赤神にメールか?
ピン!
「メール?」
時子:ゲーム発売したら一緒にしよ。
「なんで俺のアドレス知ってる‼」
「へへへ」
時子はニヒャリとくったくのない笑顔で笑い、スマホを振りながら駅の方へ走っていった。
その変な女の後ろ姿を見ながら俺は返信メールをそいつに送った。
盾騎士:気が向いたらな。
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