第25話 入学の日
西暦二〇二五年 四月四日 金曜日
「
わたしは
「
真っ黒なセーラー服、セーラーカラーとソデには
わたしと空手ちゃんは互いの両手を合わせ、鏡を見るように相手を上から下まで見た。
「空手ちゃんもとっても似合ってる!」
わたしは夢に見たこの制服をおばあちゃんとおじいちゃんの家で何度も何度もソデを通した。
この制服を着て同じ高校に通えるなんて本当に夢のようだ。
「おはよう時子」
刀剣くんズボンのポケットに手を突っ込んだまま挨拶をする。
ソデに臙脂のラインのある学ランの学生服。
「あっ、髪が黒い‼」
「ああ試験と面接の時に染めたのがまだ残ってるんだ」
(だから先生とずっと揉めてたんだ……)
ずっと赤かったら地毛だと思ってくれたかも知らないのに……。
でもそれだと面接で弾かれたかも?
「刀剣くん、ウソつかず正直に生きたほうがいいよ! 後で面倒なことになるからね」
「なんだよ、面倒なことにって?」
「しーらない!」
刀剣くんが十二月になっても呼び出しくらってたのはヒミツ。
わたしは刀剣くんはあとでひどい目合うんだぞって含み笑いをした。
「ん? でも今日は迷わなかったようだな時子」
刀剣くんがわたしの笑みに疑問符を持ちながらも話をかえる。
「入学式から迷って遅刻なんてしないよ刀剣くん」
「動物さんとかいなかったの時子ちゃん」
「大っきいワンちゃん散歩してる女の人を見たけどわたしのガマンした!」
「ダダの人見知りだろ、犬のだけなら時子は突っ込んで行ったはずさ」
(うう……確かに)
「どんな犬だったの時子ちゃん?」
「グレート・デーン、途中の駅の外の道でカッコイイお姉さんがグレート・デーン連れてた! たぶん立つと私くらいあるたれ耳の黒い大っきいワンちゃん!」
わたしはちっちゃい時ワンちゃんに乗って旅をしたかった。
「よくガマンできたわ、エライ! 時子ちゃん‼」
空手ちゃんが頭をなでてくれた。
刀剣くんは何やってんだって顔でわたしと空手ちゃんを見た。
*
道路を挟んて左右にある商店街、ヒサシの下を歩く、前にも通ったかって知ったる道。
今日からは行き先が違う。
「でも本当に良かったわ、また時子ちゃんと同じ学校に通えて、中学で引っ越して以来だもの」
空手ちゃんは革の学生カバンを持ってクルりと回る。
空手ちゃんのヒザ丈のスカートがフワリ。
「空手ちゃん、わたしもとってもとっても嬉しい!」
わたしは空手ちゃんの腕に抱きつく。
「はしゃぎすぎて転ぶなよ二人とも」
これからの朝は毎日が楽しい朝だ!
*
「今日からよろしくお願いします‼」
わたしは校門のところで元気に挨拶して頭を下げた。
まず古墳がありその土地を利用して神社が建てられた、そのあと神社は移転、刀剣くんのうちの鬼神神社になる、そしてそのあと石垣と堀が作られ城が生まれ、その城が石垣と堀だけの廃墟と化すとその土地を利用して立派な大学が作られた。
そしてさらにその大学が県庁所在地に移転して残った校舎を利用してこの川乃北高校が開校したのだ。
「時子ちゃんクラス表見よ!クラス表!」
わたしは空手ちゃんに玄関ホールに引っ張られて行く、レンガ造りのアーチの柱が何本も立つ古い建築物、老朽化対策で鉄の補強材が何本も追加されている。
この古い建物は何度か建て替えの話が出たが建物そのものがその歴史も含め文化財であった為に建て替えではなく何度も補強がされていた。
「時子ちゃん! みんな同じクラス、A組だよA組‼」
玄関ホールで靴を上履きに履き替えたわたしと空手ちゃん刀剣くんはホール脇の掲示板に貼られたクラス分け表を見上げた。
「ホントだねー、空手ちゃん!」
空手ちゃんがいつもよりはしゃいで見える。
(空手ちゃんは刀剣くんとココに通ってたんだ……)
「失礼」
「あっ、
「……よく覚えてたわね、アタシ中学ではほとんど話さなかったのに……」
「うん、ごめんなさい」
「いいけど……」
「八花えっと……」
「
「ううん、名前覚えた、わたし今度はちゃんと友達作りたいんだ」
「ふーん、まあ、がんばってー」
わたしは人生をやり直すって決めたんだ!
「時子ちゃん、真帆子と仲良かったっけ?」
「ううん、今度は仲良くなるの」
「そう……」
空手ちゃんにとっては今のわたしは少し変なのかもしれない。
でも、わたしは後悔して生きたくなかった。
「行くぞ二人とも」
刀剣くんはすでにA組の教室に進んでいた。
*
「えー、みなさん一年A組の担当教師、
なんか神経質そうな先生だな……
「一年A組の副担任、
副担任の先生は優しそう!
わたしたちは先生に誘導され講堂へ向かった。
*
退屈な話が延々と続き、倒れそう。
「新入生代表、
「はい!」
(えっ⁉)
空手ちゃん、新入生代表だったんだ‼
「私達は明るい日差しが降り注ぐこの春の日に、私立川乃北高校に入学する事ができました、それは保護者のみならずたくさんの方々の支えと自らの努力が生み出したものです、私達にとってこの入学は結果ではなく人生の通過点に過ぎません、しかしその通過点において何を学ぶのかによって、どのような生活を送るのかによって、人生がかわるのです、わたしは入学前におこなった努力を緩めることなく今後も続けて行きます、それこそがこれからの人生を豊かにしていくと信じているからです、人生は常に学びの場です、授業、部活動、交友、遊びに
(空手ちゃんすごいカッコイイ!)
*
「空手ちゃんかっこよかったよー」
「あー、あんなの口からでまかせよ時子ちゃん!」
「えー口からでまかせ⁉」
「空手はおかしな文才があるんだ……」
(騙された⁉)
「でもかっこよかった」
「ありがとう時子ちゃん、時子ちゃんのクラスの自己紹介も良かったわよ」
*
「
*
「時子くんは小学校に入学したのかな?」
(刀剣くんひどい‼)
刀剣くんが思い出し笑いをしてる。
「あっ、時子、肩」
「何? 刀剣くん」
「花びら」
「あっ、桜!」
入学式のごのホームルームを終え、家路につくわたしの肩に桜の花びらがのっていた。
わたしが入学した川乃北高校は校内にたくさんの桜の木が植えられて、春の川乃北高校の校庭にはピンクのトンネルとピンクのジュウタンの世界が広がっていた。
城下町市の市民はみんなこの高校を桜の高校と呼んでいる。
「写真撮ろうよ、刀剣、スマホスマホ!」
「ハイハイ……」
刀剣くんが「ハイハイ」と、わたしの肩から取った桜の花びらをフッと吹き飛ばしソデに臙脂のラインのある学ランの学生服からスマートフォンを取り出した。
「刀剣くん、可愛く撮ってね!」
わたしは空手ちゃんの腕に抱きつく。
空手ちゃんの髪型揺れ、スマートフォンのカメラの届かない背中でわたしの髪と合わさった。
*
「アラ、新入生代表、それと……」
「時子だよ!」
「知ってる」
八花真帆子さんだ。
なんだか笑ってる。
「隣のクラスまで自己紹介聞こえてきてたの……」
「あっ!」
(なんかはずかしい……)
「そうだB組に盾騎士くんいたでしょあとで紹介して? わたし盾騎士くんに用があるの」
わたしは話をかえる。
(盾騎士とも友達にならないと!)
「盾騎士?」
「そう、
「…………B組にそんな名前の生徒はいなかったけど」
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