第23話 真っ白な通路と時間トカゲ

 ????年 ?月?日 ?曜日


「ここどこだろー」

 わたしはずっと続く真っ白な通路の真ん中に立っていた。

 一歩歩くと、同じ真っ白な通路なのに、どこか別の場所に移動した感覚になる。

「あっ、コンパス」

 わたしはトウケンくんにもらった二つのコンパスついたペンダントの二つの針を見つめる。

 二つとも同じ方向を指している。

 わたしはコンパスのすすむ通路の壁側に歩く。

「あれ?」

 コンパスが別の方を向いた。

 一歩いただけなのに。

 カラテちゃんとトウケンくんのコンパスの位置をさすはずのわたしの二つのコンパスの先が正面から、斜め右前、左、真後ろと歩くたびにかわる。

「歩くたびに、位置が変わってる?」

 わたしはココがあのダンジョンの壁の中じゃないって気づく。


 *


「ねー、シロちゃんマロちゃん、どっち行けばいい?」

 チチチ

 チュチュチュ

 ハラヘリキンゾクネズミのシロちゃんとマロちゃんがわたしはの両肩で頭をひねる。

「やっぱりネズミさんじゃむりかー」

 わたしは途方にくれて座り込む。

 チチチ、チチ?

 チュチュチュ、チュ?

 左肩の真っ白なハラヘリキンゾクネズミのシロちゃんがわたしのほっぺをペチペチする。

「何、左?」

 わたしは少し左を意識して通路を歩く。

「あっコンパス!」

 通路はまっすぐなのに、コンパスが右を向く。

 チチチ、チ?

 チュチュチュ、チュチュ?

「今度は右?」

 右肩の灰に麻呂眉のハラヘリキンゾクネズミのマロちゃんがほっぺをペチペチする。

 わたしは今度は右を意識してまっすぐな通路を歩く。

「あれれ?」

 今度はコンパスが後ろをさす。

 左に進んで右を向いたのはわかる。

 でも今度は右に進んで後ろって何?

 チチチ、チ?

 チュチュチュ、チュチュ?

「また右? マロちゃん?」

 また右肩のマロちゃんがほっぺをペチペチ、私わ右を意識してまっすぐな通路を一歩。

「今度はコンパスが左向いた?」

(もしかして時計回りに回ってる?)

 チチチ、チチ、チチ?

 チュチュチュ、チュチュ、チュチュ?

「えー、今度は後ろー?」

 シロちゃんとマロちゃんが私の両耳を引っ張り後ろを向く。

 チチチ、チチ、チチ?

 チュチュチュ、チュチュ、チュチュ?

「わかった、わかったよー」

 わたしは後ろを振り返り、今度は進んでた真っ白で真っ直ぐな通路を逆向きに歩く。

「あっ、トカゲさん」

 目の前に両目が時計のトカゲさんがいた。

 コンパスは二つとも正面を指している。

(入った壁の近くに戻って来たんだ……)

「おーい、カラテちゃーん! トウケンくーん! タテキシくーん!」

 わたしは三人の名前を呼ぶ。

 私の声は真っ白な通路をこだまして消えた。

(そうだ、トカゲさん!)

「おいでートカゲさーーん」

 わたしはしゃがみこみ、両手で床を右、左、右、左、と交互トントンし、トカゲさんを呼んでみた。

 トカゲさんがゆっくりわたしに近づく。

「抱っこ」

 わたしはトカゲさんを持ち上げ胸に抱く。

 近くで見るとスマホより大きい感じ。

 トカゲさんが私のアゴを青っぽい舌でなめた。


 *


 チチチ

 チュチュチュ

「どうしたんシロちゃん、マロちゃん」

 わたしはシロちゃんとマロちゃんを見て二匹の視線が向かう正面の通路に目をやる。

「お困りですか?」

 わたしの鼻の先に緑の髪の女の子、ちっちゃいいトンボみたいな四枚羽のフェアリーが、わたしをのぞきこんだ。

「え?」

「なにかお困りですか?」

 フェアリーさんは少し離れ、わたしの視線の前を飛んでいる。

「あなたは?」

 わたしは知らない普通の人に話すようにフェアリーさんに聞く。

「わたしはサポートAIエーアイフェアリーです、お困りの事があればお答えいたします」

(サポートAIフェアリー……)


 *


 アレ? わたし今どこにいるの?

 アレ? パソコンは? わたしの部屋は?

 わたしはいつの間にか本当に真っ白な通路の中に入っていた。

 わたしはわたしの部屋にはいなかった。


 *


「えっと、わたし、迷っちゃって……」

 胸がドキドキする。

 迷った。

 本当にココがどこかわからない。

(どうやって帰ったたらいいの?)

「帰り方をお教えすればよろしいですか?」

 フェアリーさんが首をかしげる。

 フェアリーさんはたぶんスマホのアシスタントAIと同じだ。

「うん、わたし帰りたい!」

 わたしはフェアリーさんに帰りたいと伝えた。

「時間トカゲを使用して時間を戻しますか?」

 フェアリーさんはわたしが胸に抱くトカゲさんを見つめる。

「時間トカゲ?」

「はい、そちらの管理者用世界制御かんりしゃようせかいせいぎょアプリケーション精霊、時間トカゲです」

「アプリ? 管理者?」

「はい、全てのシュミレーション世界に干渉するためにワールドシミュレータがご用意した管理者用世界制御アプリケーション精霊になります」

「ワールドシミュレーター? 管理者?」

(意味がよく分からなかった……)

「ワールドシミュレータはこの世界を計算記録するスーパーコンピュータです、管理者とはワールドシミュレータの管理権限を与えられた者を指します」

「わたしは管理者?」

「はい、迷路時子様はワールドシミュレーター・マジカルアースに登録時点で管理者パスを行使しされ管理者登録がなされております」

(キャラクター生成で迷ってフリーズした時だ……)

 どうしよう、なんていえばいいの? 管理者ならその権限で出られる?

「わたし、カラテちゃんとトウケンくんとタテキシくんのところに帰りたいんだけど……」

 なんだろう、すごく不安な気持ちになる。

 心臓のドキドキが止まらない。

「マジカルアース、チクタクダンジョン、最深部にいた時間に戻りたいでよろしいですか?」

(えっ?)

 違う……わたしここからダンジョンに戻りたいわけじゃない、部屋に戻らないと……。

「違うの、部屋にわたしの部屋に戻りたいの!」

 たぶん、ダンジョンに戻りたいは違う、このままダンジョンに戻ったら危ない気がした。

 フェアリーさんが答える。

「アナザーアース、迷路時子様がお部屋にいた時間に戻るでよろしいですか?」

(アナザーアース?)

 別の地球? わたしの部屋、わたしの地球……

「アナザーアースって?」

 フェアリーさんが答える。

「ワールドシミュレーターによって作られたマジカルアースと同じシュミレーションアースの一つです」

(……じゃあ、わたしもマジカリタさんと同じゲームのNPCエヌピーシー? ノンプレイヤーキャラクター?)

 頭が混乱する……。

 ドキドキと不安が止まらない。


 *


「………………うん、わたし帰りたい、空手ちゃんや刀剣くんや盾騎士くんやおばあちゃんやおじいちゃんやみんながいる場所に」

 わたしは混乱の中にいた。

 理解できない何かを言われた気がした。

 わたしは不安でいっぱいでドキドキが止まらなくてココからはなれたかった。

「では管理者用世界制御アプリケーション精霊、時間トカゲの設定を行い、行きたい時間を設定し、決定キーを押して下さい」

 フェアリーさんがトカゲさんをわたしの正面へと導く、トカゲさんは一度床に降りたあと足をバタバタさせて不器用に浮いて、わたしを見つめた。

 今思えば、精霊さんたちの動きは人に親しみを持って接してもらう、キャラクターアプリケーションの機能みたいなものだった。


 名前を入力して決定キーを押して下さい。

[―ココにお好きな名前を登録してください―]

 戻る/決定

 ※名前はいつでも変更可能です。


 トカゲさんの頭の上の空中にメッセージが浮かぶ。

「ト、ケ、イ、 決定」

 わたしはいつも精霊さんたちに名前をつけるように、時間トカゲさんに名前をつけた。

 時間トカゲはペチリと床に二本足で立ち、片手を上げる。


 時間を入力して決定キーを押して下さい。

[〇〇〇〇年〇〇月〇〇日〇〇時〇〇分〇〇秒]

 戻る/決定

【注意】決定後は変更できません。


 トケイちゃんの頭の上にメッセージが表示される。

 フェアリーさんを見るとニコって笑った。

 わたしはドンドン不安になって行く。

 ドキドキが収まらない。

 わたしはを入力して、決定キーを押した。

 わたしは選択を失敗した。

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