第14話 足でかせぐ人

 西暦二〇二五年 一二月三日 水曜日


「とりあえずオレのロングソードと刀直しに行くでいいか盾騎士たてきし

 刀剣とうけんくんはスゴイ、まるで当たり前のように斧田盾騎士おのだたてきしくんにそう話す。

 わたしたちは川沿いを橋えと歩き、駅へと向かっていた。

 そこは斧田騎士くんが使うバスが出る、ロータリーのあるバスターミナルがあった。

「ちょっと待てオラ! なんで俺がお前のロングソードとか刀とか直しに行く前提なんだ!」

 斧田盾騎士くんは当たり前のように口が悪い、わたしなんかなれてきた。

「盾騎士君も『ワールドシミュレーター・マジカルアース』やってるでしょ?」

 空手からてちゃんが言って初めて知った、斧田盾騎士くんもワールドシミュレーター・マジカルアースやってるんだ。

「やってて悪いか、なんで知ってんだ、俺を監視してんのかぁ⁉」

 盾騎士くんも魔法世界に来てたんだ!

 わたしは突然盾騎士くんに親近感をもった。

「前に教室で攻略動画見てたろ」

 刀剣くんと盾騎士くんは同じクラス?

「テメークラス違うだろなんで知ってんだオラッ!」

「B組みに同じ中学の女子がいて空手がそいつから聞いたんだ」

八花真帆子はっかまほこか? あのメガネおんなあとで、メガネぶち割るぞ」

「女の子のメガネ割ってはイケないわ盾騎士君」

(確かに!)

「本気で割るかワレェ! あと誰のでもメガネを割ったらダメだろがボケ‼」

(割ったらダメ!)

「知ってる、ボケてみた」

(空手ちゃんのボケだった‼)

 なんだか空手ちゃんも刀剣くんも盾騎士くんも仲良しだ。

 わたしは背の高い三人の中で一番小さいし、わたしだけ川南高校の白のブレザー制服、三人は黒に臙脂えんじのラインの入った私立川乃北高校のセーラー服と学ラン、四人並んで歩いているとわたしだけ仲間はずれみたい……。

「わたしメガネ持ってる、かけて来ようか?」

(話に入りたい!)

「割ってほしいのかワレッ!」

「ダメよ盾騎士君」

「わかってるわボケ! 実際にはわらねーんだよ‼」

時子ときこのはメガネファッションメガネだから、レンズないの!」

「どの道割れねーんじゃねーか! フレームねじ切るぞ‼」

(フレームねじ切る発想はなかった!)

「まあ怖い!」

 空手ちゃんが口に手をあてわざとらしく驚く。

「盾騎士の職業はツッコミ師だったのか?」

「誰がツッコミ師だ、こちとら高校生と重装甲騎士じゃボケ!」

(盾騎士くんは重装甲騎士だった!)

「盾騎士君は武装は何持ってるの?」

「斧だボケ!」

(完全に前衛盾職、うちのパーティーに不足してる職業、タンクの人だ!)

 斧田盾騎士くんをうちのパーティーに勧誘しなくては。

 わたしはそう思った。


 *


 駅へ向かう橋を渡る。

「それでなオレのログインソードと刀なんだけど、鬼族の村に行こうと思ってるんだ」

 鬼族は剣技に長けた剣士が多くの、その村にはタタラ場があり、刀や剣を作っているらしい。

「ああ、確か鬼族の村で打ち直すと物理攻撃が一〇パーは上がるって話だな」

 盾騎士くんが普通に話出した、ゲームの話が好きなんだ。

「私のガントレットも上がるの?」

 空手ちゃんが盾騎士くんに聞く、いつもは刀剣くんに聞くのに。

「刃物じゃないと無理じゃね? ガントレットって打撃武器じゃねーか」

「やっぱり、ヨロイ系だよね」

「ヨロイだったらいい店知ってるけど、ガントレットとブーツの専門店の方がいいかもな」

「そんな専門店あるの?」

 空手ちゃんが驚く。

「あのゲームNPCエヌピーシーが自分で考えてドンドン町を変化させてくるからな、わけわからん店とかあるぞ、オレこの前、ドワーフの隠れ里で戦斧の専門店見つけたゼ」

「盾騎士、時計職人の町にそんなのあったか?」

 刀剣くんも知らないんだ。

「どこ? 時計台の神殿の時計職人の町、チクタクタウンでしょ?」

「ちげーよ、時計台の町から森に入れるだろ?」

「盾騎士、どこだよそれ!」

「……そんな道あったかしら?」

「ネットに頼らず足で稼げよお前ら」

(盾騎士くんはやり込むタイプだ……)

「高原のはしに少し森があって、そこに偏屈ものの鍛冶屋のドワーフがいんだよ、前はあの町のドワーフはみんな鍛冶屋だったんだけど、時計やからくりのほうが儲かるからそっちに町が変わっていったらしい」

「時計とか誰が買うの? 冒険者にしてみれば時計より、武器でしょ?」

「はっ⁉ お前らわかってねーな、魔法世界じゃオレら別世界人、アナザリアンより魔法世界人マジカリタのほうが多いんだぞ、だれが市場を支配してるってマジカリタだろ?」

「そいえばエルフさんが時計買ってたの見たよ」

「市場経済が独自に回ってるってわかってるつもりだったけど、私達、冒険者は市場規模としては小さいのね」

「オレもコンパスのペンダント買ったしな」

「コンパスのペンダント? お前らGPSジーピーエス付きかよ、どんだけ仲良しなんだよ、キモいぞ!」

「へへへ」

 わたしは嬉しそうにテレて笑った。

「時子が迷うんだよ……」

「この前壁抜けしてた……」

「コイツゲームでも迷うの?」

 刀剣くん、空手ちゃん、盾騎士くんが可哀想子を見る目でわたしを見下ろす。

「へへへ……」

 なんか悲しい。

「そもそもゲームじゃ戦斧より剣の方が売れるしな、その偏屈ドワーフも生活費の大半は普通の斧で稼いで戦斧派趣味とか言ってたし……」

 身も蓋もない。


 *


「時子、猫が居ても走んなよ」

 もうすぐ昨日トラックに引かれそうになった横断歩道。

 刀剣くんがわたしに声をかける。

 少し早歩きなわたしは少し前に出てしまう。

「ハイハイわたしと手をつないで!」

 空手ちゃんがわたしの右手をとる。

 わたしは思わず盾騎士くんを見上げる。

「繋がねーよ! 仲良しかよ‼」

(そっか……)

 なんかガッカリ?

「盾騎士、オレら居ない時は時子見ててやってくれよ」

 刀剣くんの声が少し真剣になる。

「……なんでだよ」

 盾騎士くんも少し静か。

「まあ、時子もちっちゃい子供じゃないし、なんとかなんとかなるでしょ」

 空手ちゃんはなんだか無理に心配しないフリしてるみたい。

「……ごめんなさい」

 わたしはとてもとても心配されている。

 わたしはそれが嬉しいけど、たぶん空手ちゃんとかはこんな感じに心配されない。

 わたしはもう少ししっかりしないと。

 もう少ししっかりしないとみんなと一緒に歩けなくなると思った。

 もう少しで今日もお別れ、駅舎が見える。


 *


「じゃ、盾騎士、後でな」

「盾騎士君、私達ガレキ村の神殿にログインしてそこか鬼族の村に行くからそこで落合ましょ」

「直接合わないとフレンドリスト登録出来ないからまずフレンド登録だね」

「俺は行かねーつってんだろ、お前らだけでやってろ!」

 バスターミナルの花壇で盾騎士くんを見送る。

「とりあえず、オレたちのアドレス交換しとくぞ」

「オレのスマホ‼」

 刀剣くんがは盾騎士くんのスマートフォンを取り出してた。

(早業‼)

「私と時子ちゃんのも入れとくから」

「勝手にいれんな‼」

「うれしいくせに男子ーー」

「嬉しくねー‼」

(友達増えた‼)

 アドレス交換イコール友だち‼

「じゃ、マジカルアースで会おうね盾騎士くん!」

 わたしは初めて声に出して盾騎士くんって呼んだ。

「えっ? あっ、ああ……」

 盾騎士くんは素っ気なくそう答えた。

 盾騎士くん、来てくれたらいいな。

 わたしは並ぶバスに乗る盾騎士くんに手を振って空手ちゃんと刀剣くんと駅舎へむかった。

 わたしが「盾騎士くん来るかな」と空手ちゃんと刀剣くんに聞くと「きっと来る」と言ってくれた。

(そうだといいな……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る