第13話 県立川南高校の南川野さんと私立川乃北高校の三人
西暦二〇二五年 一二月三日 水曜日
「おはよう
「お……おはよう
わたしはまだその学校に馴染めないでいた。
別にいじめられてるとかじゃない。
去年建て替えられたばかりの明るくてキレイな校舎、優しい先生、馴染めていないわたしに今でも声をかけてくれるクラスメイトの女の子、
肩までの柔らかな髪が素敵な女の子。
真っ白なブレザーに灰色のスカート、ピンクのリボンがとっても似合ってる。
ボランティア部に所属して、ボランティア活動とかしてるみたい。
こんなわたしにもとても優しい。
でもわたしは空手ちゃんや刀剣くんがいないこの場所がいやで……まるでココが現実じゃ無いみたいって思っていた。
ゲームの人とはお話出来るのに……。
でもNPCの人もこっちの人もなんか変わらなく見える……。
「はぁ、ちゃんとお友達つくらないと……」
こんな事考えてる時点でダメだ……。
「ん?」
校庭にワンちゃんが‼
わたしは一番後ろの窓際の席でその子に気づく。
どうしよう今すぐ校庭に出てモフりたい。
ダメだ、変な子だと思われたら中学の時みたいに変人さん扱いされてしまう……。
「ワンちゃんかわいい」
かん高い声でクラスメイトの女の子が窓に駆け寄る。
「ホント、どこの犬だろ?」
南川野優子さんがその子に近づく。
「どれどれ」
「ホントだ、結構デカイぞ!」
クラスメイトの男子も窓よる。
わたしたち女のコと同じ色のさくら色のネクタイと灰色のズボン、何でだろ男の子たちが子供っぽく感じる。
刀剣くんが世話やきのせいかな?
(わ、わたしも見に行こうかな……)
わたしはクラスメイトがわらわらと集まった窓際の人のスキマからワンちゃんを見た。
わたしの高校生活の静かな一ページ。
人見知りをなおそう……。
わたしは視線を感じてそちらを見る南野優子ちゃんがこっちを見ていた。
わたしは恥ずかしくなって下を向き、自分の机に帰った。
人見知り治すのはすぐには無理そう。
*
「あっ、空手ちゃん!」
わたしは顔がパッて明るくなる。
「時子ちゃーーん!」
空手ちゃんがわたしを抱きしめる。
なんか空手ちゃんいつもいいニオイがする。
わたしも朝はお風呂しようかな?
「時子今日も来たな、迷わなかったか?」
刀剣くんが学ランの肩に手をやり革のスクールバッグを持ってる。
「私だって毎日は迷わないよ」
今日は学校にワンちゃんが入って来ただけで他は何もなかった。
ワンちゃんが下校時間までいたら飼い主さん探しに行くところだった。
あのワンちゃん近所のワンちゃんだったのかな?
「どけよ他校生、毎日来てんじゃねーぞオラッ!」
「あっ、
斧田盾騎士くんがお堀と小さな橋のある校門前で話してたわたしたちの間にワザと割って入る。
「通行の邪魔なんだよ
うう、確かに邪魔だったかも?
「ごめん……」
「いちいちあやまんなウゼー!」
斧田盾騎士くんがなんか照れくさそうに怒る。
ではどうしろと?
「盾騎士、オマエバスだろ? 一緒に帰ろうぜ」
刀剣くん⁉ なっ、なんで‼
「そうね、盾騎士君は私達と……イエ、時子と一緒に帰るべきね‼」
空手ちゃんまで、ナニユエそのような事をおっしゃられる⁉
「なっ、なんで俺が
何かとかヒドイ、斧田盾騎士‼
そしてなんで赤くなる?
「――イヤ、オマエ一緒が良くて声かけて来たんじゃ無いのか?」
そんなわけない!
「そうね、下駄箱で私達を見てたし……」
斧田盾騎士は空手ちゃんと刀剣くんのストーカーさん⁉
「空手ちゃん刀剣くんアブナイ!」
わたしは勇気を振り絞った。
振り絞った結界、空手ちゃんと刀剣くんと斧田盾騎士くんの間に入り手を広げて二人を守った。
「はぁっ⁉」
斧田盾騎士くんがわけわからんって顔をしてる。
わけわかんないのはコッチの方だ。
「じゃこの並びで帰りましょうか?」
「そうだな、丁度いい」
川側から刀剣くん空手ちゃんわたし、道路側に斧田盾騎士くん……。
何が?
*
「知ってるかあのトラック?」
刀剣くんが今朝新聞に載ってた記事の話をしてきた。
昨日の横断歩道で猫に駆け寄ったわたしを引きかけた信号無視トラック。
「あのあとで事故にあったらしいわね、朝のテレビでやってた」
あっ、テレビでもやってたんだ、わたし、朝はおじいちゃんと新聞派だ。
「自業自得だ、そいつ信号無視して走ったり蛇行運転してたんだろ? ネットで叩かれてたぜ、ザマァ!」
「……そだね」
わたしは普通はそう思うよねってうなだれる。
斧田盾騎士くんは正しい。
「まぁ、誰も引いてねーし、怪我して入院くらいで済んでマシなんじゃネーの? 生きてりゃ人生やり直せるんだからな」
「そっ、そだね!」
斧田盾騎士くん意外と優しい?
「それにネットの奴らトラックの運転席死んだ方が世のためとかなんとか、死んでいい命なんか無いっツーの! ぶっ殺すぞオラッ‼」
斧田盾騎士くんやっぱり優しくない⁉
死んでいい命なんか無いのにぶっ殺すはおかしい‼
(この人わけわかんない……)
「とりあえず誰も死なんで良かったって言いたいんだろ盾騎士は」
翻訳ありがとう刀剣くん!
「盾騎士君はもっと素直に気持ちを表現する方法を学びなさい」
その通りだよ空手ちゃん!
「斧田盾騎士ー、わかりやすく話してー、わたしバカだからわかんないんだよー」
変われ! 斧田盾騎士くん‼
「ウッセー! バーカ! それと自分の事をバカとか言うなボケ‼」
「ヒドイ斧田盾騎士」
自分でバカ呼ばわりしておいて、バカとか言うなって、自己矛盾して生きるスタイル⁉
それが斧田盾騎士の生き方?
「刀剣くん翻訳お願い……」
わたしは刀剣くんが必要です。
「あのな時子、盾騎士はこう言いたいんだ、時子が自分をバカって言ったのが時子自身に自己肯定感が無いのが問題だって、
わかりやすい刀剣くん!
「説明すんなオラ‼」
斧田盾騎士くんはテレ屋さん?
「そだね、盾騎士君は『お前をバカと呼んでいいのは俺だけだゼッ!』とか思ってる支配欲の強い男って事よ、時子ちゃん気をつけて!」
「ちげーよ‼」
空手ちゃん、なんか楽しそう?
斧田盾騎士くんはわけわからんです!
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