第12話 ログアウトの夜と次の日の朝
西暦二〇二五年 一二月二日 火曜日
時子:冒険楽しかったね。
空手:そうね時子ちゃん。
刀剣:また時子は迷ったけどな。
時子:今日は迷ってないよ、落ちただけ!
空手:そうね、迷ってはないわね。
刀剣:空手は時子を甘やかせ過ぎる。
空手:ゲームなんだからいろんな事があったほうが面白いし、あれがダンゴムシ戦のイベントだったのかもしれないわ。
刀剣:あり得るな……。
時子:わたしのおかげだね。
空手:そうかもね時子ちゃん。
刀剣:納得いかねー!
時子:明日もゲームする?
空手:私はいいわよ。
刀剣:オレもいい。
時子:じゃ明日もゲームね、学校迎えに行くね。
空手:時子ちゃん車に気をつけてね。
刀剣:動物見ても追っかけるなよ!
時子:わかった!
空手:きっと時子ちゃんわかって無い。
刀剣:ああわかって無いな。
時子:うう、少しだけ気をつける。
空手:少しだけね。
刀剣:本当に少しでも気をつけてくれ。
時子:わかった……。
空手:じゃ、トウケン、時子ちゃんおやすみなさい。
刀剣:空手おやすみ、時子、速く寝ろよ。
時子:空手ちゃんおやすみなさい、トウケンくんおやすみなさい。
わたしはログアウトして空手ちゃんと刀剣くんにおやすみのメールをスマートフォンでした。
明日になる前に寝なきゃ!
*
西暦二〇二五年 一二月三日 水曜日
「おはようおばあちゃん!」
「おはよう、時子」
わたしが白のブレザー制服に着替て眠い目をこすりながらお台所に行くとおばあちゃんがお味噌汁を作っていた。
冬の寒い日、灯油のストーブとコンロの上で湯気を出すお味噌汁でお台所は温度と湿度が少し上がっていた。
「あっ、おじいちゃんおはよう、新聞なに?」
「おはよう時子、新聞か?」
おじいちゃんは湯のみに入った
「うん、新聞なにのってる?」
「そうだな、トラックの事故かな……」
「事故あったん?」
「ほら写真が載っとる」
「コレ昨日のトラックかも?」
「時子をひきかけたやつか?」
「たぶん……」
よく見るタイプの大きなトラックだったけど、運転席の後ろに大きな緑のお父さんカエルと黄色のお母さんカエル、青いお兄ちゃんカエルとピンクの妹カエルのぬいぐるみがドデーンと並んで乗っていてそれを覚えていた。
「どうしたんトラック?」
「ずっと
「寝てなかったんかなー」
「まあ、家族とかいれば無理もする」
「お父さんとお母さんとお兄ちゃんと妹?」
「さあな、そうかもしれんが、事情は人それぞれだ」
「トラックの運転手さんケガ大丈夫?」
「時子はトラックの人が心配なのか?」
「うーん……」
わたしは事故は悪い事だとわかっていたので心配してるとはいえなかった。
「骨折で入院だからな、まあ大丈夫とは言えんが誰もひいてないし、しばらくしてケガが治れば帰るだろう、警察にこってり絞られてな」
「良かった、わたし顔洗って来る!」
わたしは鼻の奥がツンってしたので顔を洗おうとお風呂の洗面台に行こうと思ったけど、寒そうなのでお台所の瞬間湯沸かし器に向かう。
「なあばあさんや……時子は優し過ぎんか? ワシはトラックの運ちゃんは自業自得だとしか思わんかったわ」
「時子ちゃんはいっぱい考えてしまう子だから……」
おばあちゃんとおじいちゃんの心配そうなの声が悲しくなる。
心配させたらダメだ。
カチャン! ジャー!
カチャン! ジャー!
カチャンカチャン!
カチャンカチャン! ジャーー!
「ん? ん? ……おばあちゃんお湯でない! ロボ太こわれた‼」
「はあっ⁉」
おじいちゃんが変な声をあげる。
「ああ時子ちゃん、電池が切れたんよ、お仏壇の引き出しに懐中電灯と一緒に入ってるから持っておいで」
「はーーい!」
「時子ちゃーーん! 単一電池よーー!」
わたしは仏壇のある大きな和室に向かった。
*
「おばあちゃん、持って来たよ」
わたしはタタミにくつ下を滑らせながら走ってお仏壇まで電池を取りに行き、バタバタと慌てて戻って来た。
「時子ちゃん、自分でしてみてごらん?」
「どうやんのおばあちゃん?」
「ほら、下ん所に電池入れるフタあるでしょ、そこにプラスとマイナスって描いてあるからその方向に入れな」
「あっ、あった! やってみる!」
わたしは電池のフタを開けてもといた電池を取り出す。
「ばーさんや、ロボ太ってなんじゃ?」
「ああ、瞬間湯沸かし器の事ですよ、ほら顔がロボットみたいでしょう?」
「はあっ?」
「ほら、火のつく所の窓が目でスイッチの丸いのが口ですよ」
「時子が名前つけたんか?」
「ええ、時子ちゃんあっちこっちに名前つけてますよ、ほらそこの灯油のファンヒーターはトウユちゃんですよ」
「まんまだな……」
「ええ、まんまです、ふふふ」
「えーと、プラスがこっちでマイナスがこっち……」
おばあちゃんとおじいちゃんがうしろで話してるけど、今はそれどころじゃない。
お湯が出ないと、冷たくて顔が洗えない。
「あの子は大丈夫なのか?」
ふと振り返るとおじいちゃんがひきつった顔でおばあちゃんを見ていた。
(失礼な!)
「大丈夫ですよ、昔からあんなですけど、ちゃんと生きてますから」
おばあちゃんも結構失礼な事を言ってる気がする。
「出来た!」
カチャン! ボッ! ジャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼
バシャバシャ!
バシャバシャ!
バシャ!
「おばあちゃんタオルーー!」
「ハイハイ」
おばあちゃんが少しかたくてなったタオルをくれた。
わたしはそのタオルでワシワシ顔を拭く。
*
「おばあちゃん、ご飯なに」
わたしは白いブレザーの制服にポタポタと水滴の跡を落としたまま、おじいちゃんの新聞の邪魔にならないように正面の席に座った。
「お豆腐とワカメとオアゲの味噌汁とご飯だけど、昨日のおイモご飯、冷凍したからレンジでチンできますよ」
おばあちゃんは先にお味噌汁とお箸をわたしの前に置く。
「おイモさんご飯!」
わたしはアツアツのお味噌汁をお箸をお椀に親指で固定しながら飲んだ。
ズズズ。
「はー、美味しいーー」
「じゃあ、チンしますね、おじいさんはどうします?」
おばあちゃんはお茶碗サイズにラップでまとめたおイモさんご飯をレンジに入れてダイアルを回す。
電子レンジの中でおイモさんご飯が回る。
「ワシはふつーのコメでいい、時子がイモ好きだろう、取っといてやれ」
「おイモ好きーー!」
おじいちゃんは白湯を飲みほし、新聞をたたむ。
チン!
「ハイ時子ちゃん」
おばあちゃんがダチョウ親子のお茶碗にホクホクのおイモご飯をのっけてわたしに渡してくれた。
「おばあちゃん、お味噌汁おかわりー」
「ハイハイ、おじいさんもお味噌汁どうぞ」
おばあちゃんはおじいちゃんの前にお味噌汁とご飯を置く。
そして私からうるし塗りお椀を受け取るお味噌汁をついで自分のご飯とお味噌汁をよそう。
朝はいつもこんな感じ、いつもと同じ普通の朝。
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