第11話 鉄壁ダンゴムシ

 魔法歴二〇二五年 一二月二日 第二曜日


「イテテ、大丈夫か二人とも……」

「私は大丈夫」

「トキコはどうした?」

「えっ⁉ トキコちゃん! トキコちゃん‼」


 *


「はーい美味しいでチュね~美味しいでチュね~!」

 わたしは後ろから聞こえて来るカラテちゃんとトウケンくんの声を無視してネズミに夢中だった。

 そう二匹のハラヘリキンゾクネズミである。

 ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ。

 ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ。

 わたしはガレキの洞窟から美味しそうな金属をみつくろってハラヘリキンゾクネズミに与えていた。

 先に捕まえた白いのはシロちゃん、後で捕まえた灰色の麻呂眉まろまゆのはマロちゃん。

 わたしはガレキの地ベタに寝そべってシロちゃんとマロちゃんを見つめる。

「シロちゃんはボルトがだいちゅきなんでチュね〜、マロちゃんは銅線でチュか〜?」

 わたしは食べるのに夢中なシロちゃんとマロちゃんの鼻を人差し指をでトントンって撫でる。

 わたしは今、シロちゃんとマロちゃんに夢中だ。

「トキコちゃん‼」

「トキコ‼」

(え?)

 なんかカラテちゃんとトウケンくん怒ってる?

「トキコちゃんはどうしてそんなに落ち着きが無いの?」

 カラテちゃん、わたしつい面白そうなの見つけるとそれ以外は見えなくなるの……。

「ホントだよ! 命に関わる落ち着きのなさだ!」

 トウケンくん、命なんて大げさだよ、まだ死んだ事ないし……これからも……は、わかんないけど。


 *


「あっ、そうだ! ココどこだろ? ずいぶんと沈んじゃったけど……」

 わたしは話をそらすためにヒザをはたいて立上りまわりを見渡した。

 そこはかなり広い空間だった。

 ハラヘリキンゾクネズミのシロちゃんとマロちゃんはわたしを気に入ったらしくマントの内側に潜り込み肩や魔女帽子のツバの上をお気に入りの場所とした。

「トキコちゃん話をそらさないで!」

「そうだぞトキコ、オマエ特に動物と絡むとヒドイぞ!」

(ううっ……)

 チッ、チッ、チッ。

 チュー、チュー、チュー。

(何?)

 シロちゃんとマロちゃんが肩で鳴き、わたしの顔をしきりに手、前足? でペチペチする。

 後ろが気になるみたい。

 わたしは後ろを振り返った。

「あっ!」

「何トキコちゃ……」

「トキコ……カラテ……構えろ、ヤルぞ……」

 そこには中に浮くダンゴムシがその沢山の足をウニウニと動かしていた。

 防御系特化、物理防御の精霊、鉄壁ダンゴムシだ。


 *


 鉄壁ダンゴムシ、リベット打ちの金属装甲をまとったそのバスケットボールより大きなその虫はイカクをするように頭を上げ、そのお腹に見えるし無数の足をウニウニと動かしていた。

 一見精霊はこの魔法世界の動物、わたしの背中に居るハラヘリキンゾクネズミと同じ魔法世界の動物と変わらないように見えるが、精霊と動物には決定的な違いがある。

 それは精霊が基本霊体で中に浮いているという事だ。

 ダンゴムシの姿をしている鉄壁ダンゴムシも主体は霊体であり、異空間から召喚や顕現けんげんした時点でその存在を維持するために実体化する、つまり精霊は実体の皮を被ってるお化けみたいなもので、本体である霊体か顕現に必要な実体のどちらかを失うと異次元に分散して帰るしかなくなるのだ。

 わたしたちは気づくのが遅かったせいで先制攻撃をされる。

 鉄壁ダンゴムシは弱そうなわたしを狙い攻撃をしかえる。

 鉄壁ダンゴムシが丸まり、回転しながらすごい勢いでわたしに飛んで来る。

「トキコちゃんアブナイ‼」

 ドカッ‼

「ううっ‼」

「カラテちゃん‼」

 カラテちゃんが銀のガントレットをクロスして構え、わたしへの攻撃を防いでくれた。

 鉄壁ダンゴムシがすぐさま二撃目にうつる。

 カラテちゃんは体制が崩れて動けない。

 鉄壁ダンゴムシがまたわたしに丸まって飛んで来る。

「うらっ‼」

 ガリリッ‼

 今度はトウケンくん剣と刀をクロスしてわたしを護る。

「ちいぃ! 刀の刃がかけた‼」

「トウケンくん大丈夫?」

「ダメ! トキコちゃん、さがって‼」

 わたしはトウケンを心配して駆け寄ろうとするがカラテちゃんがわたしをとめる。

「トキコ、カラテ、さがって魔法攻撃! コイツ物理攻撃がほとんど効かないんだ‼」

 トウケンくんは鉄壁ダンゴムシの攻撃を受けた瞬間カウンターで切りつけたが鉄壁ダンゴムシにダメージはなかった。

「オレは剣と刀で二人を護るからオマエらは魔法攻撃でコイツをなんとかしろ‼」

 トウケンくんの刀もロングソードもたったの一撃で刃が沢山かけていた。

「トキコ、私は聖なる光でダンゴムシの霊体に直接ダメージ与えるから、トキコは実体化した所を狙って!」

 精霊はこちらに召喚した時点で実体をもっていて物理攻撃、実体への魔法攻撃も有効だ。

 トウケンくんの攻撃はかたくて効かなかったけど……。

「わかった!」

 カラテちゃんが銀のガントレットの手を合わせ指を組み祈りの言葉を捧げる。


「私は祈りを捧げます、癒やしの女神の名において、清めの力をお与え下さい、神の浄化、ピュリフィケーション!」


 鉄壁ダンゴムシの霊体に聖なる光が天から降り注ぐ。

 僧侶の使う神聖魔法はイニシエの神様に祈りを捧げ使う聖なる魔法。

 聖なる光、それは攻撃の意思ある霊体にほど強いダメージをあたえてくれた。

 カラテちゃんの神聖魔法は護りの魔法なのだ。

「トキコちゃん今‼」

 鉄壁ダンゴムシが神聖魔法の聖なる光で動きをとめて丸くなり防御態勢をとった。

「わかった‼ カラテちゃん‼」


「光の精霊よ、浮き水晶よ、契約に従い我の元へ来たれ! 我が名はトキコ、そなたはシラタマ!」


 わたしは光の精霊、シラタマちゃんを召喚した。

「シラタマちゃん! レーザー光線‼」

 光の精霊シラタマちゃんが自身が発する光を集束しゅうそくさせ、ひとすじの光を放つ。

 光は丸まり防御する鉄壁ダンゴムシの装甲に当たりビカビカと装甲に反応する。

「効いてるのか?」

 トウケンくんがシラタマちゃんが放ったレーザー光線の光に目を細め、様子をうかがう。

「見てトウケン、ダンゴムシの装甲ドンドン赤くなってる!」

 装甲自体は頑丈でも装甲が熱くなり中に熱が通れば鉄壁ダンゴムシもただでは済まない。

「いけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーシラタマちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん‼」

 光の精霊シラタマちゃんはわたしの声にこたえるように、光を強くしてくれた。

 鉄壁ダンゴムシは実体化を解き霊体を青い光の粒と化して飛散させた。

 わたしたちの勝利である。


 *


 カチャカチャと足音をたて鉄壁ダンゴムシがわたしの目の前にまたあらわれる。

 戦うためではない。

 わたしは契約を交わすためだ。


「物理防御の精霊、鉄壁ダンゴムシ、我と解約せよ、我とともに生きよ、我とともに世界のことわりを護れ、我が名はトキコ、そなたの名はオダンゴ」


 わたしは鉄壁ダンゴムシにオダンゴちゃんと名付けた。

 物理防御の精霊、鉄壁ダンゴムシが仲間になった。


 *


「今日はこんな所だな」

「そうねもう二三時だもんね、帰らなきゃ」

「そだねカラテちゃんトウケンくん」

「今日は頑張ったなトキコ」

「ホント大戦果ね、トキコちゃん!」

「へへへへっ!」

 わたしは物理防御の精霊、鉄壁ダンゴムシのオダンゴちゃんを抱っこして、ガレキマウンテンの中でひろった魔獣、ハラヘリキンゾクネズミのシロちゃんとマロちゃんを両肩に乗せながら真っ白な歯を目一杯見せて笑った。


「私は祈りを捧げます、護りの女神の名において、脱出の力をお与え下さい、神の迷宮脱出 ダンジョンエスケープ!」


 カラテちゃんのダンジョンエスケープでガレキマウンテンダンジョンから脱出し、今日の冒険は終わった。

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