第10話 ガレキ村のゴブリンとガレキのダンジョン

 魔法歴二〇二五年 一二月二日 第二曜日


 鉄壁ダンゴムシ。

 トウケンくんが言うにはその子はチクタクタウンの南、ガレキ村にあるガレキマウンテン、そのダンジョンの奥深くに生息しているとの事だった。

 ガレキ村には千年前文明が遺した金属系のゴミの山、ガレキマウンテンがあり、チクタクタウンの時計やこの魔法世界にもある多くの機械製品に材料を提供していた。

「ねーねー、ゴブリンさん、鉄壁ダンゴムシって知ってる?」

 わたしは鍋みたいなヘルメットを被っている緑の人、ゴブリンさんを呼び止め話を聞いた。

 ゴブリンさんはわたしのお腹くらいの背丈からわたしを見上げて話し始める。

「ダンゴムシ、シッテル、ニシノスキマ、イル」

 ゴブリンさんはあまり人語ひとごが得意では無い。

 でもガレキ村のゴブリンさんは素材商人さんとも取引があり、ゴブリン以外の人にも慣れている。

 周りにはせわしなく働くゴブリンさんたちが沢山居た。

「どんな感じのところ?」

「ニシノスキマ、アシモトワルイ、オレタチ、アマリ、チカヅカナイ」

(ちょっと危ないんだ……)

「わかった、でもわたしたち、鉄壁ダンゴムシに用があるの、だから行くね」

「ネズミ、キヲツケロ、アイツ、キンゾクタベテ、アナ、クズス、アブナイ」

「わかった、ネズミに気をつけるね、ありがとうゴブリンさん」

「キニスルナ、ニンゲンサン」

 ゴブリンさんはガチャガチャとガレキをネコ車、荷物を運ぶ一輪車にのせて運んで行く。

 わたしが手を振るとゴブリンさんもワザワザ足を止めて手を振ってくれた。


 *


「トキコちゃんゴブリン怖くないの?」

 カラテちゃんがトウケンくんの影から出て来る。

「なんで? ゴブリンさんそこそこ言葉も通じるし、親切だよ」

 ゴブリンさんはその数を活かしてガレキマウンテンでガレキ集めの仕事をしている。

 とっても働き者だし、結構目ざとく希少金属や貴重な部品を発掘するらしい。

「そんなの? なんか私ゴブリンの顔怖いんだけど……」

「カラテちゃん、偏見良くないよ、カラテちゃんがローブの下に着てるスカートヒーロースーツとおんなじ緑だし、ゴブリンさんいい人だよ」

「お前、変なところで物怖じしないよな」

 トウケンくんがわたしの頭をワシワシ撫でた。

(なんだよトウケンくん!)

「それにしてもネズミに気をつけろってなんだろトウケン?」

「たぶんハラヘリキンゾクネズミだ、ハラヘリキンゾクネズミは腹を空かせると金属とかかじるんだ、そいつらのせいでたまに土の中で動けなくなつってるメカアントとか居るらしい」

「お腹すいたハラヘリネズミに食べられちゃったんだ……」

「ハラヘリキンゾクネズミなカラテ」

「細かいなトウケンは」

「仲間にできる? トウケンくん?」

 わたしはハツカネズミ飼いたかった小三の夏を思い出す。

「アイツはただ何でも食べる動物で精霊じゃないから無理!」

 トウケンくんは博識さん。

「そうなんだ~」

 わたしはガッカリさん。

「それにアイツら剣とか刀とかヨロイまで食うんだぞ、連れてなんて行けない」

 トウケンくんは腰の刀に手を当て、背中のロングソードを親指で指す。

「じゃ、私の銀のガントレットも危なそうね、トキコちゃん絶対見つけても連れてきちゃダメよ!」

「……わかった!」

 カラテちゃんとトウケンくんが顔を見合わせコイツわかって無いなって感じで私を見下ろした。


 *


「ココかなトウケンくん」

 沢山の金属部品で山ができたガレキマウンテン、その西側にはゴブリンさんが言った通りガレキのスキマ、人が立って通れるほどのスキマがあった。

「多分な、意外に深そうだな」

 トウケンくんがガレキのスキマを覗き込む。

 ガレキノスキマは少し下に傾斜していてそのスキマの奥は何かの電気部品の光で少し明るくなっていた。

「見てこのガレキ、なんだか手みたい」

 カラテちゃんがガレキの一部を指差す。

「本当だ、よく見るとこのガレキの山そこらじゅうに機械の出足が見える、パーツがデカすぎて同じ金属色だから気づかなかったんだ」

 カラテちゃんとトウケンくんが言うので、わたしもガレキの山を見上げる、おっきい人型ロボットのパーツで山ができたんだとわかった。

「ロボットおっきいね、カラテちゃん!」

 組み立てたらどのくらいの大きさなんだろ?

 わたしはカラテちゃんを見上げる。

「どれくらいの大きさだと思うトウケン?」

 トウケンくんに丸投げ。

「そうだな、四〇メートルから五〇メートルくらいかな? かなりデカイな……」

 トウケンくん人型ロボット好きかな?

「まあこうもバラバラだとどうしょうもないな、ただのスクラップ、まさにガレキだな」

 トウケンくんは人型ロボットイマイチみたい。

「そう……私ロボット乗ってみたかったな……」

 カラテちゃんは人型ロボット好きみたい。

「わたしもロボット乗りたいよ」

 ロボットの事はよくわかんないけど、カラテちゃんが好きならわたしも好き!

「そうよねロボット乗りたいよね! ロマンよね‼」

「うん、ロマン‼」

 わたしはよんわかんないロマンを夢見る。

「乗るタイプとは限らんだろ?」

「夢がないなトウケンは!」

 カラテちゃんはムッとする。

「そうだそうだ、トウケンくんは夢が無い‼」

 わたしはここぞとばかりにトウケンくんをせめ立てる。

「先に行くぞ二人とも」

 トウケンくんはわたしとカラテちゃんの事は気にもとめずサッサとガレキのスキマに入って行った。


 *


「トウケン、コレ深くない?」

 カラテちゃんがドンドンと下へと下がるガレキのスキマに不安を覚える。

 ガレキのスキマは部品の一部の青い光がもれていて金属の部品にその光がにぶく反射し結構明るかった。

「ギルドの情報じゃ、元々は深い渓谷があってその全てがガレキで埋まってる上に山が出来たそうだ」

 トウケンくんは事前準備バンタンだ!

 わたしはトウケンくん意外とビビリだからな、なんて思ったりした。

「あっ、なんか動いてる!」

 わたしは金属が積み重なった金属の壁のアイダに動く何かを見つけた。

 わたしはカラテちゃんとトウケンくんをスルリと追い越こす。

「ダメ! トキコちゃん‼」

「トキコ待て‼」

 カラテちゃんとトウケンくんが慌てて私をとめようと追いかける。

「ネズミ居た‼」

 わたしはちゅうちょなくガレキの奥に手を突っ込んでソレを引っ張り出した。

 ソレは体に生えている毛が針金みたいにチクチクする真っ白なネズミさんだった。

 わたしはハラヘリキンゾクネズミの手足を人差し指と中指、薬指と小指の間を使い起用にはさんでにぎつた。

 ハラヘリキンゾクネズミは身動きが取れない。

 ちっちゃい耳がピクピク動き、長いシッポがクルクルまわっていた。

「ハラヘリキンゾクネズミだ……」

「トウケン、確かハラヘリネズミって……」

「ハラヘリキンゾクネズミだよカラテ」

「そのハラヘリキンゾクネズミって、お腹すくと金属食べるんだよね」

「ああ、だから多分この辺りは……」

 カラテちゃんとトウケンくんの動きが途端に慎重になる。

「あっ、もう一匹いた!」

 わたしは仲間を心配して出て来たもう一匹のハラヘリキンゾクネズミも捕まえた。

 今度のは体が灰色に顔に麻呂眉まろまゆみたいな白い模様のあるやつだった。

 わたしは右手と左手にしっかりとハラヘリキンゾクネズミの手足をはさんで確保した。

 野生のトキコはネズミを逃さないのだ。

「なんか足元少しづつ沈んでないかカラテ?」

「コレまずいかもトウケン……」

 カラテちゃんとトウケンくんとが足元の違和感に気づく。

 わたしはカラテちゃんとトウケンくんにかわいいネズミちゃんを見せて、テヘっと笑った。

「トキコちゃん! 近づいちゃダメよって言ったのにーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」

「おかしなもんひろうなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」

「ごめんなさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい‼‼」

 わたしたちはガレキとともにガレキのダンジョンの奥深くに沈みこんでいった。

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