第9話 フィールドマップ戦

 魔法歴二〇二五年 一二月二日 第二曜日


 わたしたちはゴブリンたちの住む南の村、ブリキ村のブリキマウンテンに向かい歩いている途中だった。

「メカアントだカラテ!」

「お掃除ロボットっていい加減絶滅しないのかしら」

 カラテちゃんとトウケンくんが戦闘準備に入る。

 お掃除ロボットは人間をお掃除する為に作られた、千年前文明の遺産で、まだどこかで生産され続けてると噂の無人攻撃機だ。

 メカアントは六本足でわたしのお腹くらいの高さのある黒いアリ型お掃除ロボットだった。

「一匹なら楽勝だねカラテちゃん!」

「油断しちゃダメよトキコちゃん、仲間がまだ居るかも!」

「オレが斬りかかる! カラテはトキコの護衛、トキコはサーチの精霊魔法!」

 そう言ったトウケンくんはすでにメカアントに斬り掛かっていた。

 トウケンくんの右手のロングソードがメカアントの頭とともにメカアントゆいつの攻撃機関オオアゴを切り落とした。

「まだだ!」

 トウケンくんはさらに左手の刀を頭のあった首関節の下からその胸の動力部、魔法石へとその切っ先を突き上げた。

 トウケンくんの刀に「バチリ」とプラズマが走る。


「狩りの精霊よ、パラボラフクロウよ、契約に従い我の元へ来たれ! 我が名はトキコ、そなたはオサラ!」


 狩りの精霊さん、パラボラアンテナ顔に落書きみたいな大きな目のついたのパラボラフクロウのオサラちゃんが現れわたしの桃の木の杖の枝へととまる。

「オサラちゃん、お空から危ないやつがいないか見てきて!」

 わたしは桃の木の杖をパラボラフクロウのオサラちゃんごと高く持ち上げる。

 オサラちゃんはその勢いをたして太いカギヅメの足でジャンプして高く飛び立った。

 わたしはマジックウインドウを立ち上げる。

 マジックウインドウにはすでにオサラちゃんから送られた索敵画面さくてきがめんが表示されていた。

「トウケンくんまだメカアントがいる、この先に穴掘って隠れてる! 七匹! 土が少し盛り上がってるってオサラちゃんが! 待ち伏せだよ!」

「さっきのは斥候せっこうか!」

 トウケンくんが木の生い茂る街道の道を先に走る。

「トウケン気を付けて!」

 カラテちゃんはトウケンくんを一人行かせる。

「カラテちゃん、トウケンくんのところに行って、わたし大丈夫だよ」

 わたしは流石に七匹は数が多いと思い、カラテちゃんにトウケンくんを助けてと言う。

「だまってオレに任せろ、カラテ、トキコから離れんなよ‼」

 トウケンくんの目がチラチラと街道の左右を確認する、少し土の色がおかしかったらしい。

「まず右の四匹!」

 トウケンくんのロングソードが土の上から正確に四匹、首関節のあたりを斬りつける。

 メカアントが慌てて飛び出すがすでに頭が無い。

「次!」

 トウケンくんは頭を失ったメカアントは無視して、反対、左側に隠れるメカアントを狙う。

「あっ、メカアント出てきた‼」

 わたしがマジックウインドウ越しに状況を見てそのあたりに指を指す。

「大丈夫、トウケンならやれるわ」

 カラテちゃんはトウケンくんの勝利を疑わない。

「オレをやりたきゃ千匹連れて来い‼」

 トウケンくん強い!


 *


「こんなもんかな」

 トウケンくんがメカアント足関節の付け根の動力ケーブルを切りメカアントが自立出来なくして待っていた。

「魔法石は?」

「これから抜き取る」

 魔法石はお掃除ロボットに入っている動力ユニットで魔法の道具の材料になるため高い値段がつく。

 わたしたち別世界人、アナザリアンの冒険者も魔法世界人マジカリタの冒険者も、この魔法石とかを売ってお金を稼いでいる。

「まっ、メカアントだしこんなもんか」

 トウケンくんはメカアントの胸部を三角に切開して、その胸から一カラットも無いコハク色の動力魔法石を取り出した。

「あとは素材商人に任せよう、カラテ、サインしといてくれ」

「わかったわ」

 サインとは神官が使う聖なる契約魔法で、サインした物の所有権を示し、不当に持ち去ろうとしたものの良心を刺激してその行動を困難にする。

 強制道徳の魔法なのだ。

 神官様には逆らってはイケない!

「ねえ、トウケンくんあっちの魔法石は?」

「あっちのは、直接魔法石狙って砕いたから無理」

「なんで? もったいないよ?」

 わたしはストロベリーパフェ一週間分の魔法石がもったいないと思った。

 ちなみに一日四食計算だ。

「テキが何匹いるかわからない時はまず倒すのが基本なんだよ」

「そうよトキコちゃん、冒険は安全第一よ」  

 カラテちゃんもトウケンくんも結構慎重なんだ、わたしはゲームだからって思いつきで行動しすぎているかも?

 わたしはもっと安全第一で行こうと心に決めた。


 *


「あっなんかキレイな花がある! チョウチョも居るーーーー!」

 わたしは花とチョウチョに駆け寄る。

「待ってトキコちゃん! それ‼」

「バカトキコ! それ前も引っかかったやつだ‼」

 わたしはトウケンくんの言葉でソレを思い出しカラテちゃんとトウケンくんに振り返る。

 花とチョウチョはソレによって来た人間を仕留めるお掃除ロボット。

 わたしの後ろでその花とチョウチョはその正体たるメカツチグモの本体を土の中に掘った巣から這い出させた。

 お掃除ロボット、ハナチョウチョツチグモ、頭に花とチョウチョがくっついたタタミ2畳くらい茶色いクモ型ロボットだ。

「よけてトキコちゃん‼」

 カラテちゃんが駆け寄りわたしの頭の上を飛び越えると、そのまま落下速度と合わせてお掃除ロボット、ハナチョウチョツチグモの頭の上から垂直カカト落としをうちこんだ。

 銀装甲のブーツがキラリと輝く。

 ハナチョウチョツチグモはその人間用ルアーたる花とチョウチョを散らし、その八本の足をはやした丸い頭をベコリとクレーターのように沈ました。

「あーあ、コイツ結構デカイ魔法石入ってたのに……」

 トウケンくんが残念がる。

「安全第一よ! トキコちゃんの‼」

(カラテちゃん優しい!)

 わたしはもっともっと安全第一で行こうと心に決めた。

 たぶん……。

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