第8話 ドワーフお姉さんと作戦会議という名の食事会

 魔法歴二〇二五年 一二月二日 第二曜日


「私はチョコレートケーキとコーヒーを」

 カラテちゃんが現実世界でもよく食べているチョコレートケーキを注文した。

「わっわたし、ストロベリーパフェといちごオレ!」

 わたしはいつも現実世界ではあまり食べれないストロベリーパフェを頼む。

 わたし、ゲームの中くらい豪華に生きたい。

「お前ら栄養のバランスとか考えろ、食事は回復アイテムだぞ!」

 そう言うとトウケンくんはいつものあれを注文した。

「オレは生タマゴと生野菜のミックスジュースで‼」

 わたしもカラテちゃんも最近馴染みの店員さん、白いブラウスに鮮やかな花々の刺繍ししゅう入りの黒のコルセット、鮮やかな真っ赤なロングスカートに白いエプロンの民族衣装の制服のドワーフお姉さん、ネキ・エーデルワイスさんもすごい嫌な顔をした。

 ドワーフのお姉さんネキ・エーデルワイスさんはわたしの目線くらいの背丈ですごく筋肉質のドワーフ女性だ。

 この魔法世界、マジカルアースに居る人のほとんどはNPCエヌピーシー、ノンプレイヤーキャラクターのマジカリタでわたしたちのようなアナザリアンは少数派だ。

 ネキ・エーデルワイスさんのようなマジカリアンの人たちはAIエーアイの思考で一人一人独自に考え暮らし、そして彼女らは独立してちゃんと経済活動をしてしている。

 たぶんわたしたち別世界人、アナザリアンがいなくても彼女らは彼女らで生きていけるんだと思う。


 *


 時計台神殿のある大陸中央部のドワーフ族たちの住む小さな町チクタクタウン。

 わたしたちは作戦会議と称して町のレストラン、ドワーフ族が経営をするという『高原の腕っぷし乙女』に来ていた。

 ちなみにこの魔法世界、マジカルアースでは何かを食べないと体力値や精神力値が下り、食べていると体力や精神力の数値と、五十パーセントまでのダメージポイントが自然回復する。

 残念な事に五十パーセント未満のダメージは何らかの治療をしなければ自然回復しない。

(まっ死んでもこの世界では神殿で寿命まではよみがえるみたいなんだけどね)

 体力や精神力は技や魔法などを使うのに必要で自然回復には時間がかかる為、回復アイテムもダンジョン攻略とかをするわたしたちには必須だ。

 ステータスは大体の目安で、レベルかける十を、属性つまり職業によって体力と精神力に振り分け、レベルかける十わる三を筋力と魔力に振り分けられるって感じ。

 筋力や魔力は物理攻撃力や魔法攻撃力、物理防御力や魔法防御力に影響して、その力によって使える技や魔法が決まってくる。

 そのレベルの大きな技や魔法が三回分って感じの体力と精神力が基本みたい。

 実際には戦闘中も体力も精神力も自然回復するからそれ以上の技や魔法も使えるけど、それもちゃんと食事をとっているからこそなんだ。

(食事って大切!)


 *


「おまたせいたしました」

 ドワーフ民族衣装ウエイトレスのお姉さん、ネキ・スイスラントさんが料理を運んで来る。

「わー美味しそう!」

「……そうね」

 わたしはいつものように大げさに喜んでみる、そしてカラテちゃんはそれに付き合ってくれる。

「いや、味なんかしないだろ!」

(トウケンくんは付き合いが悪い……)

「いいんだよ、見た目美味しそうだし、見てるだけでも幸せになれるの!」

 わたしは甘いものが大好きだ、だからたとえゲームの中の食事でも甘く幸せなのが良い。

 パクりっ!

「美味しいい! 美味しいい!」

 手をブンブン振り喜ぶわたしを見てカラテちゃんが微笑む。

 まるでちっちゃいころ、おもちゃのケーキを食べるフリして喜ぶわたしを見るお母さんやおばあちゃんみたいだ。

「はぁ、まあトキコがそれでいいならいいさ」

 トウケンくんがガラスのジョッキいっぱいの生タマゴ生野菜ジュースに手をかける。

 ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴククゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク。

「プハーーーーーーーー! 身体にしみるぜ‼」

「…………」

「…………」

 わたしとカラテちゃんはその光景を見てるだけで気分が悪くなった。

「トウケン、タマゴには火をとうして食べなさいよ」

「そだよトウケンくん、せめて卵かけご飯にするとかさ」

 トウケンくんは魔法世界の食事を燃料補給かなんかだと思ってるみたい。

 わたしとカラテちゃんはたとえママゴトみたいな食事でもせめて美味しそうな見た目が良いと思った。

「何いってんだ? どうせ味なんてしないんだから効率重視だろ!」

 トウケンくんは身も蓋もない無いなって、わたしとカラテちゃんは思った。


 *


「今日はどうする?」

 食事こと、燃料補給を終えたトウケンくんは作戦会議に入る。

「そうね、トキコちゃんがハマったバグが気になるし、今日は他の所が良いかもね」

 カラテちゃんがチョコレートケーキを食べながら話す。

 カラテちゃんが食べてると、チョコレートケーキがとってもオシャレな食べ物に見える。

(チョコレートケーキ美味しそう……)

「トキコちゃんあ~ん」

 カラテちゃんが銀のフォークでチョコレートケーキを切り取りその切り取ったチョコレートケーキをフォークでさしてわたしに「あ~ん」してくれる。

 わたしはなんの躊躇ちゅうちょもせず口を開ける。

 パクりっ!

 なんか美味しい気がしてきた!

 カラテちゃんが一緒だとなんでも美味しい‼

「おい、まだ場所は決ってないけど戦闘あんだぞ! 人のカロリー食うなトキコ!」

「ハッ‼ ごめんなさいカラテちゃん‼ わたしのストロベリーパフェあげる‼」

 わたしはおっきな銀のスプーンでカットされたイチゴとアイスと生クリームをじょうずに取ってカラテちゃんに「あ~ん」した。

「ありがとねトキコちゃん」

 カラテちゃんは長い髪を少し避け、わたしが銀のスプーンの上に思いっきりのせてしまったストロベリーパフェを少し手こずりながら上から二回に分けて口に運んだ。


 *


「で、トウケン今日はどうするの? やっぱりトキコちゃん精霊召喚魔法、鏡アルマジロ狙い?」

 格闘神官のカラテちゃんが鬼族の鬼剣士トウケンくんに聞く。

 カラテちゃんはわたしが「あ~ん」してあげたストロベリーパフェのクリームを口のはしから小指ですくい取り口に運ぶ。

 たぶんAIがカラテちゃんのパーソナルテキストのデータから自動生成したリアクションだと思う。

 AIはキャラクターたちが魔法世界で不自然にならないようにパーソナルテキストのデータからその人がしそうな自然なリアクションを自動生成していた。

(ホントカラテちゃんがしそうなリアクションしてる……)

「いや、オレちょっとネットで調べたんだけどこの町の南、ガレキ村に居る、鉄壁ダンゴムシが先の方がいいらしい、鉄壁ダンゴムシは硬いけど、カラテ神聖魔法とトキコの召喚魔法でなんとかなりそうなんだ、それに鉄壁ダンゴムシは物理攻撃が使えるから鏡アルマジロの魔法反射に対抗できるらしい、カラテもそれでいいか?」

「いいわよ、トキコちゃん少しレベルが低いし、レベル上げも兼ねてその精霊倒して仲間にしましょう」

「じゃ、オレは二人の防御担当と言う事で」

 わたしはカラテちゃんとトウケンくんの会話を追加注文したオレンジジュースをすすりながら聞いた。

 ズズズズズズズズズズ

「トキコ、ちゃんと話聞いてたか?」

(トウケンくんがわたしに失礼だ!)

「トキコちゃんそれでいい?」

(カラテちゃんかわいい!)

「良いよカラテちゃん!」

 カラテちゃんとトウケンくんと居るとあんまり頭を使わなくていいから楽だ。

 次の冒険は鉄壁ダンゴムシを仲間にする事に決まった。

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