第6話 おじいちゃんとおばあちゃん
西暦二〇二五年 一二月二日 火曜日
「気をつけてね時子ちゃん」
空手ちゃんがわたしの手をとって
「本当に気を付けろよ時子、特に車にな!」
刀剣くんにはトラックの事もあって今日は念を押された。
「うん、気をつけるよ刀剣くん」
わたしはちゃんと反省した。
「じゃ、マジカルアースでな時子」
「うん、マジカルアースで刀剣くん」
刀剣くんが軽く手を振る。
「じや、空手ちゃん、マジカルアースで」
「うん、マジカルアースで……」
泣くフリだった空手ちゃんの目に少し涙があった。
わたしは空手ちゃんを怖がらせるような事をしたんだと、今度はちゃんと車に気をつけようと思い直した。
(ごめんなさい、空手ちゃん)
そしてわたしは城下町市の小さな駅舎に向かおうとするが思い出したように立ち止まる。
「日曜日マフラー買いに行こうね!」
わたしは笑顔で手を振る。
空手ちゃんも刀剣くんと手を振りかえしてくれた。
わたしの人生は楽しみがいっぱいだ、だから車には気を付けて生きよう。
*
「あっ、おじいちゃん」
電車を降りて
寒い中ずっと立ってたの?
わたしが通りすぎないため?
もう真っ暗だよ……。
「おじいちゃんずっと立ってたの?」
「そんなわけあるか、電車が来た時だけだ」
おじいちゃんは畑仕事で使う派手なオレンジ色のつなぎを着ていつも長靴履きだったおじいちゃんがペダル操作を謝らないようわたしがプレゼントした真っ赤なスニーカーを履いていた。
*
「あんまり年寄りを心配させるなよ、
「空手ちゃんが?」
(空手ちゃん優しい!)
「トラックにはねられそうだったって?」
(あっ、お小言だ……)
おじいちゃんは軽トラックを走らせながらチラリとわたしを見る。
「うん」
わたしは駅前からどんどん寂しくなっていく人のいない田畑の光景にドキドキする。
わたしは人がいないと不安になる。
電車に乗ってた時もつい民家の灯りを探す。
そこに人が居るとわたしは安心するのだ。
「反省してるのか?」
真っ直ぐ前を見ながらおじいちゃんはそう聞いた。
「うん」
わたしはおじいちゃんの声を聞いて、おばあちゃんも心配したんだろうなって思うと声が暗くなる。
「ならいい……」
おじいちゃんはまだいっぱい言いたい事があっただろうけどそう言うとだまって運転してくれた。
*
すりガラスの引き戸の玄関をガラガラと開けて、玄関先にある土間に入る。
農作業の土とか落とせるように、土間の直ぐ横にお風呂がある古い農家の家だ。
「ただいま、おばあちゃん……」
わたしは土間の先にあるお台所のガラスの引き戸を開けて夕食の用意をしてくれていたおばあちゃんち「だだいま」を言う。
「おかえり、時子ちゃん……」
おばあちゃんはほっと息をつく。
「ご飯出来てるよ、今日は時子ちゃんの好きなサツマイモご飯とサツマイモ入りの豚汁よ」
おばあちゃんはわたしが中学生の家庭科で作ったわたしとおそろいのピンクのエプロンを大切に着てくれている。
「ウチで取れたやつだうまいぞ時子」
おじいちゃんがサツマイモの自慢をする。
そこには私がお母さんと買ったお母さんダチョウが子供ダチョウと走る柄のわたしのお茶わんとキレイな
「時子ちゃん、今よそうからね」
「おばあちゃん、おイモいっぱいの所ちょうだい!」
「ハハハ、そういえば時子はイモの炊き込みご飯の時はしゃもじでイモの所を起用によって取ってたな」
おじいちゃんが小学校の時に泊まりに来てた時の事を思い出して笑った。
*
「美味しかったーー、おばあちゃんごちそうさまでした」
わたしはサツマイモご飯をおかわりして食べた。
「はいはい、おそまつさま」
おばあちゃんのご飯は『おそまつ』ではない!
「あっ、デメちゃんにご飯あげなきゃ!」
出目金のデメちゃんは洗面器くらいの大きさのある大きな金魚。
お庭の小さな池で鯉と一緒に鯉のエサで飼ってたらすごく大きくなった。
きっとデメちゃんは自分の事を鯉だと勘違いしてる。
「金魚のエサならワシがやっといた、もう暗いから今日はやめておきなさい」
「ありがとう、ごめんねおじいちゃん、デメちゃんのお世話はわたしの仕事なのに……」
「気にするな、困った時は助け合いだ」
おじいちゃんは食後のお茶をズズズとすすった。
「あっ! 空手ちゃんと刀剣くんとゲームする約束してた‼」
わたしは立ち上がる。
(あっ! 洗い物‼)
「おばあちゃん洗い物するーーーー‼」
わたしはあっちこっち思い付くまま動く。
「時子ちゃん、慌てたらダメよ」
おばあちゃんが心配そうに言う。
「そうだぞ時子、そんなだから道に迷うし、トラックにひかれそうにもなる」
おじいちゃんがお茶をまたズズズとすすりながら言う。
「うう……」
わたしの洗い物の手が止まる。
「おじいさん!」
おばあちゃんが優しくキレる。
「すまん……」
おじいちゃんはバツの悪そうにまたお茶をすする。
ズズズ
「時子ちゃん、友達は大切にしなさい」
おばあちゃんは空手ちゃんや刀剣がいつもわたしを助けてくれているのを知っている。
「うん」
*
「おばあちゃん、麦茶ーー!」
わたしはお風呂からお台所に駆け込む、お風呂のあとは麦茶。
ゲームする前にお風呂してさっぱりした‼
おばあちゃんとおじいちゃんの前にお母さんが送ってくれたキグルミパジャマのクマさんのご登場だ。
冷蔵庫からわが物顔で麦茶を取り出したクマさんは、ガラスのコップにまず一杯の麦茶を入れグビビっと飲み干す。
「あーっ! 美味しい‼」
そしてもう一杯入れるとそのままそのコップをもって二階の部屋にもってく。
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ。
「ハハハハ、クマが麦茶もって走って行った」
「フフフフ、本当に元気なクマちゃんね」
階段の下からおばあちゃんとおじいちゃんの笑い声が聞こえて来た。
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