第2話 出待ち

 西暦二〇二五年 一二月一日 月曜日


 トキコ:戻れた。ありがとトウケンくん。

 トウケン:今日はここまでだな。オレもカラテの『ダンジョンエスケープ』でこのダンジョンぬける。

 カラテ:トキコちゃんまた明日、また校門で待っててね。


 わたしは何時も切り損なうパッツン前髪のオデコで眉毛を苦もんさせ、空手からてちゃんと刀剣とうけんくんにゲーム内メール、フレンドメールを送った。

 空手ちゃんのマネして伸ばした髪がうつむこうとすると学習机の椅子の背もたれに挟まれてわたしを後ろにひっぱる。

 古い山間の田舎の家の窓からは冬のんだ空気の中で街灯の小さな明かりが見えた。

(また失敗しちゃった……)

 わたしはベッドまでフラフラと歩いて行って。

 バタンとそこに倒れ、枕に顔をうずめる。

(ゲームって大変……)

「ダメダメ‼」

 わたしは顔をうずめた枕を胸に抱えベッドで寝返りをうつ。

 わたしは天井の丸い蛍光灯の灯りを見つめる……。

「同じ高校行けなくって学校じゃ会えないんだもん、ゲーム頑張らないとわたしだけおいてかれちゃう……」

(おいてかれちゃうのヤダな……)

 わたしは友達って頑張るものじゃないと思ったけど、でも頑張ってでも友達でいたい人はいると思った。

 わたしは枕を元に戻し横向きに丸まって眠った。

 悲しい事考えてしまった時は、眠るのが一番だ。


 *


 西暦二〇二五年 一二月二日 火曜日


「まだかな~」

 わたしは白いブレザーと灰色のスカートピンクのリボンの制服を着て幼馴染の空手ちゃん刀剣くんの通う私立川乃北高校しりつかわのきたこうこうの敷地、元城だった名残を残す鯉のいるほりを小さな橋で渡った校門前に立って居た。

 全身黒に臙脂えんじのラインの入ったセーラーカラーの制服を着た川乃北高校の生徒たちがわたしの横を通り過ぎて行く。

 臙脂のタイが風に舞う。

 わたしは川乃北高校高校を見上げる、レンガ造りの校舎が中世ヨーロッパのお城のようにみえる。

(きっと『また来てる』とかウワサされてるんだろうな……)

 わたしは何時もチラチラ変な子がいると言う目で見られるのがイヤでイヤで仕方なかったが空手ちゃんと刀剣くんと面と向かってお話が出来るのは高校から駅までの間だけだったからそんな事は気にしないようにしていた。

(きっとわたしの自意識過剰なだけだ、きっとみんなわたしには興味がないんだ。)


「真帆子どうしたん?」

「あの子また来てる……」

「誰さん?」

迷路時子まよいみちときこ、中学一緒だった」

「なにしてんの?」

「中学時代の友達待ってるらしい」

「らしい?」

「同じ中学の子が言ってた……たぶん」

「……なぜココ受けなかったの?」

「受けたけど落ちたみたい」

「頭悪いの?」

「あんまり知らない」

「話さなくていいのか?」

「中二の終わりに隣町に引っ越したんだけどそんな仲良くなかった」

「そうなのか」


(メガネの人、元の中学のクラスメイトの子だ、名前は確か……八花はっかさん、もう一人は誰さんだろ?)

 クラスメイトの子かな?

 わたしは気まずくなってスマートフォンを取り出し、メールをしてるフリをした。

 わたしって結構薄情だな、八花さんはわたしのフルネーム覚えてくれてたのわたし八花さんの記憶がほとんど無い。

 なんかずっとパソコンの難しい本読んでたのだけ覚えてる。

(わたしがちゃんとお友達って言えるの空手ちゃんと刀剣くんだけなんだ……) 


 *


 空手ちゃんと刀剣くんとはわたしがまだこの街、城下町市じょうかまちしに住んで居た時に出会った。

 空手ちゃんのウチの小さな整骨院をしていて、お母さんの車が後ろから来た車に衝突されて首を悪くした時に何回か通ったのがきっかけだ。

 お母さんは無事だったけどお母さんはよく車で迷子になるから大変。

(お母さんは天然だ)

「あっ、迷路さん?」

瘉水いやしみず……さん?」

 お母さんと来た小さな整骨院の待合室で患者さんにお茶を運んでいたのがまだ小学生の空手ちゃんだった。

「あっこれ? おウチのお手伝い」

 空手ちゃんはお茶ののったお盆を片手に持ったまま頭を一回ゆらし、学校では下ろしているロングヘアをポニーテールにしているのを見せてくれた。

 今と同じくらいの冬の日、整骨院の待合室はとってもあったかかった。

 学校ではなんだかクール系美少女って感じがしていたので丁寧に「どうぞ」ってお手伝いをしている姿が意外だった。

 空手ちゃんはクラスで男の子にも女の子にも人気でわたしなんかはその輪から随分離れた所でなんとなしに話を聞く程度だった。

「迷路さん何処か悪いの?」

(ポニーテールかわいい)

 わたしは空手ちゃんのポニーテールに見とれていたが慌てて首をブンブンと振った。

「お母さんが……首……むちうちで……だから……」

 わたしは耳まで真っ赤にしてそう答えた、学校の外でクラスメイトに会うのがなんだか恥ずかしかった。

「そうなの? 私このあと刀剣と遊ぶんだけど一緒に遊ばない?」

 空手ちゃんはとたんにお手伝いモードから小学生の女の子に戻り、ウキウキと話た。

「刀剣って、あの赤い髪の男の子?」

 刀剣くんについてはわたしでも知っていた。

 赤い髪がとてもとても目立っていた。

 その当時のわたしは刀剣くんの事を何も知らないでその見た目からただ怖い男の子だと思っていた。

「そう、赤神刀剣あかがみとうけん、知ってる? あいつ鬼神様おにがみさまの子孫なんだってだから髪が赤いのよ」

 空ちゃんは口に人差し指を当てて『秘密だよ』って感じでかわいくウインクした。

(ウインクかわいい)

 わたしは空手ちゃんがとってもかわいい女の子だってわかった。

 わたしは空手ちゃんみたいになりたくなった。


 *


「お母さん、友達と遊んでいい?」

 わたしは診療室から出て来たお母さんに聞いてみた。

 わたしはお母さんの付き添いだったからお母さんの首が良くないとほおっておけなかった。

 お母さんはチラリと後ろの空手ちゃんを見る。

 空手ちゃんは軽くえしゃくをした。

「いいわよ、お母さん念のためタクシー呼ぶけど時子ちゃんは一人で帰れる? 迷わない?」

 お母さんは少しだけ心配していた。

「大丈夫! 近くだし歩いて帰れる‼」

 その時のわたしは空手ちゃんと遊べると思ってすごく嬉しそうな顔をしていたと思う。


 *


(空手ちゃん遅いな……)

「メールしょうかな!」

 わたしは昔を思い出して、少し寂しくて、早く空手ちゃんと話したくなった。

 しばらく校門で待っていたら、もう帰る生徒もいなくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る