第25章 壊滅の真実
その
「うぷぷっ。なんで急に止まるんだよ、野蛮人!」
が、すぐには返事がなく、やや
「すまぬ。道を間違えたようじゃ。この先は
自分の手が届く範囲ぐらいから先はまったく見えないこの『スヌヌスの闇』の中では、そう言われたところで、他の二人には確かめようもない。
「はあ?」
裏返ったような声で
「冗談じゃねえぞ! 人ひとりがやっと通れるこの細道で、どうやって行列をひっくり返すんだよ? それとも、このまんま逆方向に戻るとすると、おれが先頭かよ? おれは道なんかわからねえぞ。落ちたら、谷底に真っ逆さまじゃねえか!」
「心配いらぬ。ジッとしておれ。
そう告げるなり、ヌルシキは最小限の動きで反転し、四つん這いのブルシモンの上を
その際、意外に豊かな胸をブルシモンの背中に
四つん這いの姿勢で着地すると、首だけこちらに向け、赤い歯を見せて笑った。
「その場で前後反転し、ついて参れ。が、気を付けよ。あまり大きく横に動けば、谷底に落ちるぞえ。ふむ。南方人に
「ふん。おれだって、てめえのでけえ
ブルシモンも無言でそれに続く。
ところが、またすぐにヌルシキが止まり、首を
「はて? これはどうしたことであろう?」
鼻先がヌルシキの尻に
「て、てめえ、
と、今は最後尾に
「道に迷ったのか?」
らしくもない
「迷ってはおらぬ。いや、先ほどは道を間違えたのかと思うたが、
「どういうことだよ?」
それにヌルシキが答える前に、ブルシモンが
「
「今考えておるわい。うむ。多少遠回りにはなるが、昔使っていた旧道を通って行こう。この分岐点から行けるはずじゃ」
「
シンディーソの問い掛けには答えず、ヌルシキは
「すまんのう、婿殿。今しばらくの
「それは構わんが、こういうことはよくあるのか?」
「さあ、
再び闇の中を這いながら、ブルシモンはふと
「キゼアのように、魔道が使える人間を連れて来るべきだったな……」
そのキゼアたちは
ディリーヌが知っているという道は人の往来が
一行の先頭に立つビンチャオが、ディリーヌから返された剣で
いい加減
その後方を、残りの四名が周囲を警戒しながら歩いていた。
「いっそ、みんなで飛んだ方が速いんじゃねえか?」
不平そうに言うエティックに、
「すぐに見つかって、ヤシュナギール族の
自分の服が焼けたため、イレキュモスから予備の
「本当に、人間が人間を食べたりするのでしょうか?」
その質問には、用心のため最後尾を進んでいるディリーヌが答えた。
「ああ、本当だ。やつらは食料を
「へえ、何で娘だけなんだろ?」
訊いたのは無論エティックで、キゼアは
「知らん。恐らく、連中の信仰する神への
すると、珍しくキゼアが声を荒らげた。
「
それが聞こえたらしく、ビンチャオが手を止めて振り返り、声を上げて笑った。
「おまえらの住む旧アナン王国の守護神ジュラはそうかもしれんが、われらの神は常に戦士という生贄を求められているぞ。
眉のない顔で
「ちゃんと前を見ろ!」
同時に気配を感じたらしいビンチャオは、振り向きざまに持っている剣を水平に振るった。
「待ってくれ!」
ビンチャオの剣先を
「ほう。その
イレキュモスが指摘したように、全身の刺青や腰蓑はシーグ
男はガクガクと
「そうだ。あんたらがどういう人間かは知らんが、おれに
と、横に
「ふざけるな。おまえがシーグ人なら、今朝ベギン族の村で充分な食料を渡されたはずだ。それとも、もう全部喰ってしまったとでも言うのか?」
シーグ人の男は悲しげに首を振った。
「あんたの言うことが本当なら、おれは仲間と行き違ってしまったんだな。おれは先行してヤシュナギール遺跡へ向かった部隊の生き残りだ。ベギン族の村に残っているはずの仲間を探して歩き
「大事な食料を、おまえなんかにやれるか!」
ビンチャオが剣を振り上げたところへ、「まあ、待て」とディリーヌが声を掛けた。
「今は少しでも情報が欲しい。それに、わたしたちもここらで食事をして置かないと、途中で日が暮れてしまう。食べながら、その男の話を聞こうじゃないか」
「ふん! 勝手なことばかり言いおって。分隊長は、われだぞ」
男は兵士ではなく、
キゼアとエティックが調理した
……おれの専門は船旅の
本来なら上陸する立場じゃないんだが、隊長にえらく気に入られて、遺跡まで長旅になりそうだからと無理やり連れて行かれたのさ。
おれもヤシュナギール族の
が、自分の考えが甘かったとわかったのは、『人体の門』を見た時だ。
やつら、食べ残した人体の
おれは震え上がり、その場から走って逃げた。
どれくらい走ったのかわからねえが、後ろから大勢の悲鳴が聞こえ、すぐに
おれはしゃがみ込み、両手で耳を
だいぶ
そうだ。
それこそ『人体の門』だった。
しゃがみ込んでから立ち上がった際、方向がわからなくなって、元来た道を戻ってしまったんだ。
足が
おれもどうかしていたんだな。
まだ生き残った仲間がいるかもしれないと思い、声のする方へ歩き出した。
門を
いや、最初は仲間だと、わからなかったよ。
大きな岩のような白い
よく見れば、白いのは
恐ろしいことに五体満足な者は一人としておらず、片腕のない者、目を
そして、口が
ところがおれは、あまりに悲惨な仲間の姿に
と、「どうじゃ、美しいであろう?」という女の声がした。
振り返ると十二、三歳ぐらいの銀髪の少女が笑っていた。
その口に並ぶ歯は血を
おれは恐怖に声も出ず、震えながら頷いた。
少女は「ついて参れ」と告げるとおれの横を通り過ぎ、粘着する糸に自由を奪われている仲間たちの
「こうして置くと当分の間、
少女はニッと笑うと、塊から突き出している手に顔を近づけ、指の一本をカリリと
胸の悪くなるような絶叫が聞こえたが、少女は平気な顔でクチャクチャと指を
おれはもう
が、少女は
「ならば、おまえも指を一本
マセリというのが何かわからなかったが、おれは
少女が食べた手に顔を寄せると……。
「喰っちまったのか?」
嫌悪感を
横に座っていたキゼアに飛び掛かって背後から片腕で首を
「誰も動くなよ。この子供が死ぬことになるぞ」
あまりに一瞬の出来事に皆が
「こっちは四人だ。とても逃げきれんぞ」
男は狂気を
「わかってるさ。おれも逃げる気なんかない。どうせもう、普通に生きることはできないと、さっき雑穀粥を喰ってみてわかったんだ。こんな
声も出せずに目を
「キゼア、発火せよ!」
直後、空気が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます