第24章 異世界の迷宮
キゼアたちがオルジボセ号から救出された頃、ブルシモンとシンディーソの二人は案内されたヤシュナギール遺跡を前にして
「何をそんなに驚いておるのじゃ?」
巨大なマセリに
「はあ? これが驚かずにいられるかよ! 古代ツェウィナ人が
シンディーソが
そこにあるのは、人の
周辺には何もなく、雑草が伸び放題である。
いや、草は土塁の上にも
「ほう?
真っ赤に染めた歯を
「この
が、ブルシモンがシンディーソの前に回り込み、両手を広げて立ち
「よさんか。
「穴? 穴がどうしたって?」
改めて土塁の穴を見たシンディーソの顔から、スーッと怒りの色が消えて行った。
土塁の周辺は明るい陽光に
「どうなってんだ?」
目を細めて
「何なら手を差し入れてみても良いぞえ。おお、心配せずとも、
シンディーソの
その視線の先にある穴は、入口からすぐに闇に閉ざされており、まるで濃密な暗黒そのものに
しかし、シンディーソが
「ならば、おれが試してみよう」
シンディーソに
「げっ!」
声を上げたのは、
見れば、ブルシモンの手首から先が消失している。
が、ブルシモン自身は顔色一つ変えず、「
と、消えていた手首から先が元通りになっていた。
振り返ったブルシモンは、岩のような顔に微笑を浮かべて「心配ない」とシンディーソに告げると、ヌルシキを見上げた。
「黒い
ヌルシキの十代のまま変わらない美しい顔が、
「さすが
ヌルシキはマセリの背中をホトホトと
穴の前に立つと、
「これより妾が中へ
「わかった」
即答したのはブルシモンで、シンディーソは大きく
ブルシモンの提案で、全員紐を胴体に
すると、首だけ振り向いたヌルシキが「あれ、
「婿殿に尻を向けてすまぬのう。が、それもまた
確かに、
が、
「そろそろ行こうじゃないか。案内を頼む」
ヌルシキは軽く鼻を鳴らすと、「ついて参れ」と告げ、這いながら穴へ入って行った。
その頭部が消え、両腕が消え、左右に
ブルシモンが見えなくなると、シンディーソは
「え?」
見えているのは、直前を這っているブルシモンの、
「な、なんでえ、ここは……」
別に問い掛けた
「ここはスヌヌスの闇よ。
ブルシモンが話の内容ではなく、別のことに反応した。
「声が全然響かぬな。
ヌルシキが少女のように笑ったが、その笑い声もまったく反響しない。
「おお、さすが婿殿。スヌヌスの闇を良く理解しておる。試しに周囲を
「わかった」
シンディーソの目の前で、ブルシモンはドカリと尻を地面に
「むっ」
いっぱいに伸ばした腕の先で指をヒラヒラさせたが、何も
シンディーソが「なんでえ、立って歩けるじゃねえか」と立ち上がろうとすると、ブルシモンから「待て」と声が掛かった。
ブルシモンが両腕を徐々に下ろして行くと、座っている地面の高さを通り過ぎ、肩から垂直の位置になってやっと止まった。
「ほう。手の感触だけで言うと、切り立った
「見事じゃ、婿殿!」
皮肉ではなく、心から
「
「じょ、冗談じゃねえや」
震える声を出したのは無論シンディーソであり、ブルシモンは落ち着いて
「ずっとこの細い道なのか?」
「いやいや。もう少し進めば広い場所に出る。そこからは立って歩けるし、何なら妾を
「ともかく先へ進もう」
その頃、漁港で一人待つビンチャオは、殺された五人の部下を
「おまえたちの
ヤンルーでは、戦死した人間はそのまま天国へ行くが、このように不名誉な死に方をした者は、
フーッと息を
「……遅いな。まさか、逃げたんじゃ……。おっ、あれは」
ビンチャオの鋭い視線の先に、飛んで来る人間の姿があった。
「ん?
それはキゼアとエティックであった。
キゼアは全裸の上にディリーヌの
砂浜まで降りて
「
キゼアが答える前に、負けじとエティックが叫び返した。
「
「何だと、
そのままなら確実に
その
エティックと喧嘩になりかけていたことも忘れたように、ビンチャオはキゼアに近づいた。
「なんだ、こいつ? ん? うっ、こ、これは……」
「へっ。大きければ、いいというものじゃないぞ」
これを耳にしたエティックは思わず失笑したが、すぐに「いや、笑い事じゃねえや」と首を振った。
「ビンチャオのおっさん、聞いてくれ! おいらにもどうしたらいいのかよくわからねえが、少し
「あ、ああ」
結局、誰かが中身だけ食べたらしい
そのお
同時に気絶からも
が、二人は軽く
「一応、二人は無事に救出できたが、ちょっとやり過ぎたかもしれん。
ビンチャオは「だろうな」と苦笑した。
「ディリーヌが乗り込んで、
勢い込むビンチャオを、そのディリーヌが笑って止めた。
「まあ、待て。
一方、ブルシモンとシンディーソを送り出したフェケルノ帝国の派遣部隊は、
皆から一人離れ、地面に直接
「……ったく、どうでしょう、わたしの部下たちの冷たいこと。隊長たるわたしに食事を
ちょうど宰相ダナルークの悪口を言っている時に
「……ああ、違います、違います。決して宰相
その男は焦点の合わない目でこちらを見ていたが、クルリと
それが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます