第23章 炎師の系譜
「トドメはそれぞれの剣で刺されているが、全員その前に後ろから棒のようなもので
「
「に、してもじゃ」
口を
「残っている足跡から見て、大勢の人間が森から来て海の方へ向かったのは確かじゃ。しかも、この足並みの乱れ方は訓練を受けた兵士ではあるまい」
「じゃあ、誰だ?」
眉のない顔に
「確たる証拠はないが、心当たりはある」
「おまえの仲間か!」
今にも剣を抜きそうに
「仲間ではないが、同国人だろう」
「ほう、フェケルノ帝国の人間かの?」
横から
「ああ。わたしたちが密航したオルジボセ号がそろそろ港に着く
ビンチャオも少し落ち着きを取り戻し、腕組みをして首を
「それを幸いと船奴が
それを考えるのも、本来は分隊長たるビンチャオの役目である。
文句を言いながらもすっかりディリーヌを当てにしているようだ。
ディリーヌも特に
「船奴たちは亡命を希望したはず。戻れば確実に殺されるからな。子供二人は人質、というより、
「囮?」
「囮とは?」
「ああ。キゼアとエティックよりも、オルジボセ号の連中にとって報復したい相手はわたしだろう。行きがかりとはいえ、脱出の際に
「ならば、どうする?」
聞いたのはビンチャオだが、ディリーヌはイレキュモスに向かって答えた。
「
当然ビンチャオが自分も行くと言い張ったが、大人二人を抱えては自由に飛べないとイレキュモスに断られた。
「ほう。おまえたち、そのまま逃げる気だな?」
「逃げはせぬ。キゼアとエティックを無事に取り返せたとしても、オルジボセ号そのものを奪うのは無理だ。二人をここへ連れ戻り、共に本来の使命を果たすまでのこと。わたしとて、古代ツェウィナ人の秘宝に興味はあるからな。まあ、その後、南大陸へ帰る方法については、別に考えねばならんが」
その頃オルジボセ号の
二人は
船長は
「ふん。二人ともまだ希望は失っていないようだな。まあ、風師イレキュモスと女剣士ディリーヌがいずれ助けにくると信じているんだろ? わしもそうさ。早く助けに来てくれぬかと、そわそわして落ち着かねえんだ。ちょうど、小海老を釣り針に付け、でっけえ魚を釣り上げようとしてる時の気分だぜ」
少年二人の顔に驚きが走るのを見て、船長の笑みが深くなった。
「そうとも。おめえたちの事情はみんなわかってる。出航前にサモゾフの野郎から、こんなものが入った箱が届いたのさ……」
船長が口を
「……そうさ。あのサモゾフは密告
船長が笑うと、口の中の紅蜘蛛も
それと
「……ああ、今まで泳がせていた
キゼアたちには知る
紅蜘蛛が体外に出た瞬間、船長の体はグッタリとなったが、大きな
が、
その
すぐにキゼアの尻に目的のものを見つけたらしく、割れ目の部分の布が
キゼアの顔に
異変に気付いたエティックは、
と、その時。
「!」
声にならない
炎は
全身を炎に包まれたキゼアは立ち上がり、口から猿轡の残骸を
「ひゅららるるるいいいいいいんっ!」
同時に尻の穴から何か焼け焦げたものを、ボトリとひり出した。
ブスブスと
「キゼア、正気を取り戻すんじゃ!」
姿こそ見えないが、その声はイレキュモスのものだ。
イレキュモスの呼び掛けの効果か、キゼアを包む炎が
直後、ダーンと甲板が
「寄らば斬る!
その間に自分の猿轡を
が、「今は近づいてはならん!」とイレキュモスの
「じゃあ、どうすりゃいいだよ!」
エティックの泣き
「気を
「……風師?」
直後キゼアを包む炎が見る
が、一か所だけ少年らしからぬ部分があった。
「お、おいらのよりでけえや」
「これを着ろ!」
ディリーヌが
女にしては
一方、上半身が胸に巻いた
「エティックを連れて飛べるか?」
「あ、はい!」
「では、先に漁港へ戻れ! わたしたちもすぐに
その頃には船員たちも多少冷静さを取り戻し、「逃がすかよ!」「船長に何をしやがった!」「血祭りにしてやる!」などと口々に叫びながら、武器を手にこちらを
「くそっ、おいらも残って
「ここで闘っても意味はない。ディリーヌのはあくまでも時間
イレキュモスの言葉が終わらぬうちに「熱っ!」と叫び声が上がったが、それはエティックではなく、気絶していたはずの船長であった。
いつの間に目が
が、炎が消えたとはいえ、まだ熱かったらしい。
イレキュモスは「言わんこっちゃない」と苦笑した。
「エティックも直接キゼアの
「ああ、そうするよ! 行こうぜ、キゼア!」
まだ
「よし、行こう、エティック!」
その横で、
「わしは何をしていたんだ?」
同じ頃、フェケルノ帝国の帝都ヒロールの東区にあるフェティヌール
場所は『
部屋の正面の大きな机の後ろには、壁面を
黒い
「待たせたね」
不意に声がして、足音も立てずにフェティヌールが入って来た。
皇帝家の血筋を思わせる
そのままフワリと正面の机の椅子に座ると、フウと
「おまえに預けていた紅蜘蛛が、つい先ほど死んだよ」
サモゾフの冷たい表情には少しの動揺もなく、唇には薄く笑みすら浮かんでいる。
「ほう。イレキュモスに見つかってしまったのですね」
フェティヌールの美しい眉が寄った。
「いや。そうではないようだ。
初めてサモゾフの表情が動いた。
「まさか、
「わからぬ。が、その可能性があるなら、放っては置けない。おまえも北大陸へ渡りなさい」
「ははっ、
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