第22章 遺跡の守護神
ヤシュナギール族の族長だというヌルシキという少女の言葉に、ブルシモンは
「族長があんたのような美少女とは恐れ入ったな。が、おれは
ヌルシキは鼻を鳴らしたが、「良かろう」と
「おぬしの
クルリと背中を向けたヌルシキの
「……ったく。おれだって晩飯のネタにする
良く
シンディーソは軽く
途中、族長のヌルシキ以外のヤシュナギール族は一切姿を見せず、シンディーソは時折
「ここが
そう言ってヌルシキが
「……これって、まさか……」
思わず
改めて近くで見ると、ヌルシキの歯が赤いのは
「そうじゃ。おぬしが想像したとおり、この天幕の素材は人間の皮じゃ。人間の体というものは、
中には太い
ヌルシキは「
その楕円形の盃を見たブルシモンは、「ほう」と声を上げた。
「話には聞いたことがあるが、本物は初めて目にした。
ヌルシキは
髑髏杯とは、人間の頭蓋骨を加工して盃にしたものである。
ヌルシキは相手を
「心配せずとも、普通の酒じゃ。ふむ。ならば、妾が先に飲んでみしょう」
ヌルシキは自分の髑髏杯を手に取ると、クイッと一気に飲み
ブルシモンは「毒ではないようだが」と苦笑した。
「民族の
が、逆にヌルシキが鼻で
「
横で聞いているシンディーソも改めてヌルシキに目を向けたが、どう見ても十代前半ぐらいの美少女である。
ブルシモンも太い首を
「見た目に
ヌルシキは大きく口を開けて笑った。
「思い切ったのう。が、まだ半分にも
「そ、そんな
大きな声を上げたのはシンディーソの方である。
スッと笑顔を消してそちらをギロリと
「あまりくだらぬことをほざくと、酒のつまみにするぞえ。が、まあ、ブルシモンに
ブルシモンは唇を
「ふう。
「じゃろう? まあ、この際じゃから、南方人も飲むが良い」
シンディーソは
「あれ? 旨いじゃねえか」
驚くシンディーソには構わず、
「いきなり
ヌルシキは
「これこれ、そう
あからさまに言われ、
「まあ、そういうことだ。あんたらの
ヌルシキの笑みが深くなった。
「
黙って成り行きを見ていたシンディーソが「あ」と声を出してしまい、
断っているかのように
ブルシモンも表情を改めた。
「
鼻に
「何の、ちゃんと土産を持って来ておるではないか。この先の草原にのう」
ブルシモンは薄い灰色の目を
「いや、最低限の水と食料しか持って来て……。ああっ、
急に大声を出して立ち上がったブルシモンに、追い
「何が駄目じゃ? 百人もおるのじゃから、三分の一ぐらい
二人が何の交渉をしているのか気づいたシンディーソが、「げっ」と
ブルシモンもごつい額に汗を
「あんたたちの慣習は知っているが、おれたちにはおれたちの風俗習慣がある。人間は喰い物じゃない」
真っ赤な歯を見せて、ヌルシキは
「いいや、人間は喰いものさね。ああ、無論、妾たちも同族は喰わぬさ。が、ヤシュナギール族以外の人間は、牛や豚と変わらぬ食料じゃ。考えてもみよ。世の中には、牛や豚が
立ち上がったまま歯を喰い
「言いたいことはわかった。が、それは絶対できぬ。
ヌルシキの少女のような美しい顔に、一瞬だけ老婆のような
「いいじゃろう。先日馬で乗り付けた
ヌルシキは美しく長い銀髪をかき上げ、銀色の瞳でブルシモンの目を
「おぬしが妾の
意外にも、ブルシモンは即答した。
「それで百名の命が助かるなら、その条件を
ヌルシキはブルシモンの真意を読み取ろうとするかのように、自然の岩石のような顔を穴が
「良い
「
横でホーッと長い息を
続いて出ようとするブルシモンの
「いいのか?」
「仕方あるまい。あのマセリという怪物相手では、百名でも
冗談とも本気ともつかぬ笑顔で答えると、ブルシモンは「
「密談かえ?」
ヌルシキの声が予想外に高い位置から聞こえたため二人が驚いて顔を上げると、怪物マセリの背中に
「本当は歩く方が速いのじゃが、マセリが
確かに、
しかも、そのブヨブヨした白い
横をついて歩きながら、ブルシモンは
「マセリはどうやって戦う?」
ヌルシキは声を上げて笑った。
「疑問は
すると、金属を
白いものは空中で網のように広がり、岩をスッポリと
ヌルシキは「おお、良い子じゃ」とマセリの背中を
「マセリの
うんざりした顔で黙り込んでしまったブルシモンの代わりに、シンディーソが
「随分と
ヌルシキの顔から笑みが消え、氷の
群衆はヤシュナギール族の戦士であるらしく、ブルシモンとシンディーソを
「やめぬか!」
ヌルシキが戦士たちに命じると、全員の足がピタリと止まった。
族長であり、最高位の
「
他の戦士からも「そうだ!」「そうだ!」と応ずる声があり、ヌルシキは軽く舌打ちしたが、声を張って告げた。
「家畜以下の南方人の
戦士たちは
いつでも戦えるよう
「すまぬ。無礼の段はおれが
ヌルシキはフッと笑い「案ずるな」と
「婿どのを悲しませるようなことはせぬ。おお、それに、疑問を感じたのはおぬしも同じであろう? が、心配は無用じゃ。マセリが妾を裏切るようなことはない。
「どういう意味だ?」
聞いたのはシンディーソであったが、ヌルシキはブルシモンに向かって答えた。
「マセリは六十年に一度成虫となり、人間の
真っ赤な歯を見せて笑うヌルシキは、
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