第21章 食人族の美姫
仲間が全滅したと聞いた瞬間、巨体に
報復に向かうのかと思いきや、まだ近くにいたダン少年を
あまりに突然で
その
父親のダスタニが少し震える声で
「まあ、落ち着け。別に
「
「それは誤解じゃ」
やや気の抜けた声で割って入ったのは、
「途中、
「何者とは誰だ!」
「人質なら、わたしがなろう。子供を
「ぬかせ! おまえのように
「ならば、人質はわしで良かろう」
そう言ったのは今度はイレキュモスではなく、長老のタルザノの
「見てのとおり、わしは一人では歩けぬ年寄りだ。それに、村の背後の森に
その言葉の意味合いがビンチャオに浸透するのを待って、横からイレキュモスが口を
「おぬしの部下を襲ったのが何者かは知らんが、シーグ人たちでないことは確かじゃ。つまり、森にはまだシーグ人がおり、人数もここにおるわしら全員より多いということになる。
ビンチャオは一つ息を
が、剣は抜き
それには再びタルザノが答えた。
「おまえたちは仲間の行方を
ビンチャオの決断は早かった。
「いいだろう。兵士はともかく、
「ちょっと待て!」
「
ビンチャオは
「仕方あるまい。いずれにせよ、シーグ人たちに疑われぬよう、
「約束する。子供二人を無事に救出できれば、だがな」
その頃、
奪われたヤンルー船に乗っている
逆に、気絶から
「!」
こちらを睨みながらも、棒付き雑巾で休まずに甲板を
と、船員たちの話し声が聞こえてきたため、キゼアは
「よし。ヤンルー船は
「で、
「うーん、そうさなあ。まあ、亡命させるかどうかの判断は、国に戻ってから
「
「いや、
ガヤガヤと
「寝たふりなんかしゅるんじゃねえ」
空気の
「……むぁ?」
猿轡の
口髭の長男は、前歯の欠けた口を開いて笑った。
「いい表情をしゅるじゃねえか。まあ、手足を
その時、「おい、歯なしのチウチニッケ!
一方、怪物マセリに
平野が多い南大陸に比べ、
「帝国軍の
薄い灰色の目を細めて兵士たち見ていた副隊長のブルシモンは、苦笑して太い肩を竦めた。
「そうかな? おれは逆に
「見直した? どういう意味です?」
「軍の
カランは鼻を鳴らした。
「皮肉ですね?」
「いやいや、本気さ。その証拠に、見たところ
改めて兵士たちを見回して、カランの
「確かに。前進しか知らぬヤンルー軍などに比べ、わが軍は後退も得意と言われていますね。まあ、それこそ皮肉ですが。で、これからどうします?」
本来それを決めるのは隊長たるカランの役目であるが、聞かれたブルシモンも当然のように答えた。
「今のところ、情報が少なすぎる。ヤシュナギール族についても、怪物マセリについても、まだ何もわかっていない。
ブルシモンの視線を
「で、ですが、わたしに万一ことでもあれば、部隊を
自分の極端に短く
「別におまえを当てにしちゃいないさ。おれ一人で充分、と言いたいところだが、それこそ万一の場合に何が起きたのかわからないままになる。そうさなあ……うん、そうだ。
「えっ、シンディーソ
「おいおい、おまえは隊長じゃないか。しかも、これは
カランは自分のボサボサの髪に両手を突っ込み、大きな
「仕方ありません。一応頼んではみますが、どうなっても知りませんよ」
カランに呼び出されたシンディーソ軍曹は、意外にもあっさり引き受けた。
「この時点で斥候が必要なのは、兵法の初歩の初歩だ。隊長が何も言わなきゃ、こっちから進言しようと思ってたくらいさ」
「いいのですか?
シンディーソは鼻で
「そんなの関係ねえよ。この斥候は
カランは顔色を赤くしたたり青くしたりして聞いていたが、最終的には感情を失くしたような声で「それではすぐに準備しなさい」と
その
「おれが見込んだとおりだな。なあに、逃げる時はおれも一緒さ」
野営の準備が続く中、ブルシモンとシンディーソは出発した。
並んで歩くと背の高さはほぼ同じだが、肩幅は倍近く違う。
二人とも軽装で、武器も短剣一本ずつである。
「ここから少し右だったな」
「ああ」
ブルシモンは決して上官ぶらず、シンディーソも一切
と、前方にあの
さすがにもう血は乾いているようだが、バラバラに切断された腕や
「この門をどう思う?」
ブルシモンに
「
「怪しいとは?」
「あんただってわかってるだろ? 門といったって、左右に壁も何もねえ。まあ、宗教的な意味合いはあるのかもしれねえが、別に門を
ブルシモンも笑いながら重ねて
「罠とは?」
「知らねえよ。が、まあ、恐らくは落とし穴が掘ってあって、底にはビッシリ
ブルシモンは
「違いない。ならば、堂々と門を通ってやろう」
「
二人が並んで門を通り過ぎると、道の向こう側からブヨブヨした白い
が、ブルシモンはそちらを見ず、大きな声で呼び掛けた。
「ヤシュナギール族の族長と話したい! おれはフェケルノ帝国のブルシモンという者だ!」
シンディーソは小声で「
「もう少し待て。見たところ、あいつはあれで全速力みたいだ。いつでも逃げられる」
「けどよ」
思わず声が大きくなったシンディーソが自分の口を押えた時、マセリの
「マセリ、マセリ、お
シンディーソが
と、マセリの蠕動が止まり、大顎もピタリと閉じ、声を掛けた人物が陰から出て来た。
相手を
それは、この世の者とも思えぬ美しい顔をした銀髪の少女であったが、大の男二人を黙らせたのは、その細い首に掛かっている
元々目があった部分と口の
少女は不自然に赤い唇を開いてニッと笑ったが、その本来白いはずの歯は、
「族長に
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