第18章 海賊の裔
「妙だな……」
そう
思わぬ敵の出現と部下の暴走に
「何がですかっ!」
ブルシモンはそれが聞こえなかったように考え込んでいたが、もう一度聞かれる前に「うむ」と
「見てみろ、連中の服装を。
「だから何なんです!」
「爺いと中年男以外、
カランの
「贋者? どういう意味です?」
「言ったとおりの意味さ。遠くて良く見えんが、兵士の顔立ちも北大陸のものとは違うようだ」
「はあ? じゃ、どこの人間だと言うのです?」
「北大陸でなけりゃ、南大陸ってことになるな」
「えっ。じゃ、ヤンルー連合王国ですか?」
カランは反射的に、現在も
「いや。ヤンルー人ならもっと大柄だ。爺いと中年男に比べてもやや小柄だから、南大陸西部の人間だろう」
「と、いうことは、シーグ
ブルシモンは鼻で笑った。
「決まってるだろう。フェケルノ帝国が北大陸へ向けて小隊規模の派兵をしようとしてるんだぜ。ヤンルーもシーグも
「そんな……」
カランの言葉を
「聞こえぬのか!
「その神が
相手側の声が
壮年の男は
「話し合いがしたい! そちらの代表二名のみ、武器を持たずに
「了解した!」
即答してしまったブルシモンは、苦笑しつつカランに聞いた。
「おれは行くが、おまえはどうする?」
カランは
「これから副隊長と二人で話し合いに
桟橋に横付けした船から
ちょうど桟橋の中央
改めて向き合うと、壮年の男が「ほう」と声を上げた。
「やはりな。
多少
ブルシモンは笑顔を見せず、軽く
「ああ。この見た目では
すると、老人が「よいよい」と口を
「南だろうが北だろうが、わしらは皆古代ツェウィナ人の血を引く者。南洋の海賊の
「そうですとも! わたしたちフェケルノ帝国の者も、遠い祖先は北大陸から渡って来たとされています。それに引き
壮年の男が苦笑しながら「連中に聞こえるぞ」と
「そこにいる二十騎以外に、われらの村に十騎残っているのだ。交渉をしくじれば、村の者が殺される。ここは大人しく引き下がってくれ」
文句を言おうとするカランを
「何か
それには老人の方が答えた。
「
思いがけぬ提案であったが、ブルシモンはあっさり受け入れた。
「
銀髪の壮年が笑顔で答えた。
「構わぬ。われらベギン族とフェケルノとの交易は、神君アクティヌス帝の
ブルシモンも
「その時にはおれたちも
「わ、わたしが隊長のカランです!」
「長老のタルザノさまだ」
シーグ人たちに
「どうした?
カランは
「心配事ですって? わたしは逆に、何か安心できる材料はないものかと考えていたのですよ」
「ふむ。まあ、おれの見たところ、ダスタニもタルザノも、信用できる人間だと思うが」
「そんなことわかってます。家族や友人が人質に取られている状況で、わたしたちに協力してくれたのですから。しかし、シーグ酋長国連邦の目的は何でしょう?」
「決まってるじゃないか。おれたちと同じさ」
カランはさりげなく、近くに人がいないことを確認した。
「つまり、古代ツェウィナ人の秘宝、ですね」
「ああ。
「そ、それじゃ、わたしたちも急がないと!」
「長老のタルザノが言ってただろう?
「えっ、どんな噂ですか?」
「あいつらは……」
気を持たせるように
「……人間を
三日掛けて東の岬を廻り、ベギン族の漁港から上陸したブルシモンたちが陸路を行軍し始めた頃、ヤンルー連合王国の船も
「今のところ、航海は順調だね」
与えられた船室で
「途中でビンチャオの眉なし野郎が何か仕掛けて来るんじゃねえかと期待したけど、すっかり大人しくなっちまって、おいら、ちょっくら退屈だぜ」
「それは
そう評したのは、風師イレキュモスである。
「おまえもディリーヌを
イレキュモスが言うように、ディリーヌは部屋の
が、エティックは鼻を鳴らし、不平を述べた。
「ディリーヌが手取り足取り教えてくれりゃ、おいらだってやるさ。けど、『自分で考えてやれ』としか言わねえんだもん。ブルシモン先生とは大違いさ」
ディリーヌは見えない相手を
「基礎訓練に王道はない。単純な動きを
急に名前を出されてキゼアが困惑していると、乱暴に部屋の
「われだ、ビンチャオだ!
ディリーヌとエティックは剣を受け取ったが、イレキュモスとキゼアは素手のまま甲板へ出た。
が、こちらの船の何倍も大きいようだ。
「どこの船でしょう?」
「
エティックが「なんだ、ヤンルーの味方じゃねえか」と笑ったが、ビンチャオは
「それなら船旗を出すだろうし、こちらに何か合図を送るはずだ。このままでは航路が交差するからな。最悪、
「
そう評したのはディリーヌで、当然ビンチャオは顔色を変えたが、深呼吸して何とか
「ともかく、相手の
「ならば、わしが行って用件を聞いて来よう」
すぐにでも飛び立とうとするイレキュモスを、ビンチャオが「
「風師に万一のことがあっては、無理をして船出した意味がない」
イレキュモスは腰の高さまで浮き上がった状態で肩を
「じゃが、互いに声が届くまで接近してからでは逃げられんぞ」
「ぼくが行きます!」
手を
エティックが「おいおい、無茶すんな」と
「大丈夫だよ。弓矢の
イレキュモスも「いや、わしが」と言い掛けたが、ディリーヌがその腕を
「ここは、キゼアに任せよう」
「風師が言われたとおり、あまり接近する前に相手の意図を確認しないと」
ディリーヌが指摘したようにキゼアの魔道は格段に進歩しており、
「わあ、でっかいなあ」
キゼアが驚いたことに相手の船はオルジボセ号の倍ぐらいあり、実を
矢が届かない上空から見ても、大勢の人影が甲板を行き来している。
「どうしよう? 誰に向かって話しかけたらいいんだろう?」
指揮官らしき人物を
「人だ!」
「魔道師だぞ!」
「いや、子供だ!」
「子供だとしても、敵だ!」
「
「そうだ、みんな矢を
「決して怪しい者ではありません! ぼくたちの船は、ヤンルー連合王国のガルダン
が、返事は前以上の数の矢であった。
無論キゼアのところまでは届かないが、接近することもできない。
キゼアは、らしくもない舌打ちをした。
「これじゃ話にならないよ。ぼくはどうしたら……」
その時、船上で騒ぐ人の群れからスッと一人だけ浮き上がり、真っ直ぐキゼアの方へ向かって来るのが見えた。
「え? 魔道師?」
その
船上から一気に飛んで来た相手は、キゼアの目の前で停止した。
頭頂部が
「ほう。子供か」
男はそう言いながら、首を
その顔に
「ぼくは、フェケルノ帝国アナン州アージュ村のキゼアという者です。けれど、今はヤンルー連合王国のガルダン王の依頼で……」
が、男はキゼアの名を耳にした瞬間、顔色を変えた。
「……おお、キゼアか。大きくなったなあ」
キゼアも驚いて
「ぼくをご存じなのですか?」
男は深く息を吸ってから、静かに答えた。
「ああ、知っているとも。誰がわが子の名を忘れようか」
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