第17章 闇の系譜
ビンチャオの眉のない顔を平然と見返し、ディリーヌは「断る」と
「おぬしと
ビンチャオの顔に一瞬、ドス黒い殺意が浮かんだが、
「そうつれないことを言うな。明日、共に北大陸に向けて船出するんだからな。出発は日の出を待ってから、ということになるから、その前に飯を
四人を代表するように
が、ビンチャオもそれは想定内であったらしく、返答を強要することもなく、「明日は遅れるなよ」と捨て
再びイレキュモスが結界を張り直すのを待ちかねたように、エティックが笑った。
「へっ! 小隊長から分隊長に
「そうかな?」
疑問を
「何かと
「別の理由とは?」
それに答えたのもキゼアではなく、イレキュモスであった。
「
ディリーヌは鼻で笑った。
「向こうへ渡ればこちらのもの。現地を知らぬ人間が、無事に帰れる保証などない。まあ、
ディリーヌの話を聞いていたエティックの表情が、珍しく曇った。
「ブルシモン先生、大丈夫かな?」
その頃、キゼアたちが乗っていた運搬船オルジボセ号は
「
「言ったろう? おれは五歳の時に南大陸へ渡ったから、北大陸の記憶は
ブルシモンの返事など別に気にする
「あなたはまだいいですよ。多少なりとも北大陸に親近感があるでしょうから。申し訳ないですが、わたしは
ブルシモンは、岩のような顔に皮肉な
「それは北大陸のせいじゃなくて、おまえが部下に
言い返そうとしたカランは、大きく
「
ブルシモンは
「ほう? おれも指導教官になる前は帝国軍の軍人だったが、そこまで
カランはそれとなく周囲を見回し、近くに誰もいないことを確かめると、声を
「あなたも見たでしょう? あの
ブルシモンは赤ん坊の頭ほどもある両肩を、器用に
「まあな。だが、それだけではあるまい。そもそも、
カランは
「そこなんですよねえ。わたしも、最初は
カランは再度左右を確認し、一層小さな声で告げた。
「派遣軍の主体を帝国軍兵士にするよう皇帝に進言したのは、ゾロン元帥だそうです」
「おかしいじゃないか!」
思わず声が大きくなったブルシモンに、カランは顔を
「おかしいのはわかっています。それをこれから説明しますから、決して大声を出さないように。いいですね?」
ブルシモンも声を低め「わかってる」と
カランは、らしくもない
……これからお話しするのは、あくまでもわたしの推測です。
証拠となるようなものは、今のところ何もありません。
宰相を
敵対する相手を調べるのは、
が、それなら数名の兵士を、傭兵と
それをずっと考えていたのですが、
もしかすると元帥は、古代ツェウィナ人の秘宝について何か知っているんじゃないのか、と。
ええ、ええ、言われなくともわかっていますよ、元帥がずっと
ですが、それがあからさま過ぎて、逆に
わたしが変だなと思った切っ掛けは、あの出発前の会議です。
宰相から見せられた手鏡には、正直わたしも驚き、これは本当の話かもしれないと
まったく平然としていたでしょう?
それだけではなく、皇帝の様子を
元帥が、いえ、ゾロンという人物が
皇帝家の
今だって、皇帝の忠実な
ひょっとすると、皇位を
あの人だって、皇位継承権者の末席に連なっていますから。
ほう、
あり
さすがに
「神君アクティヌス帝の
カランはこれ以上話を続けるのは危険と思ったのか、
「さあさあ、あなたも早く休んでください。夜風は体に毒ですよ。明日には北大陸に上陸できるでしょうから、
翌朝。
そのブルシモンを追いかけるように、ディリーヌたちを乗せた船がヤンルー連合王国の港から
乗客はディリーヌ、イレキュモス、キゼア、エティックの四人と、ビンチャオらヤンルー軍六人の十名である。
密航していたオルジボセ号より船体が
また、海運国であるフェケルノ帝国と違い、
「船酔いは大丈夫か、キゼア?」
与えられた船室でディリーヌが
「実は、風師から良い薬をいただいたんです」
ディリーヌが視線を走らせると、イレキュモスが片目を
恐らくは
無論、それを教えては暗示の効果がなくなるから、ディリーヌは「それは良かった」とだけ評した。
「ところで、エティックの姿が見えんが?」
キゼアも知らなかったらしく、「さあ」と首を
「あやつめ、ビンチャオらが悪さをせぬように見張りに立つと言うておったが、別のことに興味を持ったようじゃ」
「別のこと?」
聞いたのはキゼアの方である。
「ああ。この船にはわしらとヤンルーの軍人以外に
と、そのエティックが
「ったく、話になんねえよ!」
船室に残っていた三人を代表するように、キゼアが聞いた。
「どうしたの?」
エティックは鼻を鳴らした。
「あいつら全然
「そう
「ヤンルーの
エティックは、間違って苦いものを口に入れたような顔になった。
「ひでえな。それじゃ覇気も
それには、イレキュモスが答えた。
「当然、そうであろう。が、少しでも反抗的な
同じ頃。
先行するフェケルノ帝国の軍船は、北大陸の港に入ろうとしていた。
この港は元々、交易のためにフェケルノ帝国側が
「ついに来ましたね」
「おいおい。隊長がそんなに弱気でどうする。兵士たちが
ブルシモンの言葉は、見張り役の兵士の叫び声に
「
ブルシモンは舌打ちした。
「敵とは限らんだろうに。それに、蛮族という言い方は
が、
「何を
カランの言ったとおり、二十騎の原住民たちは
一瞬不快そうに顔を
「矢を
ブルシモンは
「ほう。こちらの射程内に入らぬように反転して行くな。まあ、それはそうか。こちらの方が位置も高く、人数も多い。
ブルシモンの疑問に答えるように、敵の騎兵たちの後ろから、
こちらの射程にギリギリまで近づくと、壮年の方が良く通る声で告げた。
「
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