第16章 異国の客
これほど
ガルダン王の面前で向き合った二人の体格差は、
しかも、
ビンチャオは
ディリーヌも、
ガルダン王は、自分には
その六人を遠巻きにして、
逃がさない用心であろうが、風師イレキュモスのように
その証拠に、ガルダン王の試合開始の合図は「逃げた者は殺す。始めよ!」であった。
が、合図が聞こえなかったかのように二人とも動かない。
それどころか、互いに片手で軽く
そのままふたりとも試合を
ホンの一瞬、いや、
と、
「!」
ビンチャオの眉のない切れ長の目が、その見えない一点を見ようとするかのような寄り目となってからクルリと
知らずに切っ掛けを作ったエティックが「や、やったぜ!」と歓声を上げたが、すぐにガルダン王の「ここからが、勝負だな」という
ハッとしてエティックが見ると、倒れたビンチャオに馬乗りになっていたディリーヌが両腕をガッと
が、ビンチャオは
握っている木剣で、何とかビンチャオの顔面を
「助けましょう!」
そう言って飛び出そうとしたのはエティックではなくキゼアの方であったが、イレキュモスが「
「魔道で手助けなどすれば、全員殺される。ディリーヌに任せるんじゃ」
イレキュモスが指摘するように、取り囲んでいる衛兵たちが
その
ゴン、ゴンと鈍い音が数度響くと、
今度こそ完全に
その
パチ、パチ、パチという
「この
ガルダン王は倒れたままのビンチャオを
「そこでだらしなく伸びておる
ディリーヌが血を
さすがに
が、キゼアもエティックもそれどころではなく、ディリーヌですら緊張の
一人平然としているのはイレキュモスだけであり、薄く
と、警護役すら連れずに、フラリとガルダン王が入って来た。
正面の
「待たせたな。こう見えて、
……余は代々の王家の生まれで、
それがヤンルー王家のしきたりでな。
それはまあ、ともかく。
わが国が位置する南大陸東北部は古来より小国が乱立しており、なかなか統一はされて来なかった。
自慢するわけではないが、余は一代で周辺の七王国を攻め
フェケルノの
王位に
実際、本国ヤンルーを含む八王国には余の八人の王子を余の代理として置いており、いずれは各国の王として
ところが一昨年、九番目の
余はガルディーノには領地を与えず、
そうしなければ、殺さざるを
ところが、ガルディーノの
小さくても良いから、一国の王にして欲しいとな。
そこから余の新たな戦いが始まった。
おまえたちも知っているように、国境を接するフェケルノ帝国のクレル州へ侵攻を開始した。
なかなかの難事業ではあるが、秘策がある。
まあ、秘策といっても、今となっては公然の秘密だが、フェケルノ帝国の西のシーグ酋長国連邦と攻守同盟を
向こうは西からウダグス州へ、こちらは東からクレル州へ同時に攻め込もうということで、
まあ、これは想定内だがな。
ところがここへ来て、想定外の動きがあった。
フェケルノ帝国が小隊規模の部隊を、北大陸に派遣するというのだ。
キルゲリめがいよいよ観念して、北大陸へ逃げる算段をするのかと思いきや、何と、あの古代ツェウィナ人の秘宝を探させるため、というではないか。
最初、余は腹を
が、調べるうちに、これはどうも
どうやら、北大陸で何らかの核心的な証拠を発見したらしく、それに関わっているのが、悪名高い密告
話は変わるが、余はこう見えても
予測可能な危険は、決して放置しない。
そうでなければ、このヤンルーで生き残ることなどできん。
そこで、フェケルノ帝国に対抗すべく、こちらも北大陸へ人をやることにしたのだ。
ところがヤンルー本国は内陸国であり、支配下の七王国のうち海に面している三か国はいずれも弱小で、早い話、百名を乗せるような大きな船がない。
元々海賊であったシーグ酋長国連邦へ支援を頼もうかとも考えたが、そこまでの信頼関係にはない。
よって、わが国が所有している小型船に乗せられる十名を限度に、少数精鋭の部隊を送る準備を進めて来たのだ。
しかし、フェケルノ帝国の部隊の目を
知ってのとおり、わが国には
そこで、現在侵攻中のクレル州で
そう告げてガルダン王が手を
が、イレキュモスはフッと笑いながら
「
反射的に衛兵たちが十文字槍を水平に構え
「余の命令に条件を付けるなど、
「北大陸へ渡る船に、連れの三人も乗せて欲しい。これは決して悪い条件ではないと思うが?」
イレキュモス以上の
「良かろう。ディリーヌの実力は
これにはエティックが黙っていられず、「何だって!」と叫んでしまった。
「あの眉なし大男と一緒かよ! そんな……」
ガルダン王と目が合ってしまったエティックはそれ以上
「出発はいつですか?」
ガルダン王は
「まあ、よい。出発は明日だ。なるべく早い方がいいからな。今夜は王宮の近くに泊まらせてやるから、ゆっくり休め。明日、日の出と共に馬車を出し、港に到着
イレキュモスが結界を張ると、すぐにエティックが不安を口にした。
「予定どおり北大陸へ渡れることになったのは
すると、キゼアが首を振った。
「いや、それはないと思う。この国では、ガルダン王の言葉は絶対だ。見るからに忠臣のビンチャオが、そんな勝手なことをするはずがないよ」
ディリーヌも笑って同意した。
「そうだな。が、ガルダン王の気が変われば話は別だ。今回の使命が失敗でもすれば、真っ先にわたしは
「その使命のことじゃが……」
イレキュモスは改めて周囲を見回した。
「うむ、大丈夫じゃろう。自慢ではないが、この国にわし以上の力を持った魔道師はおらんはずじゃからな。ともかく、おまえたちの知り合いがフェケルノ帝国の派遣部隊におることは、絶対に知られてはいかん。疑わしいというだけで、あのビンチャオがおまえたちを殺す
イレキュモスはディリーヌに向かって頭を下げたが、ディリーヌは笑顔のまま首を振った。
「構わん。わたしも南大陸に来てから
と、イレキュモスが「待て」と片手を
「どなたじゃな? そろそろ寝ようとしておったのじゃが?」
それには答えぬまま、乱暴に扉が開かれ、誰か入って来た。
「まだ寝るには早いだろう。おまえたちと少し話がしたくてな」
そう告げてニヤリと笑ったのは、今話題に出たばかりのビンチャオであった。
鼻の下と顎に傷があり、紫色に
その眉のない鋭い目が、刺すようにディリーヌを見ている。
「特にそこの女剣士さまとは、じっくり
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