第14章 異端の隠者
海の妖魔を撃退して
朝日に
「少なくとも
背後からディリーヌに声を掛けられても、キゼアは振り向こうともせずに「そうですね」と答えた。
オルジボセ号から必死で逃亡している間は忘れていたディリーヌの裸体を、意識せずにはいられないらしい。
それが
「裸を見られたとて、わたしは平気だ。が、少々
いつの
「バレてたのか。まあ、あんたの裸を見てえのも確かだけど、その背中の
ディリーヌの笑顔が一瞬
「まあ、
「育ててくれた?」
そう
「ああ。わたしは捨て子であったらしい。結局、
「秘宝って、古代ツェウィナ人のかい?」
今度はエティックが聞いた。
「わからん。が、北大陸で秘宝と
「おいらは秘宝に興味あるけどなあ。あっ。で、妖魔は何匹
「ダンバの森の淫魔が三十三匹目。ケス神殿の神官が三十四匹目だ。
「あっ、それなら」
急に声を上げたのはキゼアで、その
「どうした、キゼア? 何か思い出したのか?」
「あ、はい。実は
むこうを向いたまま、キゼアは昨晩の経験を語った。
が、ディリーヌは妖魔を
「でかしたぞ。発火の術は、魔道の中でも高度なものとされている。やはり、おぬしには才能があるのだな」
「そうでしょうか?」
自信
「
この皮肉はすぐにピンと来たらしく、エティックが「はあ?」と声を大きくした。
「何でえ何でえ。おいらだって
ディリーヌは笑いを含んだ声で「あるとしたらどうする?」と聞き返した。
「まあ、それは冗談だが、ブルシモンから人を見て教育しろと言われているのだ。褒めて伸びる者と、厳しくした方が良い人間といるからな」
「ちぇっ。おいらだって、褒められたいよ……あっ、ありゃ、何だ?」
同時にキゼアも気づいたようで、「こっちに向かって来ます!」と警告した。
それは一見、風に
逆光になるため目を細めていたキゼアが「……人のようです!」と告げた時には、その相手からの声が聞こえて来た。
「まあ、人であることに間違いはないのう。だけでなく、わしも驚いたことに、まだ男でもあったようじゃ。そこな
少なくとも最初に驚きから立ち直ったのは、エティックであった。
「何だと、この
これにはディリーヌが苦笑した。
「別におぬしのものになった
謎の老人は、声を上げて笑った。
「いや、それは遠慮しておこう。これ以上
そう告げると、老人はフワリと
「一応、名乗っておこうかの。わしはクレルの魔道師でイレキュモスという者じゃ。
「あなたが風師イレキュモスさまですか!」
「ほう。わしを知っておるのか?」
「
イレキュモスは鼻で笑った。
「有名というより、異端者として
「いえ、決して、そのようなことは……」
ムキになって反論しようとするキゼアの肩に、ポンとディリーヌの手が置かれた。
「そのような議論は後にせよ。ともかく陸へ上がるのが先決だ」
ディリーヌは続けてイレキュモスに説明した。
「こちらも簡単に紹介しておこう。おぬしを
イレキュモスは「
そのまま貫頭衣の
「おお、これぞ風師のお力!」
「あの
ディリーヌは軽く肩を
「わからん。
潮流に直交するように南下すると、待つほどもなく救命艇は白い砂浜に乗り上げた。
牽いて来た綱を近くの
「この先にわしの
真っ先に船から
「この際だから、味はとやかく言わねえ。喰えるもんなら、何でもいいや」
後から下船したキゼアが「失礼だろ!」と怒ったが、イレキュモスは笑って「構わん、構わん」と手を振った。
「芋を
イレキュモスは
エティック、キゼア、ディリーヌと続いたが、特に小柄なキゼアは小走りになるほど、先行するイレキュモスは速かった。
砂浜が普通の地面に変わってすぐに、座所らしき丸太小屋が見えた。
「多少
そのイレキュモスの言葉が終わるのを待たず、エティックが入口の
「おおっ、食い
眠り薬入りの
「
「それぐれえ、わかってらい」
キゼアと一緒に入って来たイレキュモスも笑って告げた。
「
キゼアでさえ、その必要はない、とは言わなかったのは、昨日の経験があったからであろう。
イレキュモスのものよりだいぶマシな貫頭衣をディリーヌが
「爺さんが作ったにしちゃ、意外に
が、珍しくキゼアは不機嫌な声で親友を
「失敬だぞ、エティック。風師イレキュモスさまは、浮身術では最高峰と
「でも、そうじゃねえ。ってことは、何かやらかしちまったんだろ?」
「何だと!」
険悪な二人を「まあ、待て」と
「わしのことで
……何から話そうかの。
おお、そうじゃ、今話に出た皇立魔道学校のことから始めよう。
わしは生まれも育ちもクレル王国で、実家は代々漁師の家であった。
その頃は魔道になど興味もなく、わしも漁師を
そう。
当時は自分の国が潰されたということに実感がなく、王国が属州に変わっても、わしらの生活に変わりはないと思っておったよ。
が、
わしの体格では武術は無理じゃろうから、創設されたばかりの皇立魔道学校へ入ったのじゃ。
幸い、自分でも思いもよらぬ才能があり、あれよあれよという
教授に
かねてから皇帝の政治に批判的な
知ってのとおり、密告結社はフェティヌール
わしと仲間が抗議に訪れると、あっさり同僚を釈放してくれた。
ところがそれ以来、その同僚は反国家的なことを一切言わなくなり、
これはどう考えてもおかしいと、わしは同僚を問い詰めた。
が、何も真相を語らぬまま、同僚は
わしも身の危険を感じ、
フェケルノ本州では危ないと思い、クレル州の
皇帝が死んで
聞き終えたディリーヌは、「それならば」と笑った。
「わたしたちの敵は同じだ。こうして漂流することになったのも、そもそもはフェティヌールの
ディリーヌは、
イレキュモスは自分の
「
「えっ、本当ですか!」
喜ぶキゼアの横で、エティックは小さく舌打ちした。
「何だよ、せっかくディリーヌ姉ちゃんと仲良く旅ができると思ったのにさ。こんな
エティックの
と、イレキュモスの顔色が変わった。
「いかん! ヤンルー連合王国軍の
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