第13章 帝国の闇
キゼア、エティック、ディリーヌの三人が
千名規模の
かれらは皆別室に集まり、酒も飲まずに会議をしていたのである。
そこは国家の機密事項を話し合うために特別に
室内には長方形の卓があり、正面奥に皇帝キルゲリ、向かって左側に宰相ダナルークと隊長カラン、右側に
キルゲリは
「
ゾロンも
「わがはいも、日が暮れるとすぐに
ゾロンの皮肉には取り合わず、ダナルークは死んだ魚のような
……せっかくの機会でございますので、今回の部隊派遣について、改めましてご説明させていただきます。
まず、ゾロンどののご
ゾロンどのは東のヤンルー連合王国との
その証拠に、それぞれが境を接しているクレルなどの旧王国、いえ、属州に敵の
しかも、これはまだ確定した情報ではありませぬが、ヤンルーの王とシーグの酋長が
また、ギャゴス大公は
そうした現状を
が、それは
おや。
お
わかりました。
ならば、証拠をご
大きさは
手鏡のようだが、表面には引っ
ダナルークは椅子から立ち上がり、室内を照らす
「あれをご覧くだされ」
ダナルークはもう一方の手で、天井を
手鏡で反射された
が、その顔には、額の位置に第三の目のようなものがあった。
「俗説ではございますが、古代ツェウィナ人は三つ目であったと申します。そして、この手鏡は、北大陸のとある場所にある
「良きに
その言葉を待っていたようにゾロンも席を立ち、「
去り
二人が出て行った後、ダナルークは当然のように正面の席に座った。
カランは口を開きかけたものの、すぐに閉じ、鼻から
が、ブルシモンは
ダナルークは「そうだ」と答えたが動こうとはせず、そのまま話を続けた。
「
と、ブルシモンが太い手を
「待ってください。いきなり攻めるのではなく、まずは交渉するべきではありませんか?」
カランが「おい、口を
「好戦的な種族で、話し合いの余地はない。あの手鏡を
「あ、はい。ブルシモン、いいですね?」
ブルシモンは
ダナルークはその後の段取りまで細かく指示を出したが、元々眠そうな顔のカランも、不本意な仕事を押し付けられたブルシモンも、黙って聞くだけとなった。
「……以上だ。明日の出発は早いぞ。二人とも早く休め」
自分のせいで遅くなったとは考えていないらしいダナルークに苦笑しつつ、席を立とうとしたブルシモンに、ダナルークはふと思い出したように
「そういえば、あの女剣士はどうした?」
ブルシモンは両方の眉を上げ、
「さあ、どうしたんでしょうねえ。それは、カラン隊長にお
カランは反射的に肩を
「知りません、知りません。一応、
ダナルークも回答を期待していたわけではないらしく、
「そのうちわかるであろう。その時には……、ああ、いや、そんなことより早く寝ろ。わしも今日は早寝だ。あのような皮肉を言われては、遅刻もできん」
一緒に出ようとしたブルシモンは「おっと、忘れ物」と言いながら、部屋の
その荷物からスルリと小さな赤いものが
一方、ディリーヌは眠るどころではなく、速い
月のない夜で空は暗いが、幸い夜光虫の
「何とか朝までに陸に
振り返ると、船を
「ふん。ギャアギャアとうるさい
ディリーヌが言ったのはエティックではなく、その向こうで寝ていたキゼアの方である。
魔道の力を使い過ぎて気絶するように眠っていたが、まだ夢を見ているように
「……ここは?」
「わからん。しかし、体感的に真っ直ぐ東へ進んでいる気がするから、いずれ陸地へ着くだろう」
「真っ直ぐ東だとすると……あっ、ヤンルー連合王国の領内に入ってしまいます!」
キゼアの声が大きくなったため、寝ていたエティックが「えっ、何だよ、また
「ごめんね、エティック。違うんだ。真っ直ぐ東だとヤンルーに着くんじゃないかと思って」
薄暗がりの中、首を
櫂を漕ぐ手を休めず、ディリーヌは「だと、いいが」と
すっかり眠気が
「だって、ヒロール湾を出たばっかりだから、そんなに沖には行ってねえはずだぜ。ってことは、真っ直ぐ東ならまだクレルぐらいさ。ヤンルーはもうちょっと北に寄ってるよ」
南大陸は東部が北へ張り出しており、フェケルノ帝国の東の敵国であるヤンルー連合王国は、帝都ヒロールから見てやや東北に位置する。
よって、時として
「念のため、ぼくが偵察に行ってみましょうか?」
が、キゼアの申し出を、ディリーヌは
「
「じゃあ、今度はディリーヌさんが寝てくださいな。
一瞬どうすべきか迷ったようだが、周囲の状況をもう一度確認し、ディリーヌは櫂をキゼアに渡した。
「決して無理はするな。何か異変があれば、遠慮なく起こせ。よいな?」
「わかりました。ゆっくり休んでください。エティックもね」
「言われなくたって、おいら、もう、寝てるよ……」
エティックの返事は、そのまま鼾に変わった。
さすがにディリーヌも疲れていたらしく、エティックが眠って
短時間とはいえ熟眠していたキゼアは
「大丈夫かな?」
空を
実際には星空よりももっと光の密度が濃く、その青白い神秘的な光に
「なんて
うっとりと海面を
「あっ!」
かなり大きな叫び声を上げてしまったが、不思議なことにディリーヌもエティックも起きて来ず、キゼア自身もそれを
と、櫂がピタリと
船の近くまで来ると青白い海面が盛り上がり、キゼアの手が届きそうな位置まで櫂が持ち上げられた。
「え? いいの?」
まるで親しい人間がそうしてくれたかのよう言いながら、キゼアは櫂に手を伸ばそうとした。
と、その時。
青白い水の表面がボコボコと
「ああっ、妖魔か!」
捕らわれていない方の手で船縁を
「た、助けて、ディリーヌさん! 起きてよ、エティック!」
が、首を
「自分で何とかしなきゃ。でも、どうやって……」
キゼアは必死で魔道に関する知識を思い出そうとした。
「……
キゼアは触手に絡まれている方の手の指を一本立てると、
その間も、もう一方の手と
「くうっ。負けるもんか!」
と、立てている一本の指の先に、ポッと小さな炎が現れた。
暗さに目が
腕に絡みついていた触手がスルスルと離れて海面が下がり、青白い光も同心円状に消えて行った。
キゼアの炎に照らされて、黒い海面が静かに波打っているばかり。
近くまで来ていた櫂は流されたようで、どこへ行ったのかもう見えなくなってしまった。
「どうした?」
「な、何でもありません。ただ……」
「何だ?」
「すみません。櫂を海に落としてしまいました」
「そうか」
ディリーヌは小さく笑った。
「良くはないさ。が、
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