第10章 未知への船出
ブルシモンらがゾロン
「こりゃ、見るからに
エティックが顔を
が、例によって
「少なくとも妖魔の気配はない。そうだな、キゼア?」
「そうですね。ぼくもそんなに敏感な方じゃありませんが、妖魔が
二人が話している
「確かに見たところ
「
その声は無論、ディリーヌではない。
声に続いて玄関横の窓が開き、厚化粧の
いや、よく見れば初老といっても良い
灰色の髪は
「このユラナ
「すまぬ、ユラナ
「ああ。いつものように二階の奥の部屋で、仲間を集めて
「そうか。ならば上がらせてもらうぞ」
ディリーヌに続いてエティックとキゼアも入ろうとしたところ、ユラナが
「子供は
文句を言おうとするエティックを手で制し、ディリーヌはキゼアに
ディリーヌの背中に向かって、「一人で行って何かあっても、おいら知らねえぞ!」とエティックが
すぐに門柱の
「ぼくにくっついて」
「はあ? あ、そっか。頼むぜ、キゼア」
エティックが体を密着させると同時に二人は浮き上がり、
一方屋内に入ったディリーヌは、中央の階段を
進むにつれ、男たちの
「ちきしょう! またやられた!」
「おい、サモゾフ! てめえ
「そうだ、そうだ! さっきから手つきが
ディリーヌは
正面の一人以外の三人は
三人は背後で扉が開いたことに気づいた
体格だけでなく顔も似ているから兄弟であろうが、見るからに
三人とも頭部に髪の毛が一本もなく、その
入って来たのが女一人とわかると皆手を
「ふう、
と、ニヤついたのは口髭。
「おめえが商売女なら、入る部屋を
と、チラリと視線を正面の席のもう一人に走らせたのは、顎髭。
「それとも、男が欲しくて欲しくて、あそこが
と、
自分たちの下品な冗談に、三人はゲラゲラと声を上げて笑った。
が、正面に座っている黒い
額に掛かる銀髪を自分の手で
「あんたとの約束は、夕方までに船を用意する、ってことだったはずだが?」
ディリーヌも他の三人はまったく無視し、痩せた男にだけ返事をした。
「ああ。そのつもりだったが、事情が変わった。なるべく早めに海へ出たい。何とかならぬか?」
が、痩せた男が何か答える前に、三人が立ち上がって来た。
「おうおう、姉ちゃん。今すぐ船に乗りてえなら、このベレゼ三兄弟に
ディリーヌは
顎髭が「決まってるだろ、体さ」と言うと、続けて揉み上げが「
ディリーヌは
「では、一人目」
その言葉の
口髭がもんどり打って倒れたのと同時に
「この
「うぶぶっ!」
相手の
「!」
三人とも
「おぬしはどうする、サモゾフ?」
サモゾフと呼ばれた男は、
「おれは現金主義でね。それに、あんたには既定の前金を
「追加料金?」
「ああ。せっかく
「ならば、それを恩に着て、すぐに船を用意してくれ」
サモゾフは
「連れがいるとは聞いてたが、魔道を使えるのか。それじゃ話は早い。次に出る北大陸
ディリーヌも苦笑し、天井に向かって「と、いうことだ」と告げた。
姿は見せぬまま、エティックの不満そうな声がした。
「ちぇっ。万一の時にはおいらが助けようと思ってたのに、出番なしかよ」
しかし、キゼアの方は「術が未熟ですみません」と
「
キゼアが
「おそらく、透視術が使えるのだろう。こんな相手と博奕をするとは、この三兄弟、
サモゾフは何も言わず、
その
「まあ、女一人に叩きのめされたとあっちゃ、あの三兄弟も
「大丈夫だ。日が暮れる前には海の上だからな。世話になった」
「達者でね。もし、あんたがここで働く気になったら、宿の経営を任せてもいいよ」
本気なのか冗談だかわからぬ申し出であったが、ディリーヌは笑わずに「考えておこう」と手を振って玄関を出た。
先に外で待っていたエティックとキゼアと合流し、四人で運河の出口へ向かう。
歩きながら、サモゾフが説明した。
……船の名はオルジボセ号。
間もなく出航の時間だから、今頃は荷物の積み込み中だろう。
おれの知り合いはチウチニッケという下級船員だ。
先におれが一人で行ってチウチニッケに話すから、合図をしたら隠形したまま
なあに、普通の人間には見えやしねえよ。
で、
食事はこっそり運ばせる。
向こうに着くのは十日後の予定だから、
言って置くが、密航が見つかれば、その場で海に
海流は早いし、水中には
多少魔道が使えようが、剣の腕が立とうが、とても助からねえ。
くれぐれもバレねえように気をつけろ……
「心配
「船は
「ああ。覚悟しておけ。薬草の
「ええ。でも、あまり飲むと、魔道の
サモゾフは「どうかな」と
その頃、気絶から目覚めたベレゼ三兄弟は、階下の部屋に押し入り、ユラナを取り囲んで
「なあ、
そう言っている口髭自身、何本か前歯が無くなっていた。
「あの女が何者で、どこへ行ったのかだけ、教えてくれりゃいいんだよ。ううっ」
顎髭は痛そうに
「
歯を
が、ユラナは一向に動じた
「ふん。
胸を突き出すユラナに三兄弟が
「ベレゼさんって
口髭が振り向くと、ガリガリに痩せた娼婦らしい女が入口に立っていた。
「今、立て込んでるんだ。後にしてくれ」
顎髭がそれを片手で
女は手に持った紙片を差し出しながら「これを渡してくれって」と言う。
揉み上げが
「なあにいっ!」
言うなり口髭が紙片をひったくり、その場で広げた。
そこには、『女はオルジボセ号にて
痩せた娼婦が「じゃあ、確かに渡したよ」と告げて去ると、ユラナは
顎髭が笑いながら「どうする? 婆さんは始末して行くか?」と言ったが、揉み上げは首を振った。
「時間が
かなり
「待たせてすまねえ。意外にもチウチニッケの野郎が抵抗しやがってな。最近
ディリーヌは
……用心しろ。何か
キゼアも黙って頷いたが、エティックだけは
「やっぱり船旅はワクワクするよなあ。北大陸って、どんなとこだろう?」
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