第9章 冷血の幼帝
襲って来る数十匹の
その瞬間、三人の体を包んでいた
「
そう言ったのはエティックであったが、荒い息を
「もう一度やれ!」
「ええっ」
またしても不満そうな声を上げたのはエティックの方で、キゼアは黙って
再び三人がピタリと
その時にはもう、紅蜘蛛の先頭は目の前まで迫っており、フワッ、フワッと浮き上がるように
「うへっ、気持ち悪っ」
浅黒い顔を
が、キゼアはそんな二人のやり取りも耳に入らぬようで、
さすがにエティックも息を
「このまま前進しろ!」
「はいっ!」
自分の返事に
出だしこそ
すぐに人間が普通に走るより速くなった。
エティックも真っ白な歯を
「いいぞ、キゼア! このまま海まで
追って来る紅蜘蛛たちも引き離されぬよう跳び上がることは
が、
少しは距離が
ここまで順調に水平飛行して来た三人の高度が、徐々に下がり出したのだ。
「キゼア、気を抜くな! 海まで
「……」
キゼアは
と、エティックが「やった、追い風になって来たぞ!」と喜んだ。
通常なら海から陸へ吹く時間帯であるが、
それがわかっているディリーヌは小さく舌打ちしたが、
速度を増しただけでなく、紅蜘蛛たちは尻から長い糸を出し、それで追い風を受けて次々と空中に舞い上がり始めたのだ。
「くそっ!」
ディリーヌは右腕をキゼアの胴に
エティックもギリッと奥歯を
「おいらもやるぜ!」
その
今にも閉じそうな
「……もう少し……」
地面スレスレまで下がっていた三人の体が
ところが今度は速度が落ち始め、後方から風に乗って飛んでくる紅蜘蛛との距離が一気に縮まって来た。
「来るぞ!」
警告を発した時にはディリーヌの短剣が
「こいつめっ!」
同時にエティックも刀子で一匹を
が、
「これじゃキリがねえよ!」
泣き
「もう良いぞ、キゼア! エティック、走って海に飛び込め!」
「えっ?」
ドンと衝撃があって三人は地面に落ちたが、そこは
ディリーヌは気を失って倒れ込んでいるキゼアを
「早く海へ!」
「うん!」
波を
水の抵抗に逆らって必死で
「エティック、
「わかった!」
気絶したままのキゼアの口と鼻を
水面下でディリーヌの金髪が、美しい海藻のように広がる。
エティックも深呼吸して自分の鼻を
そこまで飛んで来た紅蜘蛛が数匹海面に落ちたが、すぐに周囲が泡立ち、飛び出して来た魚に次々
少し
「げほっ!」
激しく
「まさか、死んだんじゃねえよな?」
いつの
「どうやら、
「おいっ、返事しろよ! キゼアは
声を荒げるエティックに、キゼアの方が薄く目を開けて「……大丈夫だ」と答えた。
その青白かった頬に、少し
「……水中で、息を吹き込んでもらったから」
同じ頃、市内の運河を通る船で
万単位の出陣式が行われることもある広場の前方に、百名の隊員たちが広さを持て
その前に二人並んで立つと、カランは
「さあ、おまえたち、この男がわたしの
まるで子供に言い聞かせるような問い掛けにも返事はなく、百名の隊員たちは
「いいですねっ!」
語気を強めたカランに
「何ですか? 質問はまだ許していませんよ」
カランに
帝国軍の制服を着ており、かなりの
「こう見えてもおれたちゃ
「お黙りなさいっ! 軍法会議に掛け……」
その時、カランの裏返った声を
「皇帝
さすがに百名の隊員たちは
カランも
広場を
宝石を
黒い瞳が極端に小さいため、周囲の白い部分がやけに目立つ切れ
その顔に、
これが少年皇帝、キルゲリであった。
一人は
髪はかなり
と、キルゲリが「
「あの部隊を
ゾロンが苦笑して何か言おうとするのを
「陛下、たとえお
皆まで言わせず、キルゲリは
「黙れっ!
グッと唇を
「陛下、宰相をお
すると、キルゲリは皇帝らしからぬ下品な笑い声をあげた。
「おお、そうであったわ。
あからさまな
「ご無礼の段は、
が、キルゲリは
「爺、おまえがやれ」
自分が
「ははっ、
これも想定内であったのかダナルークは表情を変えず、ゾロンに道を
ゾロンも自分に派遣部隊
……帝国軍
陛下のご
が、その前に、少し昔話をさせていただく。
わがはいが神君アクティヌス帝にお
その後、
アナン、ウダグス、クレル、ドズフェと次々に四王国を制覇され、その遠征中に先王が
一方わが君は、属州となった旧四王国から
そして、わがはいの横におる宰相を見てもわかるように、属州からも
ああ、しかし。
悲しむべきことに、その神君も一昨年、
だが、諸君、心配は
神君は、われらに希望の光を残してくだすった。
そうだ。
ここにおわす二代皇帝キルゲリ陛下だ。
陛下は先月九歳となられたばかりだが、その
が、油断はならぬぞ。
わが帝国の周囲には、その繁栄を
特に近年軍事力を増強しつつある東の
本来ならすぐに
よって、わがはいは一層の軍備増強を主張しておったのだが、宰相は財政
ところがどうだ。
貴重な戦力を
わがはいは耳を疑ったよ。
宰相も
おっと、
だが、よくよく聞いてみれば、
北以外の三方に敵を
また、未開であるが故に様々な
ともかく、
皆一層、
以上だ……
広場に整列する百名の中から、
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