第8章 紅蜘蛛の巣
密告
が、ある意味、最も庶民が国家の
密告の
密告結社の設立には
もしその噂が真実であれば、フェティヌールは、現皇帝キルゲリの
そのような噂を知ってか知らずか、帝都ヒロールの東区にあるフェティヌールの屋敷には、連日来客が引きも切らなかった。
今日も今日とて、ヒロール商工会の
そのいずれの場合も、
しかし、その日最後の訪問客となった人物だけには、別室で一対一での面談が許された。
「えっ、前回は謁見の間でしたが? あ、いえ、失礼いたしました。
動揺のあまり流れ出た
育ちの良さそうな
着ている服も上品な仕立てのものであり、あまり高位ではないにしても貴族の出身であろう。
係の者に通された部屋はフェティヌールの私室らしく、大きな机の後ろには、壁面を
机に向かい合うように置かれた椅子で待っていると、「待たせたね」というやや鼻に掛かった声と共にフェティヌールが入って来た。
その姿を見た青年は、ウッと息を
皇帝家の血筋を思わせる
薄く
それは、ゆったりした大きな
靴は履いておらず、布製の
「驚かせてすまぬ。この服装は、ぼくのお気に入りでね。
レナハと呼ばれた青年はゴクリと
……えー、それではご報告申し上げます。
フェティヌール
そのカランどのですが、派遣部隊百名の選抜に当たり、帝国軍歩兵に加え、自己の出身母体である
このブルシモンとは、北大陸からの渡来人であり、
実は、閣下のご依頼の
が、今日になっても紅蜘蛛が戻って来ず、明日はいよいよ部隊が北大陸へ向けて出航する日ですので、経過報告を兼ねてご相談に参った
報告を聞き終わったフェティヌールは、笑顔のままフッと
「
レナハは唇を
が、フェティヌールは笑顔を
「あの紅蜘蛛はそろそろ寿命だから、交換の時期だと思っていたのさ。それに、
「え?」
レナハが驚いて顔を上げると、フェティヌールは椅子から立ち上がり、こちらへ歩いて来ていた。
その顔には
レナハの目が飛び出しそうに
フェティヌールはその服の下には
胸には女のように豊かな
フェティヌールの笑みが深くなった。
「これを目にした以上、すぐには帰さないよ。ああ、悪いようにはしない。さあ、一緒に
その翌朝。
帝都ヒロール中央区の運河にある
三人とも
が、無論、この三人はディリーヌ、キゼア、エティックであった。
振り返ったブルシモンは苦笑した。
「見送りはもうこの辺でいいぞ。いくら何でも、おまえたちの格好は
頬被りから
「そうだな。まあ、いざとなれば、キゼアの
キゼアが「すみません」と小声で
「別に逃げる必要なんかねえよ。誰かに聞かれたら、先生の内縁の妻と隠し子ですって言やあいいんだ」
ブルシモンは声を上げて笑った。
「カランの
これにはディリーヌが答えた。
「ああ。わたしは
ブルシモンの顔が
「おいおい、大丈夫か? そのまま異国に売り飛ばされるぞ」
が、ディリーヌは歯を見せて笑った。
「それは逆だな。海上に出たらひと暴れして、船を乗っ取ってやろうと思っているくらいだ」
「
これには、ブルシモンだけでなく、キゼアも驚いて「えっ?」と声を上げた。
「だって、学校はどうするの、エティック?」
エティックは照れたように鼻を
「もう休学届は出して来た。一応、期間は
「おぬしがいない学校でくだらぬ授業を受けるより、実地で学んだ方がいいとな」
ブルシモンはフッと表情を
「
「なるべくそうしよう」
冗談とも本気ともつかないディリーヌの
三人と別れて船着き場へ急ぐブルシモンが通り過ぎた
癖のある茶色の巻き毛がザンバラに乱れ、
と、カラカラに乾いた唇が少し開き、その
赤ん坊の
紅蜘蛛はキラキラと糸を引きながら、ブルシモンの後を追って行く。
が、紅蜘蛛はその一匹だけでなく、後から後からゾロゾロとレナハの口から出て来た。
それに合わせて徐々に口も開いて行き、まるで大声で絶叫しているかのように大きく開いた時には、虚ろだった目がクルリと
それでも紅蜘蛛はレナハの口から
いや、顔だけではない。
首も、手も、見える部分から肉が
一方、船着き場に到着したブルシモンは、背負っている大きな荷物に追って来た一匹の紅蜘蛛が
カランは
「部下の報告では
ブルシモンは表情を変えずに肯定した。
「ああ。寮に置き切れない古い書物などを知り合いに預けていてな。いつ戻って来れるかわからんから、
カランも平然と答えた。
「ええ、あなたを
ブルシモンは苦笑した。
「ほう。
「笑い
ブルシモンの顔色が変わった。
「陛下が? 宰相閣下ではなく?」
カランは
「勿論ダナルーク閣下も同席されます。しかし、
「あの……」
思わず
カランは鼻で笑うと「とにかく早く船に乗ってくださいな」と
「これから
その頃、ブルシモンと別れた三人は、頬被りだけは取ったものの、人足の格好のまま浜辺の方へ歩いていた。
「そういえば、薬草は手に入ったのか?」
ディリーヌに
「ぼくのせいで余計な心配をさせてしまって」
エティックが
「人間誰だって
エティックが
その視線の先に、赤い
エティックもキゼアもすぐにそれに気づき、絶句した。
それは、徐々にこちらに近づいて来る、何十匹もの紅蜘蛛であった。
ディリーヌは
「
キゼアは大きく息を吸うと「わかりました」と応えた。
「二人とも、ぼくの体にピッタリとくっ付いてください」
エティックが不安そうに「隠形したって、相手が蜘蛛じゃ
「わかったよ」
三人が
「それじゃ、始めます!」
キゼアはそう宣言すると、
と、三人の体が
キゼアの
その
エティックが泣きそうな声で「もうちょっと何とかしてくれよ」と頼んだが、キゼアの必死さがわかっているのかディリーヌは何も言わず、
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