第6章 全裸の生贄
カランからディリーヌが宰相ダナルークのところへ連れて行かれると聞き、ブルシモンの顔色が変わった。
「きさま、どういうつもりだっ!」
「よしてくださいな。こう見えてもわたしは刑事官ですよ。指一本でもわたしの体に
その態度に一層腹を立て、
「先生、落ち着いてくれよ! ここであんたが暴力なんか振るったら、キゼアまで出て来れなくなっちまう。あの姉ちゃんが
振り返ったブルシモンの
「わかってる。だが、おまえは知らんのだな、あの宰相の
「噂?」
この場でその話を続けさせるのはまずいと思ったらしく、カランが「とにかく」と割り込んだ。
「キゼアという少年は引き渡しますから、保護責任者代行の署名をしてくださいな」
エティックが「じゃ、おいらが」と前に出ようとするのを片手で
「キゼアはおれが責任を持って実家に送り届けよう。が、ディリーヌに万一のことがあれば、きさまも
カランは両方の眉をクイッと上げて見せた。
「それは
ブルシモンは
「そう受け取ってもらっても構わん」
が、カランはフッと表情を
「そんなことが起きぬよう、わたしも
日没後、一台の馬車がひっそりと警邏庁を出た。
馬車の客室の窓には鉄格子が
行政府の裏門に到着した頃にはすっかり日も暮れており、内側から開けられた門をそのまま通り抜け、護送車は敷地内へ入った。
建物の
薄暗がりの中でも、皆
周囲を警戒しながら、客室の中から
と、中の一人が翼の端の
その声は、カランのようだ。
それに
二人ともゴツい体格をしており、目と口以外を
二人は無言のまま棺桶のような箱を
カランは小さく舌打ちしたが、仲間の男たちに「帰りますよ」と告げると、真っ先に馬車の客室に乗り込んだ。
一方、革袋を被った男たちは棺桶のような箱を軽々と持ちながら長い廊下を進み、奥まった一室に入って行った。
その部屋は明らかに
革袋の男たちは箱を
中には、ディリーヌが横たえられていた。
後ろ手に
しかも、それ以外は
いつも馬の
何か薬を飲まされているのか、ディリーヌの体にはまったく力が入っておらず、男たちに抱えられて
しかし、さすがに警邏庁ではそれ以上
男たちの一人が
主人の持ち物に手を
と、
「何を
男たちはガクガクと
鎖付きの
その鎖をそれぞれが左右から引くと、ズルズルとディリーヌの体が引き上げられ、
その状態で猿轡が
ダナルークは
二人は鎖の端を柱に固定して舞台を
「げほっ!」
「……取り調べにしては妙だな。まあ、水に
ダナルークの
「その
「ほう。いずれにしろ、生かして帰すつもりはないのだな?」
濡れた髪から水を
が、ダナルークの笑みはますます深くなり、死んだ魚のような
「それはおまえの
ディリーヌは美しい顔を
ダナルークは「そう
「わしが呼ぶまで、奥の部屋で待っておれ」
男たちは
すると、ダナルークは意外に
吊るされたままのディリーヌは、また「ほう」と声を上げた。
「自分の愉しみは邪魔されたくない、ということか?」
が、ダナルークは笑顔のまま首を振った。
「言ったろう? それは
ディリーヌは鼻に
「それは残念だった。どんな質問をされようと、何も答えるつもりはないからな」
「そうかな? 幸いと言っては何だが、ここには何でも喋りたくなる道具が
その瞬間、このような状況下でも余裕を見せていたディリーヌの表情が
それを目にしたダナルークの顔に、してやったりという笑みが浮かんだ。
「いきなり鉱脈を掘り当てたようだな。その美しい肉体が無事なうちに、知っていることを洗い
が、ディリーヌは顔を
すると、
「ふむ。常道から
ダナルークが取り上げたのは、表面が
それを片手に握ったまま振り返り、いやらしく唇を
「普通は相手を
ディリーヌは自分に近づいて来るダナルークを
が、ディリーヌの
しかも、
ダナルークは声を上げて
「知らんのか? わしの
「くそっ!」
ディリーヌは掴まれていない方の左脚で相手を蹴ろうとしたが、棍棒の
「あうっ」
「これっ、少しは大人しくせよ」
「ぐあああっ!」
ダナルークは
「おお、いい声を出すではないか。だが、まだまだだぞ。本番はこれからだ。見たところ処女ではあるまいが、多少は血が出るかもしれんなあ」
棍棒を持ち
「やめろっ!」
ディリーヌは身を
ダナルークは
「
「知らぬ!」
「
ダナルークが棍棒に力を込めようとした、その時。
奥の扉の向こうから獣の
「な、
思わずダナルークが手を離して振り返った
「うぐっ!」
ディリーヌに
ど、ダーンという大きな音と共に扉が蹴り開けられ、ブルシモンが飛び込んで来た。
「その男を殺すな、ディリーヌ!」
気絶したダナルークがズルズルと倒れ、裸身が露わになると、今度は
「あまりジロジロ見ないでくれ」
「うむ、そうか。しかし、おまえの手錠を
ブルシモンは振り返り、押し殺した声で告げた。
「キゼア、エティック、何か着る物を探してくれ。それから、おれがいいと言うまでは、中に入って来るな。
二人の応ずる声が聞こえる
キゼアの「これでいいですか?」という声と共に、扉の
「うむ、いいだろう。ディリーヌ、取り
「すまん。しかし、どうやってここへ入ったのだ?」
「キゼアの
外套を羽織ったディリーヌは、気絶したままのダナルークに冷たい視線を向けた。
「いっそ、殺した方が良くないか?」
ブルシモンは
「
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