第5章 黒衣の宰相
帝都ヒロールの西区にある
警邏庁は交通も
そして今、ブルシモンとエティックを乗せたカランの馬車が、一般人の馬車が両脇に停車した道路の中央を走り出した。
その馬車の中で、ブルシモンが知り合い二人が逮捕されたという話を切り出すと、
「……ほう、そうですか。で、わたしにその二人を釈放しろと?」
すると、ブルシモンが答える
「当たり
これには、ブルシモンも顔を
が、カランは
「調べてみましょう。その上で、お二人が無実とわかればすぐに釈放させますよ」
エティックが「キゼアは無実に決まってるさ!」と叫ぶのをブルシモンが「少し黙っておれ!」と
「頼む。キゼア少年は無論だが、ディリーヌも決して悪い人間ではない。もし、何か法を
カランはおざなりに「そうでしょうとも」と
ブルシモンも「そうだったな」と
が、馬車を降るとすぐ、ブルシモンは「ちょっと
「え? 何がです?」
「おまえが騒いだせいで降ろされたのかと思ったが、おれたちが素直に降りようとしたら、あいつ、ホッとした顔をしやがった。おそらく、この件は初耳じゃないな。いや、ひょっとしたら、あいつ自身が何か
エティックは下唇を突き出して「そんなに
が、それに対する答えは、「さあな」という
一方、二人を馬車から降ろしたカランは、何度も舌打ちしていた。
「ったく、余計なことばかり。これじゃ、あの女と子供を釈放するまで、あのうるさい二人が
つい声が大きくなり、御者が「はい?」と返事をした。
「何でもありませんよ! それより、ちゃんと前を見て走らせなさい!」
「あ、いえ、もう到着しましたんで」
それを聞いてカランは大きく深呼吸した。
「ふう。宰相
サッと
行政府は巨大な白亜の
長い廊下を通り抜け、何度か階段を
扉の両脇に立っている
儀仗兵たちが左右に扉を開くと、入ってすぐ正面の机に、白髪の担当秘書官が座っていた。
秘書官は
カランは小さく
秘書官は「では、
カランは落ち着かない様子で横の控室に入ったが、
「これより、ダナルーク閣下がご面会くださいます」
「あっ、ありがとうございます!」
思わず飛び上がるようにして椅子から立つと、カランは秘書官の
行政府に勤務する者たちは、
と、秘書官が姿勢を正し、室内に向かって静かに声を掛けた。
「警邏庁刑事官のカランさまが参られました」
返事がないのが
カランはゴクリと唾を飲んでから、中へ入った。
「カランでございます」
小さめの声で告げながら深々と頭を下げ、その姿勢で待った。
と、
「はっ」
それでも一気に顔を上げず、
重厚な木目の机が見え、その上に積み上げられた書類が見え、黒い
カランは相手の
聞き終わっても
「え?」
いつの
地図にはフェケルノ帝国とその周辺諸国を含む南大陸の北半分と、その北にある海峡を
「これをどう見る、カラン?」
背中を向けたままのダナルークに問われ、カランは返答に
「どう、とは?」
思わず反問してしまい、
「わが帝国は、このままでは
「あ、はい」
取り
ダナルークは振り返ろうともせず、指で帝国の国境をなぞった。
「見るが良い。わが帝国の周辺は敵国ばかり。これ以上の領土拡大は望めず、国勢は
さすがにそこで言葉を切ると、
「ふむ。
「いえ、決して、そのようなことは」
「心配せずとも良い。あの神官は陛下の
「ははっ」
「が、
カランは思わずニヤリとしそうになり、すぐに「
それを知ってか知らずか、ダナルークは弁解するように続けた。
「別に美しい女だからという
「はあ? それはどういう……、あ、すみません」
相手の意図が読めずにカランが困惑するのを
「カランよ。その方、古代ツェウィナ人の秘宝のこと、存じておるか?」
カランは鼻で笑いそうになって、
「そりゃあ存じておりますが、あれは
が、ダナルークは笑みを消した。
「わしもそう思っておった。が、密告
どう解釈していいのかわからず、半笑いで聞いていたカランに、ダナルークの
「
カランは床に
「ど、どうかお
床に額を
目と口以外を
男が鞭で床を打つと、その音だけで、カランはビクッと身を
が、男が一歩前に出ようとしたところで、ダナルークが「待て」と命じた。
「
男は黙って
震えながら「ありがとうございます。ありがとうございます」と
「その方の苦しむ様を見ても楽しゅうはないからのう。わしの気が変わらぬうちに、
「ははーっ、
宰相執務室を出て
「警邏庁に戻ります」
「へい。意外に
が、一人になった
「あの変態
声が大きくなりすぎ、御者が「はい?」と聞いて来たため、「ああ、何でもありません!」と告げると、声を低めた。
「それにしても、古代ツェウィナ人の秘宝なんかを本気にするなんて、いよいよあの
カランは
が、馬車を降りるのと同時に、警邏庁の前で待っているブルシモンとエティックに気づき、ハッとしたように目を
「どうしたんです? まだ何か話があるのですか?」
ブルシモンが苦笑して「そうなんだ」と答えた。
「帰ろうとしてたんだが、自分たちが腹が減ってるのに気づいて、せめて何か食い物を差し入れしてやろうと思ったのさ。で、
カランは無理に笑顔を作り、「その必要はありませんよ」と告げた。
「キゼアという少年は今すぐ釈放しますから、連れて帰ってくださいな」
エティックは「やったぜ!」と喜んだが、ブルシモンはカランと
「ディリーヌはどうなる?」
すると、カランは
「宰相閣下が直々にご
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