第4章 孤島の罠
背後から声を掛けられてもディリーヌはまったく動ぜず、干した
「やっと
ディリーヌの前に、月明かりに照らされて三人の男が立っていた。
ガリガリに
「その
が、ディリーヌは動揺する
「慎重に
「ふん、剣なんか使わねえさ。てめえみてえな
髭面が
ディリーヌも笑顔のまま、大げさに驚いて見せた。
「ほう。三人とも船乗りだと聞いていたが、
ディリーヌの皮肉に痩せた男が顔色を変え、裏返った声で
「黙れ、この人殺しめ! てめえ、ケスの神官さまを
ディリーヌは悪びれずに
「ああ、殺したよ。そうそう、死ぬ前におまえたちに
「何だと、この
「たとえそうだとしても、だ。ケスの神殿は今、大騒ぎになってる。おれたちも役人に疑いを掛けられて困ってるんだ。一応、あの神官の死んだ時にゃ船の上にいたから
髭面が
「ああ。あの子が友達と二人でわたしの知り合いのところへ行った帰りに、一人でケス神殿へ向かったと聞き、
髭面は盛大に鼻を鳴らした。
「ちっとも良くねえ。先に
と、その時ディリーヌの頭がスッと下がり、背後から伸びて来た太い腕が
直後、ディリーヌの左足が後ろ向きに
髭面は「てめえっ!」と叫びながら持っていた剣を抜き
ディリーヌは止まらずに前へ走り、その勢いのまま痩せた男の
「へぐっ!」
もんどり打ってひっくり返った痩せた男には目もくれず、ディリーヌは振り向いて身構えた。
と、
その寸前、腰に巻いていた
バサッと音がして剣が上着を両断した時にはディリーヌの姿はそこになく、
月明かりの中、大きく
が、その時にはもう、頭上を通り過ぎたディリーヌの
「!」
三人の中で髭面だけは声も出せず、一瞬で
その時、パチ、パチ、パチと、
「なかなかの
そう言いながら
今起きたばかりのような
「わたしはこう見えても、帝国
ふざけた口ぶりの割には、カランの眠そうな目は少しも笑っていない。
「誤解だな。どこまで話を聞いていたのか知らんが、あの神官は妖魔に取り憑かれていたのだ。しかも、いたいけな少年の肉体で自分の欲望を満たそうとしていた。よって、
が、カランは下唇を曲げて首を振った。
「残念ですが、それはできない相談ですねえ」
「ほう、
カランは、
「あの神官が、皇帝
ディリーヌの表情が変わった。
「
キゼアは後ろ
カランは肩を
「手荒なことはしたくなかったのですが、この赤毛の少年が
「きさま!」
ディリーヌが一歩出ようとしたのと同時に、邏卒の一人が持っていた槍の
ディリーヌはギリッと奥歯を噛んで動きを
「この少年に罪はなかろう。いや、きさまの言い分のとおりなら、
カランは
「実は、かれの叔父という人物から
カランの言うとおり、キゼアを連れて来た数人だけでなく、周囲から十名を超える邏卒が姿を見せた。
それでも剣があれば何とか切り抜けられたろうが、その時には、倒れた髭面が握ったままの剣をカランが取り上げていた。
「へええ。随分と珍しい剣を持っていますねえ。この
意外に
ディリーヌは
縄の間から、
カランは感情を込めずに「
「さあ、皆さん、引き
と、帰還を命じたカランのところへ邏卒の一人が駆け寄って
「船乗り三名は、
カランの表情に、初めて
「
「はっ!」
翌朝。
帝国軍学校の
「すまんが、今日の
早くも厳しい鍛錬に
「何か、あったんですか?」
ブルシモンは言うべきか迷っているようだったが、周囲に
「
「えっ?」
「しかも、キゼアも
「どういうことすか!」
「しっ! 声が大きい。おれもまだ
「行くに決まってるでしょう!」
ブルシモンは、
「ならば約束してくれ。何があっても感情的になったり、暴れたりしないと」
「そんなの、行ってみなきゃわかりませんよ!」
口を
「
エティックは自分を落ち着かせるように深呼吸してから「わかりました」と
「でも、なんか
ブルシモンは、らしくもなく
「あるにはあるが、あいつの
「あいつ?」
「ああ。おれが軍学校初等科の生徒だった頃、同級生だった男だ。今は警邏庁の刑事官になっているはずの、カランという変わり者だ」
「伝手がないよりは、いいですよ」
「だと、いいがな」
警邏庁は帝国の行政を実質的に取り
従って昨夜の逮捕の詳細については、刑事官のカラン自身が宰相のいる行政府へ出向いて行わねばならなかった。
「死んだのが皇帝の縁者でなきゃ、こんな面倒はなかったのにねえ」
ブツクサと
「
断られた役人は、
「ですが、相手は刑事官の古い知り合いだと申されておりますし、何より一緒に来ている若者が
カランは冷たく言い返した。
「あなたも警邏庁の人間でしょう? まあ、事務官ではあるのでしょうが、それでも外部の人間に
その時部屋の外から「止まれ!」「それ以上中に入るな!」「逮捕するぞ!」というような制止の声と、「通してくれ!」「通せって言ってんだろ!」という声が
カランが「あの声は……」と
「なあ、カラン。
カランは普段は眠たそうな目をカッと
「お
「おお、
ブルシモンは
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