第2章 白亜の魔宮
帝都ヒロールは、別名を
城下の建物は白亜の石造りに統一され、定期的な
その一角にある帝国軍学校の門の前に、エティックとキゼアの二人がいた。
あのダンバの森の事件から、四日後のことである。
「さあ、ここまで来たらもういいだろう。ぼくは帰るよ」
キゼアにそう言われると、エティックは少し
「う、うん。まあ、そうだよな。指導教官のブルシモンという人に、女剣士ディリーヌの知り合いだと言えばいいだけだからな。それぐらい、おいら一人でやんなきゃ……。でも、本当に大丈夫かな?」
キゼアは苦笑した。
「打ち首になるかもってのは、悪い冗談さ。あの女剣士は多少ぶっきらぼうだが、悪い人じゃないと思うよ」
「だよな」
と、門の中から「そこでゴチャゴチャ
ギクリと
身長こそエティックと
その胸の上に、そこら辺の山から持って来た岩をポンと置いたような
極端に短く
男は意外にも
が、エティックが口を
「ああ、訊くまでもなかったな。そっちのちっこいのが剣士を
少年二人ともに失礼なことを言うと、男は
やや
「指導教官のブルシモンさまでしょうか?」
男は改めてキゼアの顔を見て「ふむ。いい
「おれが帝国軍学校指導教官のブルシモンだ。エティックとやら、ずっと黙っておるが、入学したいというのは
顔を真っ赤にして「何だと、この野郎!」と
「
そう言われたとて、
エティックは腰に差していた剣を
それを見たブルシモンが
「どうした? 遠慮は
「くそっ!」
エティックは両腕を前に構えたまま少し腰を落とし、
が、ブルシモンの
何らかの急所を押えているらしく、それだけでエティックは動けない。
しかも、
「ぐあっ!」
思わず声を上げたエティックのガラ
「待ってください!」
キゼアが叫ぶのとほぼ同時に、ブルシモンの
その
そのまま尻もちを
「
キゼアも多少声を荒げて答えた。
「あのままではエティックが殺されると思ったからです」
ブルシモンは口を
「本当に殺すつもりなら、最初にやっている。おまえは武道を知らぬから無理もないが、あれは途中で止めるつもりの蹴りだったのだ。逆に、おまえが
ハッとしたようにキゼアがエティックの方を見ると、泣き笑いのような顔で「
「で、おいらは合格だろ、先生?」
ブルシモンは軽く肩を
「まあ、
「
飛び上がって喜んだエティックは、すぐに「
それを横目で見ながらフッと笑ったキゼアは、改めてブルシモンに頭を下げた。
「
笑顔で
キゼアの表情が少し
「はい。畑仕事が残っていますので、駅馬車を乗り継ぎ、明日の朝までには帰らなければなりません」
そのまま
「そんなに急いで
キゼアが
「やめた方がいい。そもそも未成年者は場内に入れてくれぬし、途中で悪い
言い出したエティックも「ああ、そうだった。すまねえ」と
「おいらと違っておめえはちょっと
キゼアも苦笑して「おまえに言われたくないよ」と言い返した。
「まあ、帰る前に寄りたいところが、なくもないけどね」
「へえ。どこだ?」
「ケス神殿さ」
すると、横で聞いていたブルシモンが
「ほう。確かおまえたちはアナン州、つまり旧アナン王国の者だとディリーヌの手紙に書いてあったと思うが?」
「ええ。アナン州のアージュ村の者です。けれど、ケスの女神はヒロールだけでなく、帝国全体の守り神でもあるはずでしょう?」
ブルシモンは下唇を少し突き出した。
「まあ、
「
改めてエティックに「
女神ケスは、ヒロールが小さな港町であった時代からの守り神で、町の発展と共にその
元々海運の守護神であったためその神殿は海に向かって建てられており、真っ直ぐな参道の先は海岸まで続いている。
キゼアは市街地の方から歩いて行ったため、その裏門の方に到着した。
美しく整備された表門とは違い、どこかしら陰気で、空気も少し
初めてここを
「今、何て言いやがった、
近くに人がいるとは思わなかったキゼアは、ギクリとして声がした方を見た。
太い門柱の後ろから
一人はガリガリに
その髭の間から、黄ばんだ歯が見えた。
「何て言ったかって、聞いてんだ。もう
最初に声を掛けたのもこの
キゼアに連れがいないか確認しているのだ。
精神を集中する余裕があれば、不完全でも魔道の
キゼアは極力相手を刺激しないように、
「失礼があったなら、すみませんでした。別に、このケス神殿を
髭面が
「へええ。するとてめえは、おれたちの神殿が汚ねえと、そう言うんだな?」
「いえ、決してそのような……。おれたちの?」
ひたすら謝ってこの場から逃げるつもりが、キゼアはつい疑問を口にしてしまった。
すると、痩せた男が
「当たり
「何が言いたいんですか?」
思わず反問した後、キゼアはしまったという顔になった。
いつの間にか太った男が背後に回っており、退路を
髭面が、黄色い歯を
「この
「よせっ!
キゼアの叫びは、後ろから回された太い手によって中断された。
耳元でゼイゼイと
……キゼアが意識を取り戻すと、薄暗い室内に横たわっていた。
床は大理石らしく、ひんやりと冷たい。
「目を
声のした方を向いたが、暗すぎて人物の
長い髪をしているが、声の感じは男のようだ。
少なくとも、あの三人組ではなかった。
その時になって
「助けてください。悪い奴らに捕まって……」
長い髪の男は、
「わかっていますよ。でもね、かれらも生活が苦しいあまり、あんなことをしたのです。だから、たっぷりとお
「お礼?」
「ええ、そうですとも。わたくしも聖職者として自分の欲望を抑え、ここ数年はスンチュの男娼窟に行くのを
「な、何を言ってるんですか、あなたは?」
キゼアの質問には答えず、長い髪の男は
男は年齢不詳ながら、貴族的な整った顔をしており、長い髪も瞳も
白い
が、キゼアはその男の様子より、
壁のあちこちに点々と着いている
絶句するキゼアの耳に、
「おやおや、そんなに目を
長い髪の男がクワッと口を大きく開くと、太い
舌は蛇のようにウネウネとくねりながら伸びて、キゼアの顔に迫って来ている。
「ううっ、妖魔だったのか!」
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