第36話 お守り
広い草原。
小高い丘の上に小さな二階建ての一軒家がある。この付近、いや、この世界にはかつて数十億の人が住んでいたが、『見えざる手』と呼ばれる幽霊たちによって人々が連れていかれる現象によって人口は激減している。
家の前に8歳の少女──ここみとボロボロの学生服を着ている姉のここると若い男カズが立っている。
カズはしゃがんでここみに目線を合わせて言った。
「ここみには、このお守りをあげよう。母さんの形見だ」
ここみはお守りを受け取って言った。
「おとーさん、ホントにいいの? おまもりがないと、おかーさんみたいにオバケにつれてかれちゃうよ?」
「俺は自分の分を持ってるから大丈夫だ」
苦笑いしながらそう言ってカズは立ち上がった。
「おとーさん、ホントにもってるの? みせ──」
ここるが遮るように言った。
「お父さん、言ってらっしゃい。お母さんが見つかったらすぐに帰ってきてね」
夜 丘の上の家の側でここるとカズが立ち話をしている。
ここるが言った。
「本当に自殺をするの? ──物資が手に入らないけど。 私が頑張って食料も衣類もやりくりするから! あの子の側に……いてあげられない?」
カズはかぶりをふる。
「口べらしをする必要がある。それは僕の役目だ」
「あの子に私のことを姉だといつまで思わせるの?」
「しょうがないさ、僕たちの結婚は早すぎたんだ。周りに嘘をついて──ここみにも嘘をつくしか──つき続けるしかない」
そういってカズは二つ持ってるお守りのうちの一つをここるに渡した。
「愛してるよ。ここる」
「私も」
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