第25話 方舟

灰色の空。ぱらぱらと雪が降っている。昼間なのに薄暗い。

広い大地で男達が入り乱れて銃剣を突き刺し合っている。

10代半ばのみすぼらしい服装の少年が妹の手を引いて男たちの間をすり抜けるようにして走る──びしゃびしゃと血でぬかるんだ土のを上を。

世界のあちこちで戦争が起きている。長い戦争。誰がどんな理由で始めたかすら忘れ去られ、ただ目の前に人がいるから殺す。

兄妹は神父の子供。戦争が終わるよう、毎日、教会でお祈りしていたが先日、暴漢が押し入ってきて父を殺害。二人は命からがら逃げ延びた。

「頑張って走れ! 生きていれば主がきっと救ってくださるから! 」

二人は走っていると膝の辺りに違和感を覚えた。

「お兄ちゃん、何これ?」

立ち止まった妹がそういった。

徐々に血の海の水位が上がってきたのだ。やがてそれは妹の下腹部──兄のみぞおちのあたりまで来る。

ぽつん。

空から一滴の青い水滴が落ちる。

兄が空を指差した。木造の飛行船が下りてくる。

「あれは……救いだ 」

急いで船に乗った。

船内には人間以外の動物が乗っていた。

そして船は、はるか上空へ浮上した。

長い年月が経過して、地上はもとに戻った。

そしてまた人類が誕生して、争いを始めた。

血の海の水位がまたあがり始める。

ぽつん、ぽつん。二滴の青い水滴が空から落ちてくる。


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