第16話 天才少年画家と前衛芸術家の両親
空に雲がかかっていて薄暗い昼。
寂れた下町にあるボロボロな家。
中にある子供部屋のベッドの上で少年が目を覚ました。
少年──宗一は上半身を起こして、側にある机の上の鉛筆とスケッチブックを手にとって絵を描き始めた。
太った女──母の鈴子が部屋に入ってきた。
「宗一、絵を描いていていいの? お医者さんに大人しくしてるように言われなかった?」
「『絵を描いてもいい』って言ってたよ!」
鈴子が宗一の側へ行ってしゃがんで目線を合わせる。
「宗一は芸術家になりたいんだよね?」
「うん! 僕は芸術に人生と全てを捧げたい! さういう芸術家になりたい!」
鈴子は子供部屋を出て、夫の仕事部屋へ行った。夫──和久は、椅子に座って頭を抱えていた。
「鈴子、宗一はもう長くない」
鈴子はうつむいて唇を噛んで、体を小刻みに震わせてぽろぽろと涙を流しながら怒鳴りちらした!
「どうして!? あの子は何も悪いことしていないのに! 芸術家になりたいのに! 才能があるのに!」
和久は言った。
「俺たちは薬を買ってやることすら出来なかったからな……。あの時、買えれば治ったのかもなぁ。まぁ、今でも買えないが。売れない芸術家の辛いところだ」
「どうして!? なんでそんなに冷静なの!?」
「俺たちが取り乱してどうする! 宗一は全てを捧げたいって言ってたよな?」
和久と鈴子はホテルで偉大な前衛芸術家として表彰された。宗一の骨を砕いて砂時計の中に入れた『命の砂』という作品だ。
夕方。
和久と鈴子はタクシーに乗っている。
「ありがとう。お父さん、お母さん。僕は芸術に全てを捧げられたよ」
鈴子が泣きながら謝る。
「ごめんね。宗一を利用して。ごめんね」
タクシーは交通事故に遭った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます