30.愛は時間を超えて

 イケメンが恥ずかしそうにモジモジしているところはなかなか絵になる、美知子はそんな風に金子を見つめていた。あの華奢な身体をイジメたらどんな反応をするだろうか。これは浮気じゃないしいつかやってみたい、よりによって桃子を呼びに行って戻って来ながら、彼女はそんなことを考えていた。


 当然そんなことは知らない金子はウキウキとドキドキが混じった複雑な気分で桃子が来るのを待っていた。そんな金子よりも待ち遠しそうに校舎の奥を眺めている高波は、戻ってきた美知子の姿を確認し子供のようにピョンピョンと飛び跳ねた。


「おい! 金ちゃん! 桃子が来たぞ!

 どうする? 隠れた方がいいか? それとも応援した方がいいかな」


「わかったからおちけつ!

 向こう側の自販機のとこにでもいてくれよ。

 俺が一人でバッチリ決めて見せるからさ!」


「わかった、健闘を祈る!

 終わったら遊び行こうぜ、今日はバッチリだから」


 高波はそう言って尻ポケットをポンポンと叩いた。どうやら懐が温かいらしいが、その出どこを聞かずとも誰もが判っている。自分を囲っている女性から小遣いをもらうことが、立派かどうかは別にして高波がバイトと同じだと思っているのは確かだからだ。


 この中で一番テンションが高い高波を道路の向こう側へ追いやった金子は、桃子と二週間ぶり二度目の対面を果たしていた。遊び人の金子がこんなに緊張することは珍しいが、元来大人しい性格だからかいざという時に本性が顔を出してしまうのだろう。


「よお、こないだブリ、相変わらず部活がんばってんだな。

 忙しいとこ何度も来ちまって悪かった、迷惑か?」


「そうね…… どちらかと言うと迷惑、かな……」


「やっぱそうなのか、そんじゃきちっと割り切って引き下がるわ。

 急に押しかけちまって悪かったよ、すまん」


「うん、私もメッセ返さなくてごめんね。

 金子君にとっては遊び相手の一人かもしれないけど、私はそういうの無理なの」


「はぁ!? 俺はそんなつもりで来たわけじゃねえよ。

 一年以上、いや中学ん時も合わせると四年くらいもんもんとしちまってさ。

 どうにも気持ちの整理がつかねえからナミタカに便乗して来ちまったんだ。

 一人じゃ好きな女に会いに来ることも出来ねえヘタレだよ!

 でも俺は桃子のことがずっと前から好きなんだよ!」


 思いのほか大きな声が出てしまい、金子は自分でも驚きつつ、帰宅する西高生たちが一斉に振り向いたことにも気が付いた。すると目の前の桃子の顔がみるみると――


「金子君ってばバカなの!? こんなとこで大声出さないでよね!

 私だってす、好きって言うかずっと気になってるんだから……

 でもいっつも誰かしらと付き合ってる割りに私には声かけてこないからさぁ。

 普通は脈無しだと思うじゃない?」


「それってもしかして……!?

 んじゃなんで返事くれなかったんよー

 俺ってば学校行っても勉強に身が入らなくて困ってたのになぁ」


「そうやって平気で嘘つくから信用できなくなるんじゃないの!

 ホントバカ! こないだのゲーセンで待っててくれる?

 部活終ってから行くから…… 後でちゃんと返事するね」


「おう、待ってんよ!

 もしかして俺も自転車買った方がいいか?」


「バーカ、気が早すぎるのよ! じゃあまた後でね」


 桃子はこうして部活へ戻って行き、金子は高波たちの待つ道路の反対側へと走って行く。もちろん金子本人は好感触を得てご機嫌だったのだが――


 そこでは幸せを持ち帰ってきた男を迎える場としては相応しくない修羅場が展開されている真っ最中だった。

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