29.愛され男子
完全部外者の久美が一緒にいたせいか、金子はリラックスして校門の前に立っていた。今日こそ一言でいいからとっかかりが欲しいし、欲を言えばきっちりと次の約束が出来たらいい、そう考えていた。
その緩衝剤たる久美は、なんでついて来てしまったのかと後悔していた。高波のことを意識しているし、心理的には好きであることは間違いない。しかし軽蔑している面も有って付き合いたいなんて踏み込んだ関係になりたいとは思っていないはず。
それなのに目の前でいちゃいちゃしているところは見せつけられるし、久美が高波のことを好きな前提で話は進むし、アノ彼女はそんなことを気にも留めず余裕に構えているしで踏んだり蹴ったりどころではない。
だがそう思うのも仕方がないとも思える。なんと言っても高波は、いや金子も同様にルックスだけはバツグンなのだ。顔立ちは整っていて背は高く、髪の毛は長めでさらさら、着崩した制服の胸元にはシルバーのアクセサリーが光ってチョイ悪感と、女子の好む雰囲気である。
金子は金子でヒョロヒョロでガリガリなのだが、不真面目感がロックバンドのメンバーか何かを連想させるが清潔感がある。こちらは短めの黒髪をツンツンにセットしていて頬のコケ具合がまたいい感じのカッコよさを醸し出している。
そして校門を通り過ぎる西高の女子生徒たちは、ほとんど全員が目を止め振り返り、場合に寄っては足まで止めてガン見してくのだ。十人並みのルックスを持つ久美が一緒にいると視線が痛すぎて顔が赤くなってきてしまう。
「ちょっとさぁ、もっと目立たない場所で待つとかできないわけ?
さっきからすごく視線を感じるんだけどさぁ……」
「見られてるのそんな気になるか?
ま、ナミタカとつるんでれば慣れると思うぜ?
俺も中学んときは緊張したりケンカ売られたり色々あったけどな。
今は全く気にならねえよ」
「そりゃ金子君はそうだろうけどさ……
アタシは別につるんでるわけじゃないんだから緊張もするわよ」
「だから勝手について来たのは貞子じゃねえか。
なんで文句言うんだよ、逆ギレか?
お前も金ちゃんみたく堂々としてればいいんだよ。
こうさ、ちょっと脚を前後に置いて斜めに立ってみ?
顎をちょっとだけ突き出すみたいにして腕はこうな」
「ちょっとやめなさいよ! なんでアタシがこんなとこでモデル立ちすんのよ!
こんなことしたら余計に恥ずかしいってわかるでしょうに!」
「そうかな? リリ子はいっつも見られること意識しろって言うからなぁ。
女は見られていることを意識した方がきれいになるってよく言ってるぞ?」
「今は見られたくないからきれいに慣れなくても我慢するわよ。
とにかくアンタたちってば目立ち過ぎなのよねぇ。
学校にいるときは意識しないけど、外で一緒にいるとよくわかるわね。
凡人がアンタたちと一緒に行動するのは覚悟が必要よ」
「貞子は大げさだなぁ、凡人とか言っちゃって考えすぎなんだよ。
人間なんてみんな自分を特別だと思うもんじゃねえの?
でも実際には凡人だからギャップに悩んだりするわけじゃん?」
「いやいや、金子君はともかく、高波君はあり得ないくらい特別、いや特殊かな。
こういうこと言うと誤解招くかもしれないけど、雰囲気って言うの?
オーラがあるとかカリスマ性ってこのことなんだろうなって思うもの。
アタシがどう思ってるとかって話じゃないわよ? 周囲からの評価含めてね」
「そりゃいい線行ってると思うよ。
ナミタカって本人は自然体のつもりらしいけど実際はそんなことないだろ?
明らかに常人とは違う眼力があるっていうのかね?
特に女子からの見られ方は明らかにおかしいだろ」
「そうよね、実績と噂で裏付けられてるのにそれでも寄って行くんだもの。
言い寄る子たちには真面目な子も多いし、正直信じられないわね……」
「まあ貞子もその一人なわけだが。
でもナミタカにここまで近づいてくる女子なんて
それなのにガードも固くて謎が多いよ、どうしたいのかわからんもん」
「アタシもわかんないから困ってんじゃないの!
今日だってなぜかついてきちゃったしさぁ……」
久美は友達に会いに行くついでだに西高までついて来たと言っていたことなんてすでに頭から抜け落ちている。そして美知子が見せる余裕が、自分の気持ちを逆なでしていることにも気づいておらず、誰かを連れて戻ってくる彼女をただ眺めるのだった。
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