22.愛溢れる朝

 高波と美知子の出会いから二週間ほどが過ぎていた。高波は今までと変わらず保護者パトロンの家をローテーションしながら学校へ通うと言う生活を続けていたが、そこに美知子もついて回るようになった。


 支援女性たちは消極的納得と言うことで受け入れてはいるが、主体となっている七名だけで他の五名はほぼお役御免と言ったところか。しかしその中でもガチ恋度の高めな山上麗子だけは、諦めきれない様子でしばしば美咲へ連絡を取っていた。


 だが仕送りで暮らす普通の大学生でワンルームに暮らす麗子が、他の七名と同じような奉仕・・をすることは難しく、割のいいバイトをするかどうか悩んでいた。しかし理系の学部生であるためバイト時間にも限りがある。


 同じく普通の大学生である美咲と智代はいいとこのお嬢様らしく、マンションは数ランク上の分譲で親の所有物と聞いた。三人もいたら身動き取れない麗子の安マンションとは大違いである。


「なんで私はノケモノにされちゃったんだろ……

 タカシを好きな気持ちは変わらないはずなのになんで……」


 授業に身が入らない麗子だが、この日は朝から休講で一日開いてしまったことで余計に寂しさが膨らんでいた。そしてとうとう高波に会いたいと言う気持ちが抑えきれず、みんなでご法度と決めていたはずの行動に出てしまった。



「よお、やっぱダメなんじゃねえかと思うわけよ……

 結局桃子からは一回も返事ないし、西高まで行くのもなんかちげえし。

 はあ、ナミタカとメガッチが眩しいぜ」


「オレはともかくメガッチはやべえよな。

 なんか最近は堂々としてきたからか他の奴らも一目置いてるって感じじゃね?

 谷前も少しすっきりしてかわいくなってきて驚きだよ」


「だーかーらー、もう諦めた方がいいか教えてくれよ。

 お前の勘といちご牛乳だけが頼りなんだからさ。

 あ、今日はコーヒー牛乳でヨロ」


 桃子からの返事が一切なく落ち込み続けている金子には、約束通り毎日パック牛乳を奢る羽目になっている高波だった。だが彼の勘は絶対うまく行くはずだと告げている。もちろん根拠はない。


「んじゃ仕方ねえ、ミチに聞いてもらうとすっか。

 あいつガッコでは浮いてて友達いねえからそゆことすんの結構大変なんだぜ?

 桃子とは一回遊んだから平気かと思ったんだけどそうでもないらしくてさ。

 迷惑かかるから話しかけられないって悩んでたわ、マジかわいくね?」


「あーカワイイカワイイ、美知子ちゃんは最高だよ。

 んで? その最高の彼女を連れて他の女んち泊めてもらって?

 そのまま3Pしたりそれぞれとヤっちゃったりしてんだろ?

 こればっかは理解を超えてもう頭がおかしくなりそうだよ」


「いや、なんつーの? オレはみんなのもんだから平等にって感じ?

 やっぱいくら彼女だからって言ったってさ、保護者の言うことは聞かないとだろ」


「ぜってえわからん、ナミタカの考えは一生理解できないと悟ったわ。

 メガッチもそう思うだろ? っておい!」


 金子が大内へ話しかけたと思った相手は貞岡久美だった。いつの間にか高波と反対側の隣にやって来ていた久美は、二人の話を盗み聞きしていた。


「相変わらず朝からゲスい話してるよね……

 こんな二人がモテるなんてホント信じらんないよ。

 しかも女子はそれを承知で吸い寄せられて行っちゃうんだもんね。

 なんかフェロモンみたいなの出てるのかな、クンクン」


「こらこら俺の匂いを嗅ぐんじゃない。

 最近欲求不満過ぎて今日も朝からオナニーしてきたのばれちゃうだろ?」


「お! んもう! バカ! ヘンタイ! バ金子!」『バシンバシン!』


「いて、いてえ、冗談だっての、朝からそんなことしてねえよ。

 でもメガッチみたいに毎日やりまくってるよりは健全だろうが」


「ええ!? 大内君が? その…… 谷前さんと?

 そんなにうまくいってるんだね、ちょっとまあ、アレ、だけどさ……」


「そんなに恥ずかしいなら話に絡んでこなきゃいいのによー。

 貞子はホント耳年増だよな、そういうのムッツリって言うんだぜ?」


「うるさい、どっちも似た者同士でホントムカツク!

 バカ! このエロ猿! ってあれ? なんだろあの女性ひと

 キョロキョロしてるけど誰か探してるのかな、不審者?」


「あらら? 麗子じゃんか、学校に来るの禁止なのに珍しいな。

 なんか急用かもしんないからオレ行って来るよ」


「ああ、アンタのアレなのね……」


「しかし貞子もわかりやすいよなぁ。

 ナミタカのこと好きなら言っちゃえばいいじゃんか。

 どうせ今あいつの周りにいる女と同じで特別な一人にはなれないんだしよ。

 割り切った方が楽だぞ?」


「ななな、なな、何言ってんのよ!

 アタシはあいつのことなんて好きじゃないわよ。

 ただちょっと気になるっていうか…… 時々なんか違う雰囲気あるっていうか」


「それって恋とか片思いとかっていうやつだろうが。

 少女マンガによくある展開っつーの?」


 金子は厄日なのか自爆なのか、再び貞岡久美に叩かれまくっていた。

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