23.愛が散る朝
自分の元へ駆けてくる最愛の
朝の通学路は同じ制服だらけで、大学生っぽい私服でうろうろキョロキョロしている姿は良く目立つ。でもそのおかげで彼が気付いてくれた、少なくとも麗子はそう信じ嬉しかった。
「麗子、どうしたん? ガッコまで来たらみんなに怒られちゃうんじゃない?
オレは黙ってるから誰にも言っちゃダメだぜ?
なんか急用があるなら聞かせてよ」
「ええとね、私はもう今迄みたいに出来ないみたいなの。
美咲たちから仲間外れにされちゃったから……
だからタカシにお別れが言いたくてね」
「そっか、麗子がそう決めたんじゃ仕方ないもんね。
それじゃ元気で、どっかで会ったら声かけてよ?
オレは別に麗子のことも他の子のことも嫌いになってなってないんだからさ」
「そうよね、タカシってそういう子だって知ってた。
私はずっと大好きだからそれだけは信じて?
嫌われてないのもわかってる、でも愛されてないこともわかってるの」
「まあそれはみんな公平なことだからさ。
だからオレのこと恨んだり憎んだりしてもいいよ?
そういうもんだってわかってるから気にしないし」
「うん…… だから、ね? サヨナラ」
麗子は別れの言葉をつぶやくと、高波の腹部めがけて小さなナイフを突き立てた。通学中で人の多い通りだったが、電柱の陰で話している二人は傍から見てただならぬ雰囲気であり、高波のことを知っている生徒は、女性問題をいつも抱えていると思い込んでいることが多く、なるべく関わりたくないと存在を無視するように歩いていた。
そのためパッと見は抱きついたようにしか見えないが、さっきまで高波と一緒に歩いていた金子と貞岡久美はその手元に何かが光ったことに気付いていた。金子は急いで走り出し、久美はその場に崩れてへたり込んでしまった。
「ナミタカ! おい、平気なのか!?」
「バッカ、デケエ声出すなってば、オレは平気だよ。
でも横から見えないように隠してくれ、騒ぎになると面倒だかんさ」
金子が高波の腹の辺りを覗くと、腹の手前で止まっているナイフが見えた。だがナイフを抑えた手は切ってしまったらしく血が垂れている。刺した側の麗子は顔面蒼白になりガタガタと震えていた。
「ちょっとポケットからハンカチ出してくれ。
カバンの中のタオルも頼む」
「お、おう、わかった、本当に刺さってねえんだな?
この人は平気なのか? めっちゃ震えてっけど?」
「麗子? 麗子? オレは大丈夫だから手を離してくれよ。
そうそう、それでいい、返り血はついてないな。
んじゃゆっくりと下がってそのまま帰りなよ。
オレは誰にも言わないから大丈夫、心配ないから今までの生活に戻ってくれな」
麗子は声が出ないままにコクリコクリと二度うなずき、高波の言うことに従ってゆっくりと離れ帰って行った。その隙にナイフをタオルで包み、ハンカチで血を止めながらその手をポケットへ突っ込む。
「ふう、これで良し、万事解決だな」
「ふざけんなよ…… どこが解決だっての。
マジで怪我は平気なんだな?」
「まだちょっと痛えけど手だけだよ。
腹はなんともない、マジでこの防刃ベストってすげえわ。
美咲ちゃんが買ってくれたんだけど、役立つ時が来るなんて思って無かったよ」
「そんな日は来ない方が良かったけどな。
おい、それよりもあそこで動けなくなってるやつがいるからさ。
せめて声だけでもかけてやれよ?」
「あら? 貞子からも見えてたのか。
でも金ちゃんが気が付いてくれて良かったよ、サンキューね」
「見たかなかったけど見えちまったしなぁ。
あんまこんなとこにいると帰って目立っちまうな。
ここまで来たけどサボっちまうか?」
「うーん、それはしないようにって約束してるからな。
とりあえず保健室で治療してもらうかな。
その前に貞子を拾わねえと、チビってるとまずいしよ、ワロ」
高波と金子は久美がへたり込んでいるところまで戻って行き、立ちあがらせてから涙を拭いてやった。しかしそのハンカチは高波の血を拭いたばかりのものだったので、久美は再び腰を抜かしてしまった。
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