第11話 黒狼大蛇の追憶

 黒狼大蛇(おれ)は自分に与えられた能力には満足していた。


 このゲームを始める前は騎士とか魔術師になることなどを考えていたが、蓋を開ければ「犯罪者になれ」と言わんばかりの能力。


 『異世界で好き勝手に生きる』というのがゲームのコンセプトの一つだ。ならばといった感じに黒狼は盗人ムーブをはじめた。家屋に浸入し、物を盗み、他人に嫌がらせをする。現実世界では出来ないことが出来るのは非常に楽しかった。


 いつしかゲーム内で賞金首になり、騎士団や他のプレイヤーに追われたり、牢にぶち込まれたり、自分と同じ『大罪』を冠する者たちと徒党を組んだりなど、ゲームを堪能した。


 『あの日』が来るまでは。


 元の世界が霧散し、『Unknown World』が現実となった時にも、いつも通りに過ごした。実感が無かったのだ。ここが現実だという実感が。


 嫌でも思い出す攻略前の最後の黄泉送りになった時。騎士団に囲まれリンチのように攻撃され『死亡』した時のこと。剣が刺された時の痛み。殴られた時の痛み。焼かれた時の痛み。嫌でも『現実』ってものを突き付けられた。


 向こうの世界で『○○ ○○』だった俺はもういない。この『黒狼 大蛇』こそが俺になったのだと。死ぬ直前になってやっと理解した。


 そのあとは何も面白くはない。第十二界で適当に任期を過ごし、黄泉帰りをした後はおとなしくしていようかと思ったら連行されて今に至るというわけだ。


 『一点紅』のおばさんに強制され、『二つの道』の罵倒を受けながら攻略とかをさせられている。


 この世界は死んでも問題無いが、痛いものは痛い。俺はもう痛いのは嫌だ。今までのツケを払うべきだと周りは言うが、くだらない。犯罪者になるべく異世界に生まれた『黒狼大蛇』にはそんな覚悟なんて持っているわけないだろう。他の奴ら(プレイヤー)だってそうだ。今まで好き勝手生きてきたのは同じだ。ただ後付けで好意的に見られた連中は俺の苦しみなどわからないだろう。小物だと笑うなら笑えば良い。


 正義だとか平和のためとか陳腐な動機でなく、強制的に働かされている小悪党。ただ「痛い目にあいたくない」。俺が気張るのはそんなもので良い。


 目の端に捉えた砲塔から発射されるレーザーを躱し、泥水のような思考を打ち切る。


 雨のように照射されるレーザーをも能力を使用し避ける。

 黒狼の能力の真骨頂は透明化ではなく、透過能力。機械兵の攻撃や殺意の高い罠も関係無しに、壁をも無視しながら文字通り一直線に目的地を目指す。


 『黒狼!すごい勢いで機械兵の大群が迫ってきているわよ!考えなしに突っ込んで大丈夫なの!?』


 「・・・文句言うな。これしか道は無かっただろ。・・・それに、『種』は撒いてある」


 黒狼の持つ能力。『大罪』を冠する者たちに与えられたある副次的な力。それが芽吹く。

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