第3話 始動

 煌びやかでそれでいて荘厳な部屋。その空気は非常に重苦しいものであった。


 「被害の状況は?」


 そんな空気を切り裂く様に凛々しい女性の声が響く。


 「騎士団より報告します。『第一界』より機械兵が侵攻し、西一番地区を襲撃。近辺を巡回中であった『六道』の一人と騎士団が交戦しこれを撃退。町の一部が破壊されましたが住民の被害は無いようです」


 その声にまず応えたのは甲冑を着た騎士であった。騎士の報告に喜びの声がちらほらと出た、が。


 「魔術師団より報告・・・『第三界』扉の光源が弱まった際に闇が侵食。儂のところの魔術師24名が攫われた・・・住民に被害は無く、どうにか光源を戻したが・・・」


 ローブを着た魔術師の長の報告により空気はまた重苦しいものとなった。


 「住民の被害が無かっただけ良かったとは思えないわね・・・他のところに動きはないかしら?」


 「『第十界』に調査に出かけた隊からは一切連絡が無い。『第十二界』からの黄泉帰りも確認されていない」


 「いつも通りに何も進展の無いまま被害だけが出ているということね」


 うんざりとそう言う女性に返す言葉も無いのか沈黙を返す面々。


 「状況を打破できるのは、我々とは一線を画す強者・・・『傲慢』の彼、いや、せめて他の『大罪』メンバーがこちらと協力してくれれば・・・」


 一人が縋るように希望を口にする。


 「犯罪者どもの助けなぞ・・・」

 「そんなことを言っている場合か!?」

 「『傲慢』は今どこにいるかもわからないし、他のメンバーは未だ第十二界からの黄泉帰りを果たしてないわ。望み薄ね」

 「クソッ!全てが終わる瀬戸際だぞ!他の強者たち(プレイヤー)はどうした!」


 机を叩き大声で喚く騎士。口には出さずとも彼の言葉は会議出席者が皆思っていることだった。


 「『二つの道』は相変わらず部屋にこもって睦あっているし、『四獣』は能力を御しきれていない。協力的な『六道』は防衛や警邏に回っていて手一杯・・・」


 ため息が聞こえる。力が及ばずに誰かに頼らなくてはならぬ情けなさと、思うように動いてくれない強者たちへの苛立ちがこもっている。


 「もう一度他の強者たち(プレイヤー)へ協力を打診してみます。彼らも自分勝手とはいえ後が無いことは知っているはずですから」

 「おお・・・『一点紅』様・・・あなたばかりに無理をさせて申し訳ない・・・」


 『一点紅』と呼ばれた女性が席を立ち部屋から出ようとしたとき、勢いよく会議室のドアが開かれた。


 「報告します!強者たち(プレイヤー)の黄泉帰りが確認されました!」


 それは待ちに待った報告だった。


 「誰!?誰が帰ってきたの!?」

 「犯罪者集団『大罪』がひとり、黒狼大蛇(こくろうおろち)です!」

 「あの盗人か・・・いや、今はどんな奴であれ戦力が欲しい!何としてでもここに連れてこい!」

 「『二つの道』の二人も部屋から引きずり出せ!今こそ動き出す時だ!」

 火が点いたように会議室は慌ただしくなった。指示が飛び交い、何人かが部屋を飛び出していった。さっきまでの通夜のような空気が嘘のようだ。今目の前にかすかに見えた蜘蛛の糸をつかもうと動き始めた。

「私は変わらず強者たち(プレイヤー)とコンタクトを取るわ。『六道』たちには変わらず防衛に当たってもらうにしても、攻略のメンバーはしっかり考えないと。他のところからの侵攻で滅ぼされたらいけないしね」


『一点紅』は会議室を出て行った。部屋はわずかに見えた希望の光に浮足立つように慌ただしくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る