第3話 10月13日 3本目

13日の金曜日といえば、あの有名な映画がありますよね。

もともとキリスト教圏内では、『13』という数字は不吉な数字だとされていたから、つけられたタイトルだそうですよ。


ただ、我々サラリーマンにとっては、金曜日はありがたい曜日ですよね。だって、次の日がお休みなんですから。

昔しは、国を上げて「ハッピーフライデー」なんて、馬鹿な言葉を流行らせようとしたぐらいです。


まぁかくゆう私も、その言葉に踊らされて金曜の夜は、仕事帰りに飲んで遊び歩いていたんですがね。


これは、そんな私が体験した話しなんですよ。


その日は、今日と同じ13日の金曜日でした。

仕事終わりに仲間内で飲み歩き、ふと誰かが言い出したんですよ、「今日は悪魔がでるぞ」って。

みんな酒も回って程よく酔いつぶれていたもんですから、ふざけあって「生贄になるのはお前だ」だの、「悪魔がいるなら俺が倒してやる」だのと、冗談を交えて馬鹿してました。


そのまま、次々に店を回って行き、店を1つ変わるたびに、1人ずつ仲間とははぐれていきました。気がつけば私は一人になっていましてね。


時刻は11時を少し回ったぐらいで、急げばまだ最終電車に間に合うかもと、駅を目指そうとしたんですよ。

ところが、酔った勢いで飲み歩いていたもんだから、自分がいまどこにいるのかわからなくなってましてね。どこかの裏通りにいるのは、なんとなくわかってたので、とにかく駅へ向かうために、表通りに出ようと歩いたんですよ。


それなのに、歩けども歩けども裏通りから抜け出す事ができなくてですね。どんどんいりくんだ道を歩いていたんですよ。


どれくらい歩いたんでしょうか、いよいよまずいぞと思い始めた頃に、一軒のお店が目に入ったんです。

そのお店は、赤提灯を下げた小料理屋風のいたって普通の店構えをしていましてね。歩き疲れていたもんだから、休憩がてら道を聞こうかと思って、店の扉に手をかけたんですよ。


扉を開けると、女将さんの元気な声が出迎えてくれめしてね、入口近くにある席へ座るよう案内されたんですよ。


席についてから店の中を見回すとですね、外からはわからなかったのですが、案外広い店構えをしていましてね。女将さんを囲むようにカウンターが置かれ、席が全部で13席あったんてすよ。


そうこうしている間に、女将さんがお通しを出してくれましたね、見たことのない料理だったのですが、なんとも美味そうな匂いがして、つい箸をすすめてしまったです。

まぁ、あわせて酒もついでとして飲んでしまったんですがね。


気がつけば、いつの間にか席が埋まっており、店の中が随分と賑やかになっていまして、道を聞くという目的も忘れて、次々に酒を飲んでいました。


そのうち、だんだんと眠気に襲われましてね、いつの間にか眠ってしまったんですよ。

夢心地の中、「頭だ」「足だ」という怒声が聞こえて、目がさめたんですよ。

何事かと思い身を起こすと、2人の客同士のケンカが起きていたんです。

酔のためうまく頭が働かないなか、そろそほ店を出るかと思い、立ち上がろうとした時でした。


ケンカをしていた2人の客の姿を見て、私は全身が凍るような思いをしたんです。

なぜなら、2人の姿はとても人のものとは思えなかったからです。全身は黒い毛に覆われ、まるでヤギのような顔をし、頭には鋭い角が生えており、その姿は悪魔そのものだったんです。


その姿を見て呆然としていると、他の客が私が立ち上がっているのに気がつき、「逃げるぞ」と指を指して叫んだんです。


それを聞いた私は、自然と店を飛び出し走っていました。後ろからは、複数の足音が追いかけてくるのが聞こえてきます。


直感的に捕まれば終わりだと思った私は、息が切れるのもかまわず、全力で走りました。

それでも、背後に迫る気配は少しずつ近づいており、もうダメだと思った時でした。 


遠くで鐘の音がなるのが聞こえてきたんです。


私はなんとなしに、鐘の音が聞こえる方へと向かって走りました。

どこを走ったのかは覚えてませんが、気がつけば私は駅にたどり着いてました。

と言っても、すでに最終電車は出ており、駅は無人でした。


改札口に備え付けられていた時計を見ると、時刻はちょうど0時1分を指していました。


落ち着きを取り戻し先程の事を思い出すと、とても現実だとは思えませんでした。

その後は、始発が出るまで駅前で時間を潰しましたが、何事もなく帰ることができました。


あれはいったいなんだったのでしょうかね?




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