第2話 10月12日 2本目
俺は昔からバイクで走るのが好きでな、特に行きはスピードを出して走る一方で、帰り道をゆっくりと走り景色を楽しむのが大好きだった。
あれは俺が24歳か24歳ごろだったか、I県の有名な山を1人で走っていた時の話しだ。
その山は、バイク乗りの間では有名な場所で、傾斜のきつい坂はもちろん、急なカーブはあるわ、片側が崖になってるわ、と普通に人なら通行したくなくなるような道が、普通に走れば2時間は続くような山道だったのよ。
山奥だったのもあって道はとうぜん砂利道でよ、少し操作を間違えれば、すぐにハンドルを持っていかれるような気がして、気が抜けなかったのも楽しさに拍車をかけていたな。
しかし、若かった俺は、他に通行する影も無いもんだから、調子に乗ってどんどんスピードを出して走ってよ、あっという間に道を抜けて山の頂上についちまったんだよ。
そのまま、道を戻って山を下りてもよかったんだが、その時の俺は何を思ったのか、この山道を『夜に走ったら』と、突拍子もない思いつきをしてな、日が落ちるまで時間を潰すことにしたんだ。
といっても、山の上に店があるわけでも無く、今みたいにスマホなんて便利な道具があるわけでもない。
手持ち無沙汰に、その辺をぶらぶらしてると、小さな「神社みたいなもの」を見つけだんだ。
「神社みたいなもの」っていうと変な表現だかな、鳥居はなくても祠みたいな小さな建物と賽銭箱があって、中は見えなかったが寺とは違った雰囲気を漂わせてたんだ。
もちろん山の上にあるもんだから、雨風にさらされていて、ボロボロになってたがな。
それでも、俺は尻のポケットにあった小銭と飴玉を賽銭箱にいれ、柏で打ってお参りしたんだ。
『そうしたほうがいい』、当時の俺はなんとなくそう思ったんだ。
で、そのまま夜になるのを待って、月が昇ってから山道を下ったわけよ。
山の中は真っ暗でよ、月明かりがあっても木々に遮られて、先がまったく見えなかったよ。だから、バイクのライトを頼りに、ゆっくりと走って下った。
もともと、バイクで走った帰り道は、ゆっくりと帰っていたもんだから、そんなに抵抗なく走れたがな。
ただ、夜の山にはワクワクがおさまらなかったよ。どこからともなく、虫の声はもちろん夜鳥の鳴声や、生き物が落ち葉を踏んで移動する音なんかが聞こえてくるんだから。
どれぐらいが走ったのか、ふとミラーに反射する光があるの気がついたんだ。
始めは、後ろから誰かが走ってきたんだとしか思わなかった。
しかし、よくよく考えると、山を登る時は誰も見かけなかったんだから、後ろから誰かが走ってくるはずはない。それに、自分のバイクのエンジン音以外に、エンジンの音は聞こえない。
となると、ミラーに反射している光はいったいなんだ?
そう思ったら急に怖くなってよ、危ないかと思ったが、少しずつスピードをあげて山道を下ったんだ。
すると、ミラーに反射する光も、まるで合わせたかのようにスピードをあげて、ぴったりとついてきたんだよ。
これはますます変だと思い、来た時と同じぐらいに、スピードを出していっきに山道を下ったんだ。
何度かヒヤッとする事はあったが、特に事故ることもなく山道を降りることはできたよ。
道の入口を少し離れてから、ミラーを見てみると、いままでに見たこともないくらい大きなイノシシが、こっちを見ているが写っていた。
それを見て俺は、あの光はヤツの目だったんだなってピンときたね。
でも、いまだにわからないのは、あんな大きなイノシシが本当に存在するのかってことだ。もしかしたら、俺が変にお参りしたから出てきちまったのかもな。
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