帰り道
遊bot
第1話 10月11日 1本目
これは私が学生の時の話です。
当時、私は自宅から片道2時間ほどの距離にあるA高校へ、電車で通学をしていました。
そのため、朝はまだ暗いうちから家を出発し、帰宅するときには日が沈むのを電車の窓越しに見ていたのです。
周りからはよく「近い学校に行しなかったの?」と言われていましたが、私は目的があってその学校を選びました。
ただ、その目的はA学校にはなく、高校へと続く選通学路にあったのです。
そのため、私はこの話題が出るたびに、曖昧な返答をして誤魔化していました。
だって、通学路に目的があるだなんて聞くと、両親はもちろん学校の先生さえも反対したでしょうから。
私がA高校を選んだ目的は、学校の帰り道に夕暮れの太陽を、電車の窓から見る為でした。
なぜなら、私は中学2年生の時に見てしまったのです。
当時、私は進学先の高校に悩んでいました。
そのため、手当たり次第にオープンスクールに参加しており、その日はA高校からの帰り道でした。
時間は確か18時前後だったと思います。
太陽が沈みかけ空がオレンジ色に輝いており、それを始めて見た私はなんとも言えない美しさにこころを打たれたのです。
「ずっと見ていたい」と、思わずつぶやいてしまい。はっ、と周囲を見ると、そばには他に誰もいませんでした。
ほっと胸をなでおろし、再び夕日にを見てると、さっきまでなかったはずの黒い点が見えたのです。
始めは見間違いだと思いました。ですが、確かに夕日の中に黒い点があったのです。
それだけであれば、不思議なこととしては弱いかもしれませんね。
だって、鳥や飛行機が夕日と重なって、黒い点に見えた可能性もありますもん。
ただ、直感的にですが、黒い点は鳥や飛行機ではないとわかりました。
じっとりとした汗が体から吹き出してくるのを感じつつ、私はそれから目を離せませんでした。
始めに黒い点を見つけてから、どれぐらいがたったでしょうか、体感的には随分と長く感じていました。
ですが、不思議なことに、夕日はいっこうに沈まず、それどころか電車から見える景色が、まったく変わらないことに気がつきました。
驚いた勢いで席を立ちましたが、足元からは確かに電車が揺れる振動が伝わり、電車が揺れる音が耳に聞こえていました。
それなのに、電車はまったく動いていないかのようにも思えたのです。
言いしれない怖さを感じた私は、車両を移ろうとしました。ですが、車両をつなぐドアは、どんなに力を込めても開きません。
理解ができない状況に、パニックになりかけました。無理もありません、当時私はまだ中学2年生、大人の面も身に着けつつも、いまだ子供でもあったのですから。
途方にくれていた私に、突然の黒い影がかぶさりました。驚いて影の方を見ると、夕日の中に浮かぶ黒い点が、先程よりも大きくなっているように思えたのです。
黒い点が何なのか、なぜ電車は進んでいるはずなのに景色が変わらないのか、わからないことばかりでとうとう私は泣き出してしまいました。
その間にも、黒い点は少しずつ大きくなっていました。
そして、黒い点が夕日と殆ど変わらない程の大きさになったとき、私は気がついてしまったのです。
黒い点はただ大きくなっているのではなく、少しずつ電車に近づいているのだと。
さらには、足元から感じる振動や電車の揺れる音は、黒い点が近づいてくる音であり、電車はまったく動いていないことを……。
黒い点はすでに電車の直ぐ側まできています。黒い点がゆっくりと2つに別れるのを見て、私はなんとなくその後の展開を予測できました。
パックリと割れた黒い点が、鋭い牙のようなものを覗かせたその時でした、全身の力が抜け声も出せな私から離れた場所で、大きな叫び声が聞こえました。
思わず声のした方を見ると、そこには学生服の男の子が目を見開き叫んでいました。
と、それは一瞬の出来事でした。
黒い点が叫ぶ男の子を飲み込み、一気に夕日へと向い、はじめ見た時のように小さくなり消えたのです。
呆気に取られて私は、気がつけばと降車する駅へと到着していました。
その日体験したことは誰にも話すこはできませんでした。
だって話しても誰にも理解されないはずですから。
ですが、私はあの日の体験が忘れられず、A高校へ進学することに決めたのです。
だって、A高校に通えば、その帰り道にまたあの黒い点を見れるきがしたから。
次こそは、私があの黒い点に飲み込まれると期待して……。
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