第2話 運命的なとっかかり
森を抜け、事前に待機させていた馬車に『ゼロ』という謎の非常識なお人好しっぽい人と共に乗り、私の今回の任務の報告へと向かうのだった。
馬車なので協会に着くまでそんなに時間がかからないとはいえ、彼とは短い間にかなり話が弾んだ。が、何度も何度も「〇〇って何だ?」と返ってくるのでその都度答えられる限り答えてあげる。私も優しいのだ。ついでに恩も売れるってコトよ。
「冒険者ってのがあんまよく分かってなかったが、雇われじゃなく自分の意志で活動するってのが良いな。まぁその協会ってのも知らんが」
「基本的に協会側は冒険者たちに依頼の遂行を強制しない。少なくとも、10年やってる私はそういった場面は見たことが無いよ。自分が出来る範囲の依頼をこなし、その結果誰かの役に立って、自分の生活の糧にもなる。おまけに飽きない。エルフの長命人生でも長続き出来そうな感じなんだよね」
「めっちゃ、ホワイトだな」
「んぅ? 色の話はしていないが? 確かに私は白色が好きだが――――」
「ああ、『健全な職場』って意味だ。あんま聞かないか?」
「うーん、聞くっちゃ聞くけど……」
なんというか言い回しも噛み合わない事が多い。彼――ゼロの言い回しはやはり『
「いやぁ、冒険者協会か。そういうのは創作の代物だと思ってたよ。俺は」
「本当にどんな場所なんだい? ニューシティとかいうのは……」
彼の言動に呆れつつ話していると、御者に「もうじき着きますよ」と言われたのでゼロと共に急いで出る支度をした――――
◇◇◇
「……で、不審人物は見つける事は出来たがその素性を調べられず、捕らえる事も出来なかったってことですよね?」
「はい」
「不審人物の調査が目的の任務ですので、任務未達成帰還扱いですね」
「はい」
今、私は協会の任務受付係と話している。仕事をせずに帰ってきたようなものなのでもしかしたらまた下級任務しか出来なくなるかもしれない。ひぇ。
「エルフサービスは?」
「そのような物は無いですね」
「救済サービスは?」
「中級任務においてはまず無いですね」
「私はどうなります?」
「まぁ、今回の任務はそこまで重要ではないので厳重注意のみですね。次はもう少し厳しい処罰があるものと考えて下さい」
「あ、はい」
「――――大丈夫か?」
協会ホールのそこら辺の壁にうなだれていた私にゼロが心配そうに顔を覗き込んで声をかけてくれた。結構可愛げあるじゃないか。ムフフ。
「うむ、大丈夫だよ。特に罰も無し。ま、しばらくは依頼受託とか出来ないかもね」
「それなら良いんだが、俺の事情に巻き込んでしまった感じがしてあんまり良い気はしないんだよな」
「いやいや、私の提案なんだから図々しく乗ってくれれば良いんだよ。なんというか、君は私の想像よりずっとまともそうに思える」
「想像の中だと結構ヤバいやつ扱いだったんだな。別に反論はしないが」
そうだ、とゼロが白々しいような芝居がかったような仕草で指を一本立ててこう言った。
「あんたの記憶の取り戻す手伝いをしないとな」
「あ、そうだね」
「……忘れてたか?」
「いや」
普通に忘れてた。
「うーん。私が言い出したことだけど、そもそもどうやったら記憶を取り戻せるんだい? 全く分からないんだよね」
「俺も知らん。なんかこう、とっかかりを見つけると良いって聞くけど」
「へぇ、例えば?」
「昔読んだ本では、不思議と聞き覚えのある単語をメモしてその単語からまた別の何かに繋げて……と、芋づる式に記憶を引っ張り出せないかなぁってやつだ」
「最後まで聞いたけどかなりふんわりしてるねぇソレ」
「ほら、ここら辺の冒険者?たちの会話盗み聞きでもしてなんか探ろうぜ」
いやいや、私にそんな真似させるのか? ま、まぁ、試してみるけどさ。
周りの声や音に耳を傾ける。目を閉じ、より耳の感覚を研ぎ澄ませる。
報酬。危なかった。今日はお祝い。上級に上がりたい。森。帝国の使節団。ダンジョンの宝箱。スライム。美味い。酒が欲しい。
どんなに耳をすましてもロクな情報が入ってこない。ここは色々な冒険者やその関係者がたむろするホールなんだし、こんだけ乱雑でもしょうがないか。
私は目を開け、ゼロの方に振り返
「いや、何にも聞き覚えが無――――」
ろうとした。その時。
聞こえたその単語は…………。
「……ん? そんな金魚みたいに口パクパクして、どうしたんだ? ローズさん? あのー?」
おーいだのなんだの声をかけてくるゼロの声は申し訳ないけど、私の頭には入ってこなかった。
『シオン村』
何故か、そ
私は、無意識
「今、シオン村って言ったかい?」
「え、そうだけど……」
誰?と、女冒険者二人組は互いにコソコソと怪訝な顔つきで耳打ちする。ふと、ようやく自分が自己紹介すらせずに声をかけたことに気づいた。
「ああ、申し訳ない。私は中級冒険者のローズ、ローズ・アトリエ。迷惑かもしれないが、少しその話を聞かせてもらえないだろうか?」
◇◇◇
「まずは自己紹介でもしようかしらぁ。私はアルル、中級冒険者よ。こっちの犬っぽいのがイーリエよぉ」
「こんちはっス!! ウチがイーリエっス!! よろしくお願いしますっス!!」
紫の髪に紫の瞳、スラッとした綺麗な身体のラインを持ち、前髪に赤色の花の髪飾りを付けたおしゃれな女性――アルルと、橙色の髪に緑色の瞳の動きや声がうるさい活発そうな短髪娘――イーリエ。
覚えた。多分。また癖でジロジロ見てしまったが、大丈夫だろう。きっと。恐らく。
「うん、よろしく。あ、私の隣にいるこの人は知り合いのゼロさんだよ。不思議な人だけど悪い人じゃないから」
「ああ、よろ
「ゼロさん!!!! ローズさん!!!! よろしくお願いしますっス!!!!!」
ゼロの挨拶を遮るほどの声量で挨拶され、私たちは分かりやすく狼狽えてしまった。み、耳が……。
「あ、あはは。……まあ、コッチのイーリエちゃんも悪い子じゃないからお互いによろしくお願いするわぁ」
なんとなくこの二人の関係性が分かってきたぞ。飼い主と犬だな、それも対等な関係の。
「私たちは協会から『シオン村からの救援要請を受けたので、一度村の状況を偵察する』という依頼をしに行こうとしていたのだけど、貴方たちもシオン村に用事があるのかしら?」
「うん。用というか、私がシオン村に行ってみたいんだ。邪魔でなければ同行しても良いだろうか?」
もちろん報酬等に手は出さない点も伝えておいた。というか、今の私は協会の注意を食らったばかりであまり派手に動けないので当然ではある。
「良いわよぉ。イーリエも人が多い方が楽しいわよねぇ?」
「はいっス!!!」
「なので、返事はOKよぉ。一応聞いておくけど、ローズさんはその見た目からしてエルフよねぇ? ということは魔法使いって事で良いかしらぁ?」
「まぁ、そんな感じかな。私は杖とか魔導書じゃなくて、腕輪状の魔道具を媒介とする形で魔法を使うけど」
「へぇ~。だからそんなに身軽なのねぇ」
そう言うと、アルルは木で出来た杖を大事そうにさすった。
普通はああいう感じの杖――棒状の何かを媒体にする人が多い。その方がマナを放出する時のイメージを掴みやすいからだ。
彼女の杖は一目見ただけである程度使い込まれているのが分かる。そして、杖には色々と宝石を用いた装飾が埋め込まれており、何やら良い匂いも漂ってくる。
間違いない。『良い人』だ。私の感がそう言っている。
「それで、そこのゼロさんはどういった役職なのかしら?」
「あ、え? 役職?」
「普段どんな戦い方をするかってことを聞いてるんだよ。仲間の戦い方を頭に入れておかないと万が一の時に上手く動けなくなってしまうからね」
「あ~~はいはい。なるほど。なら俺は『コレ』を使って戦ってるかなぁ普段は」
そう言うとゼロは腰に付けている例の珍妙な武器を指差した。
「それは剣? それとも刀かしらぁ?」
「ま、そんなところだ」
「なるほどねぇ。分かったわぁありがとねぇ」
「あ!!! ちなみにウチはこの鉄槍を使うっス!!! もしもの時の前衛は任せて下さいっス!!! 誰にも傷一つ付けさせませんっス!!!!」
「はいはい。了解だよ」
「じゃあ、お互いの把握も済んだことだし今すぐ出発しても良いかしらぁ?」
そうアルルが言うと、彼女はホールの壁にかけてある時計を指差した。今はちょうど昼過ぎくらいだ。
「今から出ないと着くのが次の日の早朝とかになっちゃうのよぉ。あんまり夜更かしはしたく無いのよぉ。お肌の天敵だし、イーリエちゃんも起きれないからねぇ」
「うん。じゃあ出発しようか」
そして私たちはアルルたちが用意した馬車に乗り、シオン村へと向かっていった。
「なんか俺たちが出会った森の方面に向かう道を進んでないか?」
「え? そうかな……」
いや別にだから何だという感じだが、ふと彼の方を見ると顔に影が落ち、曇っていた。何かに対して不安を抱くような。そんな顔つき。
でも私は特に何か声をかける訳でもなく、揺れる馬車の中で少し酔いながらアルル達と談笑し始めた。
私はそんなにコミュニケーションは得意ではないのだ――――――
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