第11話「寝耳に水」 Bパート

土曜、午後。

『“パイオボイニャーの布”海底捜索計画』遂行中の波余城海岸、パボ課施設。

頭部交換男/鳥羽上飛世児とばがみ・ひよじが斑鳩警部と警察官2名に連行されてくる。

「ほれ! キリキリ歩かんかい!」

「無罪釈放ガ 条件ダヨー!」

「何だコイツは? 九官鳥が人間に変身したのか?」

ヒゲダンディーが、引く。

「チガウヨー!」

「四方方さんたち、こんな鳥と戦ったの?」

スクリュー波海なみも、引く。

「はい・・・」

「見直すっス」

男子高校生も感心を越えて尊敬の眼差しで年下の憩子を見る。

「君、鳥を2羽、連れてきてくれ」

「はっ!」

斑鳩の指示で男性警察官の1人が渡り鳥の入った大型ケージを持ってくる。

「刑事ガ ケージヲ 持ッテルヨー!」

「黙れ! 仕舞いにゃ撃ち殺すど!」

「斑鳩クン クチガ悪イヨー!」

「何なのコイツ・・・」

波海がポキポキ指を鳴らし凄い殴りたそう。

「わしもまたコイツのなまちろい顔を見るとは思わなんだわ。さて! 行くかとするか!」

一同は灯台のそびえ立つ屋上に移る。

「んじゃ鳥羽上。早速だがやっとくれ」

「無罪釈放 忘レルナヨー!」

「引くわ・・・」

スクリュー波海は生理的に無理らしい。

だいたいの人はそうだろうが。

鳥男が背中を向ける。


「交換シマショー! ボクトキミー! コヨイ何羽ナンバノー! 小鳥鳴クー!」


すると、男性警察官1人と斑鳩警部の頭が、渡り鳥のそれと瞬時に入れ替わる。

「なんだ!? この能力ペイシェントは?!」

ヒゲダンディーたちも超ビックリである。

「クッ! クワッ! グワワッ!(何で! わしの頭を! 変えるんだ!)」

斑鳩が何か必死に訴えているようだがただの渡り鳥の鳴き声にしかならない。

「クワァッ! グワグワ!(頭交換は部下2人の手筈だろ!)」

「ケッコー! ケッコー! 斑鳩クン プレゼント ダヨー!」

斑鳩警部が内心怒り心頭。

(鳥羽上め~! 覚えてろよ~! グワァクワァ!)

“鳥の頭をした首から下は人間マン”は屋上に置かれたベンチに座らされる。

「まるで古代エジプト壁画だな。こう、実際に見ると怖いな・・・」

ヒゲダンディーがつぶやく。

「アニマルヘッド イーヨネー! ケラケラケラケラ!」

背を向けたまま鳥男が声高らかに笑う。

「むっちゃ怖いっス!」

「ケラケラケラケラ!」

「ひえっ」

男子高校生と女子プロレスラーが鳥羽上の不気味さに震え上がる。

ケージの扉が開かれると、不満げに斑鳩ヘッドバードは警官ヘッドバードと一緒に南へと飛び立つ。

「ごめんなさい、斑鳩さんお願いします!」

「警部、頼みまーす!」

「お願いします!」

「頼んだっスー!」

捜索探査パイオビッカーたちに見送られ、2羽の人頭鳥胴は大きく羽ばたき、青空の彼方へと徐々に姿を消す。

『パイオボイニャー1号の空中爆散を見た渡り鳥を捜せ作戦』は失敗であった。

果たして『鳥の眼から人間の眼にチェンジ作戦』は上手くいくのか・・・。



陽も傾き、昼間の暖かさはどこへやら、立冬も過ぎてめっきり寒くなった11月中旬。

アメリカ航空宇宙局NASAのオットモット長官とナーサ副長官、シャーク博士の3名は、アインザッツ博士を説得するために森の奥に隠れた大きな古洋館を訪問する。

“パイオボイニャーの布”に関するアインザッツ博士の目的をハッキリと問い質すため。

そして今後について、徹底した話し合いをするためである。

「オットモットおじさま、ナーサおばさま。パパ、ようこそいらっしゃいました。アインザッツのおじさまがお待ちしています・・・」

「ペニー・・・」

シャークの抑えた笑顔にペニーが首をすくめ、そっと微笑みを返し、次いで水色スカートの裾をちょっと持ち上げ客人にカーツィを返す。

「こちらへどうぞ・・・」

ペニーの先導により、長い廊下を過ぎ、グレイトルームへ通されるナーサたち。


か弱い両手でペニーが大扉を開く。

正面奥のテーブル席に、逆光気味でエーテル・ソ・アインザッツが待っている。

暖炉のたきぎが赤く弾け「ピシッ」と乾いた音を立てた。

「待っていたよ。オットモット、ナーサ、シャーク、我が朋友たち。心から歓迎するよ」

膝の上のセンチネルが飛び下りると老紳士は起立し、元NASA同僚を迎える。

「それなら話が早いわ。挨拶は抜きにして本題に入りましょう」

「まぁまぁ。席にくらい着きたまえ」

客人が思い思いに着席すると同時に、可燃花炎火かねんばな・ほのかがお茶を運んでくる。

それぞれの前に好みのお茶が並べられると、ファイファイは頭を下げ部屋を出る。

アインザッツはカフェ・オ・レをひと口飲む。

「うむ。今日も旨いな。・・・さて、それでは話を始めようか」

ナーサが紅茶に口を付け、単刀直入に問う。

「アインザッツ。あなたは“パイオボイニャーの布”をどうなさるつもり?」

「ナーサは相変わらず手厳しいな。うむ。君らなら察しが付いておろう?」

オットモットが問われて答える。

「君のやりそうなことと言えば・・・完全な廃棄、と言ったところか?」

アインザッツが口許を緩め軽く笑い、椅子にズッシリと背もたれる。

「正解だ。流石だな。そう、完全廃棄。ディープ・シックス計画と我々は名付けた」

「DEEP-6・・・葬送か。詩人の君らしい」

「誉め言葉と受け取らせてもらうよ、オットモット」

ナーサが溜め息をひとつ吐く。

「・・・アインザッツ。考え直さない? ハッキリ言わせてもらうわ。私たちはもう歳よ。人類の・・・若者の未来に口出しするような真似は止めましょうよ」



この日、午前中に雨滝砂歌音は退院した。

砂姫乃、ママ、パパの家族3人が病院へと迎えに来ている。

担当医や看護師たちも見送る中、砂歌音は自宅への帰路に就く。

長い、長い入院生活であった。

おそらく週明けからは中学校に復学できるだろう。

いつでも時間は大切だ。

お金では買えない。

特に若い時期にとっての1日1日はとても貴重である。

自由という名の時間は何にも替えることはできない。



  若者は 地平線を めざす

  鞄など 持たずに 歩く


  老人は 若者を あざ笑う

  無鉄砲さを せせら笑う


  忘れものだらけの 若者は

  行く先で 荷物が

  増えるのを 知っていた


  老人は 若者を 待つ

  老人は 若者を 待つが

  やがて 死ぬ

  若者の 幻を 見ながら 死ぬ


  若者は 帰ってきた

  地平線の 向こうで

  老人の 夢を 見たから


「・・・アインザッツ。懐かしい詩じゃろう?」

「あぁ、懐かしい。在り来たりで、つまらなくて、売れない詩だ」

話し合いの場に遅れて入室してきたのはラピス・スーゲィ・タカイシ博士である。

「タカイシ博士! ここにいらしたんですか!」

シャークが嬉しそうに驚く。

「数学者のトルンジャーネくんか。久し振りじゃのぅ。そうじゃ。アインザッツくんのおりじゃ」

「どうせ毎日寝てばかりなんでしょう?」

ナーサがチクリ刺す。

「おぉ、やはりナーサくんにはバレバレじゃのぅ~、ほほほ」

ヨイショと席に座るタカイシ博士。

馬頭の施された木製杖ステッキをテーブルに立て掛ける。

二度三度、滑って倒れるので立て掛け直しつつ話す。

「優秀なる教え子、アインザッツよ。もう自分に素直になっても良い頃合いじゃと、わしは思うがのぅ・・・」

アインザッツ博士が背もたれに頭を任せ、目を閉じる。

しばらく沈黙の時が流れ、いつもより深い溜め息が漏れる。

「タカイシ先生・・・」



豊岡が残業する。

印刷屋が長い、長い残業をする。

おそらく週明けも残業だろう。

いつでも時間は大切だ。

残業代では割が合わない。

若くない時期であっても1日1日は貴重である。

自由という名の時間は何にも替えることはできない。

・・・それはそれとして。

あれ?

夜風が印刷会社に来たよ?

両手に荷物を下げて。

「豊岡さ~ん! 娘さんが皆に夜食の差し入れだって来てるわよ~!」

「え? 夜風さん? あれ? あ。いやいや娘じゃないです、友達です」



「そうじゃ。思慮深いお主なら分かっておるじゃろう? 若者には若者の世界が開かれておる。若者は馬鹿者ではない。わしらは、せめて邪魔をするのだけは止めてやろうではないか。のぅ?」

タカイシ博士が師として、また友として説く。

「年寄りはせいぜい、ヒントを与え、導く程度の存在でいいんだろうな、きっと・・・」

オットモットも我が身を振り返る。

それはあきらめではない。

微々たるが引き継ぎなのだ。

目を閉じたまま天を仰ぐアインザッツが続ける。

「・・・私は若かりし頃、売れない詩人で、人気ある詩人たちに随分と嫉妬をしたものだ。今は・・・、今は優れた未知の科学力を持つ、会ったことさえない宇宙人に嫉妬しているのだ・・・。恥ずかしい。恥ずかしいことだ・・・」

左右の掌が、熱くなってきた目頭を押さえる。

「それが人間ってものよ。嫉妬は恥ずかしいことなんかじゃないわ」

ナーサだってそうだった。

タカイシも、シャークも。

同じ様な気持ちを抱いた経験のあるオットモットが自己弁護も兼ねて付け加える。

「ほとんどの人が抱く、自然な感情だよ。一所懸命に生きている証しさ。なぁ・・・」

アインザッツは更なる隠していた心の内を打ち明ける。

「心変わりなどすれば、今まで私に着いてきてくれた者たちに対して申し訳ない・・・」

「アインザッツ博士」

振り向くと森の屋敷で共に過ごす者たちがいる。

「アインザッツ博士。僕たちは皆、いつまでも、あなたの友人でありたいと思っているのです」

ミスターA、犬井一子、射出小梅、山本山マグマ、ファイファイ、ペニー、センチネルが優しい微笑みを老紳士に贈る。

誰が彼を責めようか。

アインザッツは椅子から立ち上がり窓辺に歩み寄る。

夕闇が迫る空を見上げると、わずかにこうべを左右に振る。

赤、青、紫、藍。

グラデーションの夕映えに黒いシルエットの雲が流れていく。

「・・・私は昨夜、私自身の能力ペイシェントで、私自身の未来を見てみたよ」


彼方あなたの罪を、聴かしめよ。悔いて借りまし、背負い清むる」


薄明の下、流れる雲が霞んで消える。

「・・・能力は効かなかった。私には後悔する時間も、後悔する未来もないのだ」

窓に向かう背がいつもより小さく映る。

「博士・・・」

「アインザッツ博士・・・」

「アインザッツ・・・」



日曜日が来た。

「ぶつぶつ」愚痴る大半の生徒らの意見をまったく無視して、校外学習の工場見学日帰りバス旅行が行なわれる。

両想いのカップルや、好きな異性がいる片想い生徒は休日にも逢えるとウキウキ気分。

砂姫乃と真美と愛子は、もちろん意中の異性などいないが、友達とお出掛けなのでお遊びモード。

「たまの日曜日、学校ってのもオツなもんだね、愛子くん、砂姫乃くん」

「どうだろ? あたしはゆっくり寝たいよ」

「真美はデートの予定がないもんね」

「かく言う愛子様は?」

「私もないわ」

「あたしも~」

生徒のノリはほぼそんな感じ。

だが、あっちに1人、騒ぐ奴がいる。

印田坊介クンだ。

「日曜に学校とは、絶対に国家の陰謀に違いないんぼっ!」

「黙れ印田坊介インボー! われわれ独身族をイライラさせんな!」

「いや、今日ばかりはインボーに一票だべ」

「だな。日曜を潰すなど、こりゃあ政府の陰謀だぜ」

などと男子は相変わらずアホで通常操業。

「インボー!」

「インボーダーの侵略だっ!」

「インボーダー!」

「インモーダー!」

「インモーボーボー!」

「はい、そこ、静かにしろ!」

「おこチャマねぇ~」

「男子はいつもバカで幸せそうよね」

生徒や教師らを乗せたバス5台、1年生A組~E組の全員参加、計214人の参加者はゾロゾロ工場を歩いて観て回る。

幸いにしてお菓子を作っているプラントなので、物珍しさや見慣れた商品の数々を前に、それなりにみんな楽しく見学をしていた。

だが、案内担当社員の説明を聞きながら工場内の見学が始まってから50分後、事故が起きる。


結果から話そう。

この大規模な火災事故は有名食品メーカーが起こしたものであり、且つ製造機器の杜撰な管理が原因であった。

加えて従業員の労働時間の問題まで浮上。

だが、この事故が格段の世間の注目を集めた理由は、むしろパイオビッカーの存在に関することであった。

この一件までパイオビッカーは危険な存在としか世の中には認識されていなかった。

しかし、火災から身を挺して生徒や教師ら、一般人を守った能力者がいたという事実に世間は驚愕し、そして見解を180度変える者も増えた。

つまり、パイオビッカーが罪を犯すのではなく、罪を犯した者がたまたまパイオビッカーだっただけだ、と。

社会全体の論調はそう傾いていった。


ではここで、件の火災事故の流れを簡単に追ってみよう。

10:15。

第2工場B棟を見学中のA組、B組、D組の生徒らの耳に火災警報器のサイレンが入る。

10:25。

既に避難は始まっていたが退避途中の第2工場C棟において別の新たな火災が発生。

逃げ遅れた生徒、教師、従業員が確認される。

人数は72名。

その中にはB組である雨滝砂姫乃も含まれていた。

10:32。

1回目の大きな爆発が起きる。

「砂姫乃! 危ないよ!」

「大丈夫! みんな下がって!」

「雨滝よせ! 先生が」

「先生はみんながバラバラにならないよう集めてください! あたしが!」

ボボンッ!と大きな爆発が起き、金属製タンクと製造機械の破片が数個、飛び散る。


「うなる一閃、打撃羽根! たたく乙女の尿意棒!」


棒術少女が後ろの避難者に迫る砕片群をロッドを使い叩き落とす。

「砂姫乃・・・あなた、やっぱりパイオビッカーだったのね・・・」

「あのテレビの女の子って砂姫乃だったんだ!」

「雨滝さん!」

「砂姫乃! 気を付けて!」

「雨滝!」

「砂姫乃ちゃん!」

「雨滝さん!」

背中を向けたまま先生に指示を出す砂姫乃。

「先生! 早く出口を探して!」

「さっきから探してるがここは行き止まりなんだ!」

ボン!ポン!と小さな爆発が数回起こり、その度に薬品の貯蔵タンクやマシンの壊れた部品が乱れ飛ぶ。

砂姫乃はその都度、回転させたロッドで叩いて跳ね除け、みんなを守る。

10:34。

2回目の大きな爆発が起きる。

砂姫乃は全力で防ぐが1人では限界があった。

「みんな、ゴホゴホ、なるだけ身体を低くゴホ、小さくして! ゴホッ」

「雨滝! 煙を吸うな!」

「砂姫乃も頭を下げて!」

(分かってるけど破片を見極めなきゃ。とにかく逃げ道を・・・!)

焦る砂姫乃だが守りで手一杯だ。

(ダメだ! いよいよピンチだよ・・・!)

その時、工場の壁にスパッ!スパパッ!と斬り口が5ヶ所ほど走る。


「旅のお共に、つば鳴り聴かそう。傷み憎いは、御便刀おべんとう


次の瞬間、刀のつかで壁を突き崩し、グワシャッ!っと破壊音を轟かせセーラー服の生徒が1人、入ってきた。

少女はシャキンと刀を鞘に納める。

「みなさん、ご無事かしら?」

救助にやって来たのは雪隠せちな。

1年A組の学級委員長だ。

「雪隠さん! ゴホゴホ! 助かったよ!」

砂姫乃が半べそで叫ぶ。

「委員長!」

「雪隠さん!」

みんなも涙と汗と灰とすすにまみれているがひと安心する。

「みなさん。さ、早くお逃げくださいまし」

雪隠委員長が斬り開けた裂け目から生徒たちを誘導し送り出す。

ところがいきなり天井の一部が焼け落ちてきた。

そのせいでたった20人ほどが脱出できただけになってしまう。

煙と砂埃、火の粉が荒れ狂う。

残されたみんなが半ばパニックに陥る。

火事場に悲鳴が響き渡る。

建物がミシミシと不穏な音を立て、今にも工場全体が焼け落ちてきそうだ。

落下する一部の天井の梁や柱は砂姫乃の棒術と雪隠の日本刀が跳ね除けたり、叩き斬ったりして回避できる。

しかし逃げ道がない。

そうこうしている内にメラメラ火の手とモウモウ黒煙が迫ってきた。

熱気と薄くなってきた酸素のせいなのか息が苦しい。

教師と従業員が子供たちに覆い被さり守っている。

熱さと煙たさで誰もが意識を失い掛ける。

砂姫乃と雪隠もパイオビッカーの体力で耐えていたがそれにも限度がある。

生徒たちの悲鳴が次第に小さく少なくなる。

10:37。

しかも3回目の大爆発も起きた。

そこにいた意識ある者、誰もが諦め、死を覚悟する・・・。

「おまたせ! みんなのアイドル、近衛初穂このえ・はつほちゃんだヨ!」

うずくまる生徒たちの中から、いきなり精一杯の明るい声で立ち上がる女の子が1人いた。

「初穂は! とっても強いんだヨ!」

雨滝砂姫乃と雪隠せちなが火煙の吹き荒れる苦しい中で見たのは、2人ともが会話を交わしたことさえない女子生徒、校内でお調子者の目立ちたがり屋として有名な近衛初穂であった。

「ソレッ! 行っっっくヨ~~~!」

彼女自身もすすと灰であちこち火傷を負っている。

セーラー服も焼け焦げている。

だがこの火災現場にいる誰よりも明るく気丈に振る舞っている。


「ムチもウマいが、舞いもウマい! ヒンヒン泣いちゃ、ムチの血よ!」


初穂は大きく全身を弾かせ、長い一本鞭ブルウィップを振るう。

その12メートルぐらいの長鞭は台風の目のように初穂を中心にして、身を屈めた避難者のギリギリ頭上をしなやかに高速で横切り、円や波を描きながら炎をはたき消す。

また同時に飛び交う破片や火の粉、噴煙でさえ掻き飛ばす。

「ソレッ! ソレソレッ! みんなガンバレ! 初穂が付いてるヨ!」

鞭使い少女が真上に構え振るっていた持ち手の角度をやや下げる。

「ソレッ! コブラたん!(←技名らしい)」

音速を超えた強力な鞭先は落ちている瓦礫の山を回転の度に打撃と衝撃波で裂き、割り、削り、弾き、どんどん減らしていく。

人が通れる幅を取り除くと、鞭使い少女はすぐに内壁の破壊に着手。

砂姫乃と雪隠は近衛が集中できるよう、爆発で飛んでくる焦げた砕片を叩き落とし、斬り落とす。

その甲斐もあり、分厚い壁もわずか5回の鞭攻撃で数ヶ所のひび割れの穴を空ける。

「ソレッ! マムシたん!(←技名らしい)」

6回目のビシィッ!という強烈な鞭音が響くと完璧な逃げ道が貫通する。

そこから生徒たち、教師と従業員の全員が脱出に成功。

10:47。

砂姫乃、雪隠、近衛の3人は、中に誰も取り残されていないのを確認、無言でお互い目配せすると自分たちも燃え盛る工場をあとにする・・・。

こうして3人のパイオビッカーの活躍により、今回の大規模火災において、41人だけが小さな火傷や擦り傷程度で済んだことは不幸中の幸いであったと言えよう。


そして何よりも、この事実がパイオビッカーに対する人々の考え方を改めさせたのである。

例えば、近衛初穂のように今回の事故を機にパイオビッカーであることを告白カミングアウトする者も出てきた。

とは言え、根強い偏見や差別はそう安易に簡単には無くならないだろう。

だが、パイオビッカーのほとんどは悪人ではない。ましてや罪人でもない。

肝心なのは能力をいかに、どう使うかだ。

彼女らは、言うなれば人類を守るために存在しているはずなのだ。

そうあるべきなのだ。

宇宙人の未知の力を得てはいるが、決して敵などではない。

あなたたちと同じ、地球人の心を持った仲間なのだ。

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