第10話「待てば甘露の日和あり」 Bパート
「ホストというのは・・・つまり、何て言うか。まぁ、女性のお客さんを楽しませるお仕事です」
「・・・仕方ないですね。でもまぁ、逮捕した人にも知る権利はありますよね・・・。じゃあ簡単に」
「犯人は、
「何でも、愛するホストに盗んだものを貢いでいたとか」
「ところがですよ。そのホストが悪い奴で。そういう貢がせ目的の女性が他に11人もいるらしいです」
「けれど氷路多自身は、自分だけは他の女と違って、彼に本当に愛されていると思っているみたいで。そう、今でも」
「結局、氷路多の自宅には宝石も貴金属も、何も残っていなかったという話です」
豊岡が斑鳩警部から聞いた報告をざっと砂姫乃たちに話す。
「いつか振り向いてくれるって思ってるのかしらね。哀しい人だわ・・・」
夜風が切ない気分になってくる。
「酷いのは男の方だよ!」
砂姫乃が怒る。
「ちょっと待って・・・でも・・・つぶてんさんもバカだよ・・・かわいそうに・・・」
明日花も悲しい気持ちになってくる。
砂姫乃、夜風、明日花、豊岡、そこにいる4人全員がやりきれない深い溜め息をつく。
「はぁ・・・」
そこに扉がバンッと開いて斑鳩が入室してくる。
「何だ何だ! みんなして深い溜め息か! 幸せが逃げちまうぞ!」
「いや、氷路多つぶてんの話をしてたんです」
豊岡が貢ぎ女の哀しさを語り合ってたと告げる。
「ホストはある意味そういう仕事だからな。引っ掛かる方が悪いんだよ。気の毒だが氷路多だって同じ穴のムジナだしな」
警部があっさりと一蹴する。
「正論だけど、斑鳩さんは厳しいなぁ・・・」
豊岡が容赦のなさに感心する。
夜風も同感。
「グゥの音も出ないわね」
「さぁて!だ。その氷路多を逮捕した昨日の晩の話だが」
斑鳩警部が手をパンッと叩き、真剣な面持ちになる。
「実は隣の霧沖市に悪漢パイオビッカーが現われてたんだ」
「
夜風が付け足す。
「だな。時刻は21時15分頃。そんで、あっちのパイオビッカーは坂本チームが取り押さえてくれた」
「こっちは手一杯だったから助かったよ」
砂姫乃が安心する。
坂本チームが応戦したパイオビッカー
「空気の壁が身を包む! 完全防御が息止め鎧!」
坂本チームの正義のパイオビッカーは、高速飛行女子、バリヤー防御男児、ロープ捕縛少女の3名。砂姫乃のいない頃の豊岡チームと同じで、戦闘力の低い編成であった。
「その坂本くんのチームに新しい女性メンバーが加わったそうだ。日本刀で空気鎧兜の僅かな間隙を縫って峰打ちしたらしいので、腕前からしても君らが昨晩会った子だろうな」
「雪隠さんだ!」
斑鳩警部の報告に砂姫乃が瞬時に反応する。
「砂姫乃のお姉さんのクラスメイトなんだって」
夜風が情報を追加する。
「さっき言ってた・・・助けてくれた女の子がその人なんだね・・・」
と明日花。
というのも、ここに集合してすぐ話題に上がっていたのだが、興味が先にホストに移ってしまっていたのだった。
砂姫乃がうなずく。
「そうそう! やっぱり雪隠さん味方だったんだよ!」
一方、波余城海岸線沿いに建つ灯台を兼ね備えたパボ課の中型施設。
そこでは4名の捜索探査系パイオビッカーが『“パイオボイニャーの布”海底捜索計画』に協力していた。
その一室、ルームFでは憩子が渡り鳥の糞による“布”探しに従事していた。
そこへナーサが様子を見に来る。
「いこいこ、無理しないで。身体を壊しちゃ駄目なんだから」
「ナーサさん、私なら大丈夫です」
「それじゃあと少しだけよ。もう4日もお家に帰ってないんだから。せめて今夜は自宅で寝るように。私もご家族には改めてご挨拶させて頂くわ」
両親に対して嘘は良くないのは重々承知してはいるが、ナーサは外国人教師として会い、またボランティア活動と称して外泊許可を得ていた。
「ごめんなさいナーサさん」
「謝らなくちゃいけないのは私たちの方よ。学校とここの往復の毎日だもんね。」
「いえ。私の使命だと思ってますから。それじゃあ、続きします」
「ごめんなさいね。お願いするわ」
「嗅いだ
四方方憩子たちは頑張る。
渡り鳥の糞を集めるナーサたちスタッフも頑張る。
数をこなすしか方法はないのだから。
雨滝家。夕食後のテーブル。
「パパはさ、ホステスさんに貢ぐ?」
「ぶーっ!」
風理雄がお茶を噴きそうになる。
「なにその質問!」
「どう?」
「どうって、パパはそういうお店に行ったことないからなぁ」
ママが炊事場でクスクス笑っている。
「そっか・・・」
「まさか友達に貢ぎっ娘でもいるのか?」
「ううん。そうじゃないけど・・・人って色んな生き方があるなって・・・」
娘の横顔を見ていると、パパは少し、寂しくなってくる。
(砂姫乃も色んな人に出会って、色んなものを見て、こんな風に少しずつ大人になってくんだろうなぁ・・・)
「・・・って思ったって話だ」
「私たちにもあったわよね。父親のそんな寂しさは気にも留めなかったけど」
「そうね。棒術少女もこれから思春期を迎えるのね。初々しいわ」
ミスターA(雨滝風理雄)の娘話に犬井一子と梅子が若かりし頃を懐かしむ。
「その点! 男は! まっすぐ前だけ見て! 我が道を行く! おおらかに!」
マグマが会話に入ってくるが。
「あんたはおおらかって言うより大雑把よね」
一子にツッコまれる。
「こりゃ! 1本とられた!」
「いやマグマくんだってまだ高校生だ。思春期真っ直中だよな」
ミスターAが男性としてちょっと味方する。
「その通り! ガラスの心だ!」
「それはどうだろう?」
ミスターAがすぐ否定。
「どうかしら?」
梅子も。
「ないわね」
一子も。
「ないだろうな」
ミスターAがまた否定。
「ない、と思います・・・」
ペニーまで否定する。
「ファファファふぁ~!」
ファイファイが笑う。
「いや! そこ! 笑うとこじゃないから!」
マグマが止めるがミスターAは。
「いや。笑いどころだろ」
「笑うわよ」
梅子に続いて一子も。
「あんたにガラスの心はねぇ」
アインザッツ屋敷が笑いに包まれる。
「少年というものは意外に繊細なもんだよ」
突然、大広間にやって来たアインザッツが参入する。
「さすがアインザッツ様! 分かってくださる!」
「マグマくんは除くがな」
「こりゃマイッタ!」
みんなの笑いがまた木霊する。
老紳士が席に着く。
「・・・さて。皆も揃ったことだし、この機会に話しておこう」
アインザッツ博士の言葉に一同・・・ミスターA(雨滝風理雄)、犬井一子、射出小梅(梅子)、山本山マグマ、
ソファに座っていたペニーとセンチネルがミスターAたちと同じ大テーブルに移る。
ファイファイはスッと厨房に向かう。
丁度そこにラピス・スーゲィ・タカイシ博士も入れ替わり入室する。
「おぉ~。皆の衆~久し振りじゃ~のぅ~」
「あらタカイシ博士、いらしたの?」
梅子のご挨拶に老博士が答える。
「寝とった~だぁけじゃ~」
「久し振りに全員揃いましたね」
ミスターAが嬉しそうにアインザッツ博士を中心にテーブルを囲むみんなを見回す。
アインザッツ邸の料理長ファイファイがそれぞれ好みの飲み物を淹れてくる。
「うむ。では早速だが本題に入ろう・・・」
「これまで皆には黙っていたが、機は熟し始めた。そろそろ私の真の目的を話そう」
深刻な面持ちになる一同。
「地球人の進化は、地球外知的生命体の力を借りず、地球人自らの知恵で行なうべき。・・・これが私の考えというのは、常々話している通りだ」
「これまでは皆に“パイオボイニャーの布”の収集に専念してもらっていた。しかし今から話すのは、その先の計画である」
「ハッキリと言おう。私は、“パイオボイニャーの布”を全て集め、・・・全て捨てようと考えている」
「・・・そうだ、完全なる廃棄、ディープ・シックス(Deep-six)計画である」
そこにいる全員が口を揃える。
「完全なる廃棄・・・!」
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