第8話「ちりも積もれば山となる」 Bパート

ちょろちょろ弱火になったファイファイがトボトボ歩いて戻ってきた。

どうやら大男は取り逃した様子。

「ファ~あいつ走るの早いファ~」

「あ。おかえり~」

誰とはなく返事をする。

大男という共通の敵と戦ったお陰なのか、豊岡チームとファイファイに奇妙な連帯感と一体感が生まれていた。


「よーし! みんな集まれー! 作戦会議を始めるぞー!」

斑鳩警部がその場を仕切る。

改めて参加者の顔ぶれを紹介。

棒術使いの砂姫乃、遠視の憩子、瞬間移動の夜風、物質転送の明日花、封印の豊岡、それから何となく帰るタイミングを逃したアインザッツ組/炎使いのファイファイ。

能力者以外からは、事件現場派出所の中年警官と若年警官、そしてパボ課の斑鳩警部。

議題は大男封印計画。

警察官の2名が足を引っ張るんじゃないかと遠慮して席を外そうとする。

それを見て斑鳩警部が止める。

「いや、君たちも来て来て。警官としてもだが、パイオビッカーじゃない人の意見も聞きたい」

こうして破壊された道路、それに面した荒れたオープンカフェで秘密の作戦会議が開かれる。

かろうじて動く自動販売機の飲み物はすべて豊岡の驕りだ。

「なんで?!」


砂姫乃がまず口を開く。

「あのアインザッツってお爺さんが言ってたよね。大男は活動時間に限界があるって」

憩子が答える。

「3時間って言ってたよ」

豊岡が関連の質問。

「大男が出現したのは、いつ頃だったんですか?」

砂姫乃が答える。

「えっと、詳しく見てなかったけど、6時ごろだったかなぁ?」

中年警官が正確に報告する。

「うちの派出所に第一報の電話が入ったのは18時4分でした」

豊岡がコクリとうなずく。

「18時4分。ということは、今から1時間と・・・20分ほど前ですね・・・」

斑鳩警部が一旦まとめる。

「もしも、だ。アインザッツの言ってる法則とやらが正しければ、このあと21時までに封印か逮捕をせんと次の出現までチャンスはないってこったな」

砂姫乃が言う。

「逃げられると、また被害者が出るよ!」

大男の倒し方を閃かない夜風が、対策用にとこれまでの観察結果を並べてみる。

「砂姫乃の打撃ではまるでダメージがなかったわ。ただ身体がバラバラに飛び散るだけ。しかも削れた箇所はすぐに再生してしまったの。ただ、ファイファイさんの炎は別。熱がって逃げたわね」

皆が「うん、うん」とうなずく。

「さて! みんな! ジョークでもいいからどんどん意見を出してくれ! こういう時はどんな突拍子もない発想でも重要だからな!」

斑鳩が広く意見を募集する。

憩子が

「もしかして、あれは仮の身体で、本体は別にいる、とか?」

と発言すれば、砂姫乃が

「まさか小さい人間が集まって1人の大きい人間になってるとか?」

と冗談みたいな意見を述べるが、斑鳩警部はそれでも笑わない。

「どちらも否定はできないな」

豊岡が付け足す。

「宇宙人が絡んでて、しかもSFどころか魔法みたいな能力ペイシェントもありますからね」

「とにかく分解と再生が厄介だわ」

夜風が頭を抱える。

豊岡が想像する。

「もしも仮に本体やリーダーがいるとしたら、やっぱり大男の体の中かなぁ?」

「え~。あたしは中に入るのイヤだよ」

砂姫乃が嫌がる。

豊岡が別の案を出す。

「“パイオボイニャーの布”で、ファイファイさんみたいに何かが人間に変化したものだとすれば、“布”を抜き取れば、その何かに逆戻りしないかな?」

その意見に夜風が答える。

「でも私たちみたいに“布”が無くても、もう能力が完全に自分のものになっていたとしたら?」

「そうか・・・その可能性は大きいなぁ」

豊岡が「ダメか」と残念がる。

「いや、その可能性はゼロじゃないからな。頭の片隅に置いてはおこう」

斑鳩が対抗策として保留しておく。

憩子がふと思い出す。

「あ。そう言えば豊岡さん。大男の破片をいくつか封印しましたよね? 何か花瓶に入ってました?」

「あ、そうか。見てみます」

豊岡が花瓶を取りに行く。


花瓶を傾け、覗く。

「・・・魚が入ってました」

みんなが一斉に口に出る。

「魚?」

ファイファイが黒いライダースーツの右手を上げて発言する。

「ファイ! 大男を炎で縛ったら、魚の焼けるいい匂いがしたファ」

夜風が驚いた表情で言う。

「もしかして、魚の群れが集まって人間の姿になってるの?!」

「信じ難いけど、これを見た感じ、その可能性がだいみたいですね・・・」

豊岡が唸る。

もうひとつ、砂姫乃が尋ねる。

「これ何て魚?」

斑鳩が花瓶に手を入れ、一匹を捕まえる。

「これはイワシだな。魚偏に弱いと書いていわし

「イワシ・・・」

みんなが声を揃える。


ドガッ!

グワシャッ!

ゴゴゴゴゴ・・・

イワシに戸惑う一同の後ろで突然、コンクリートなどを殴って砕く破壊音が轟く。

ビルディング裏手を流れる川沿いの遊歩道公園辺りからだろうか。

「やだ! ホントに戻ってきたわ!」

憩子が驚く。

「アインザッツ・・・」

予言が的中したことに斑鳩が苦々しい顔をする。

「あー! もー! 仕方ない! 出たとこ勝負で行くよ!」

砂姫乃が真っ先に立ち上がり大男が出現したとおぼしき公園へとひた走る。

「砂姫乃くん待って! 思いつきで戦っても・・・あぁ行っちゃった」

豊岡が止める隙もない。

止めたところで止まる砂姫乃ではないが。

「ひとまずは大男の気を反らすぐらいしかねぇか・・・」

斑鳩警部が中年の身体にムチ打って走る。

後を追って他の者たちも急ぐ。



大男は相変わらず街を破壊して回る。


現場に向かいながら砂姫乃は砂姫乃なりに考える。

(ロッドで打撃を加えればちょっとはダメージを与えられる・・・)

砂煙の中に大男の姿が見えてきた。

(ってことは、続けて何度も攻撃すれば・・・)


街が見る見る廃墟と化していく。

この街を大好きだと特に意識したことはない。

しかし見慣れた景色であり、また生まれてから今までお世話にもなってきたお店もたくさんある。

それなりの愛着はあるのだ。

つまり、思い出の街である。

その光景が見るも無残に変わり果てていく。

仮に見知らぬ街であったとしても、こんな気持ちになる人々が必ずいるのは想像できる。

大男は相変わらず目の前で暴れ続けている。

無人の街を壊しまくり砂煙が吹き荒れ、砂姫乃の頬に流れる哀しみの涙が砂混じりの涙に変わる。

茫然と立ち尽くす砂姫乃。

あとから警察官2名、明日花、夜風、ファイファイ、斑鳩警部が。

最後に花瓶を抱いた豊岡と憩子が追い付く。

街の風景が大男に削られ、残骸となっていく。

砂姫乃はロッドを強く握り締めながら静かに作戦を説明し始める。

「みんな聞いて。あたしがあの大男をひたすら叩いて削るから・・・みんなも手伝って・・・」

憩子と夜風が棒術少女の覚悟を見る。

「砂姫乃ちゃん・・・」

「砂姫乃・・・」

明日花がその2人に言う。

「憩子、夜風・・・ウチがトンネルを開くから、一緒に・・・砂姫乃を助けよう・・・」

「ええ、そうね」

「うん」

大人たち、斑鳩警部、豊岡、警察官2名も腹を括る。

「よっしゃ! じゃあ我々は援護しつつ、大男をバラしますか!」

「了解しました警部!」

「はい! 分かりました!」

斑鳩警部は予備の弾丸を2人に手渡す。

砂姫乃が豊岡に頼む。

「豊岡さんはあいつの破片を全部、封印して」

「よっしゃ! 任せて!」

豊岡も気合いを入れる。

「ファイファイさん」

砂姫乃は炎火にもお願いする。

「ファイファイさんは炎であいつが逃げないようにして!」

「分かったファ!」

ファイファイも闘志を燃やす。

砂姫乃が叫ぶ。

「みんな! 総力戦で行くよ!」

「はい!」

「おう!」

「了解!」



  巫女が指す 道しるべ

  便りを運べよ 風穴

  君を追う 鷹の眼が

  無稽な 速さで


  柩に 星を飾れ 山よ 谷よ

  Leo, Leo, don't take your eyes off the horizon.



「うなる一閃、打撃羽根! たたく乙女の尿意棒!」


砂姫乃が叩き、削り取る。


こよみの車、地図の舟、あしたに送れ、我が心・・・」


明日花が大男の真上にトンネルを開く。


「嗅いだ糞臭ふんしゅうかぐわしき、感度良好アニマルレーダー!」


憩子が持てるサイズの瓦礫を見付け出す。


「娘十七、目を伏せよ、夜に限るは瞬間移動!」


夜風がそれらの瓦礫を集め、明日花と憩子が大男へ瓦礫の雨を降らす。


斑鳩警部と警察官2名も拳銃で援護しつつ、大男を銃撃で細かく小分けしていく。


「男泪を花瓶に隠し、よろず吸い込む回転封印!」


豊岡は大男の崩れた身体を次から次に封印していく。


だがやがて、みんなにも体力の限界が訪れる。

ロッドを握る砂姫乃、瓦礫をトンネルに放り込む憩子、明日花、夜風。

少女たちの手が血で滲む。

しかも大男は削られる身体を復元させようと仲間を呼び寄せる。


「夢見る無敵、荒ぶる身、岩清水いわしみず斬る、あわ千万せん・まん!」


海からイワシの大群が川を渡り集まってきた!

水面を飛び出し、イワシたちがピチピチ合体、巨大化を開始する。

汗だくの砂姫乃たちは攻撃を継続しながらも、ついに限界を感じ、諦めそうになる・・・。

削っても削っても追い付かない・・・。

「・・・もう・・・駄目・・・」


「今! 頑張らんでどうする! 我々が加勢する!」

夜の川沿い公園、少女たちの耳に声が響く。

振り向くと街灯に照らされた山本山マグマ、犬井一子、射出小梅が立っている。



  反逆の 地の涙

  吹き矢に 戦士の傷痕

  種子を蒔け 花よ咲け

  炎が 智恵を吐く


  柩に 星を仕舞え 川よ 沼よ

  Leo, Leo, don't take your eyes off the horizon.



「天地逆転、砂時計、目にも止まらぬ逆立ち走り!」


マグマが逆立ちの上に砂姫乃を乗せ高速移動する。

スピードを得た棒術が大男削りにスパークに拍車を掛ける!


「刺さる視線に頬染めし、弾む胸からペンシルアロー!」


犬井一子が鉛筆アローを連続発射。


「口に含んだ、梅の種! 吹き出す狙撃、スッパイナー!」


梅子が種弾を連続射撃。


「天地に炎、人に知能! 我が目に魂、世は楽しい!」


ファイファイは炎の結界を張り逃げ道を塞ぎつつ火炎弾を撃ち出す。



  例えば 時は波の飛沫しぶき

  掻き集め 舞い踊る

  暫しの 別れを待ちながら

  色褪せる 我が身を笑う


  Leo, Leo, don't take your eyes off the horizon.

  Leo, Leo, don't take your eyes off the horizon.



大男の身体が削られ、次第に小さくなっていく。

だが最後の力を振り絞ったイワシの群れが最も近くにいた砂姫乃とマグマに直接攻撃を仕掛ける!

逆立ち走りの加速が仇になりイワシアタックが避けられない!

砂姫乃とマグマがやられる!


「でんぐり返しが風をむ! 波も静まる時間止め!」


あわやという瞬間、ミスターAが時間を止め、2人をでんぐり返しに乗せ助け出す。


時を刻み始めると、ほぼ同時にイワシ大男の最期が来る。

12人が見守る中、道路に散らばったイワシたちが話し始めた。

「にんげんたち あばれて ごめん」

「ぼくたち たべられたく なかっただけ」

「ちいさくて よわい ぼくたちだけど」

「つよくなって おっきな うみ わたりたかった」

「ぼくたちの なまえ おぼえていて」

「ぼくたちの なまえは ベンジャ=ネッゾ岩下」

「にんげんの まねした なまえ」

「ぼくたちを わすれないで」

「よわい ぼくたちは イワシ」

「せめて おいしく たべて・・・」

それがイワシ大男の最期の言葉であった。


砂姫乃たちは泣いていた。

敵だった大男。

街を破壊し、人を傷付けたイワシ大男。

奴は敵だった。

複雑な心境であったが、その場にいたみんなが泣いた。

生き物は生き物を食べて生きる。

悪いのは食物連鎖か。

いや、誰も悪くはないのだろう。

ただ命をもって命を繋ぐ。

それだけのこと。

しかし、それには感謝をしなければならない。

感謝を忘れてはならない。

小さくても命である。

決して、疎かにしてはならない。



ネオンの街灯りに夜空がぼんやり照らされている。

真っ暗な星空を規則的に隙間に覗かせイワシ雲が浮かぶ。


「・・・夢見る無敵、荒ぶる身。イワシ水斬る、あわ・・・、千万せん・まん、か・・・」

「どうしたんですか警部?」

豊岡がしんみり呟く警部に聞く。

「いや、あのイワシ男が言ってた能力発動口上なんだが。妙に寂しくてな」

「みんな幸せになるために一所懸命なんですね・・・。ところで、その口上っていうのは?」

「あぁ。君たちパイオビッカーが戦う時に言ってるだろう?」

「え? 僕ら何か言ってるんですか!?」

「え?」

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