第8話「ちりも積もれば山となる」 Aパート

馴染みの喫茶店、窓際の4人席。

私服に着替えて集合した砂姫乃&憩子&夜風が軽音楽をBGMに女子学生トークの真っ最中。

「そう言えば今日、明日花を誘ったんだけど、どうかなぁ?」

「そう言えばと言えば、砂姫乃ちゃん、昨日の夜、お風呂入ったの!?」

「へ?」

憩子の謎の質問に戸惑う砂姫乃。と、夜風。

「いこいこ、何なのよ、その質問は?」

夜風が困った顔で返す。

「いいから答えて!」

憩子がズズイっと迫る。

砂姫乃が腕を組んで考える。

「ん~・・・どうだったかな? 確か、明日花がいっしょに・・・」

「入ったの?」

「うん、たぶん。下着も着替えてたし」

「夜風さん聞いた? 聞いた?」

「え、ええ・・・(別にいいじゃない、お風呂ぐらい)」

砂姫乃、憩子、夜風がそんな他愛のない(憩子にはそうではないらしいが)会話を楽しんでいると、窓の外、路地通りがやたらと騒がしい。

「こうなったら私の能力ペイシェントで真相を探っ」

「・・・ストップ。外の様子おかしくない?」

夜風が手をかざし憩子を止める。

通りの人たちが蒼く血相を変え必死に逃げ惑っているようだ。

砂姫乃と憩子も異変を感じる。

「・・・絶対おかしいよね」

外を見ている砂姫乃がそう言いながらゆっくりと立ち上がる。

続けて憩子と夜風も同時に席を立つ。



「きゃーッ!」

「逃げろ!」

大通りでは大勢の人々がパニック状態だ。

あっちの・・・おそらく港側の電車の駅方面から、何かを恐れ、一目散に逃げている。



逆に砂姫乃と夜風は人々が逃げ出してきた方へ向かう。

途中、走ってきたサラリーマン風の男性に砂姫乃が声を掛ける。

「何があったんですか?」

「あっちに大きな化け物が出た! 君らも早く逃げて!」

そう忠告すると男は走り去る。

彼女たちは現場に向かう。

突如、2~300メートルほど先のビルのあちら側に激しい地響きと同時に砂埃が勢いよく立ち上る。

砂姫乃と夜風は互いに顔を見合わせる。

「夜風、あれって・・・」

「冷静にね、砂姫乃」

夜風がさらりと諭す。

砂姫乃は昨夜の明日花との会話を思い出す。

「うん。(そうだよ。パパだけじゃなくて、とにかく怒らずに、まず話し合うこと・・・)」

さらに数十メートル進むと砂埃の手前に2人の警察官がいる。

どうやら避難誘導しつつ拳銃で応戦しているらしい。

が、まったく歯が立っていないのだろう。

夜風と砂姫乃が警察官に駆け寄る。

「あの・・・!」

「危ない! 君たち何をしてる! 早く逃げなさい!」

夜風が中年の方の警察官に説明する。

「あの、私たちパボ課です!」

「パボ課? それは極秘事項だ。何で知ってる?」

「私たちは斑鳩大次郎さん、斑鳩警部の指揮のもと活動しています!」

「本庁の斑鳩警部か? 確認するから待って」

「早くお願いします! 私はヨカゼ、彼女はサキノです」

受け答えをした警察官が肩に備え付けた無線で連絡を取る。

そうしている間も砂埃は破壊音を立てつつ移動を続ける。

先々で人々の悲鳴が響く。

「みなさん早く逃げて! 逃げて!」

若い警官が逃げ惑う民衆に叫んでいる。

4人は砂埃を必死で追いながら、犠牲者が出ていないことをひたすら祈る。

「確認が取れました! パイオツ!」

「パイオツです! 僕たちが援護しますので!」

若い警察官も拳銃を構え直す。

「お願いします! 砂姫乃、行くわよ!」

砂姫乃と夜風、それに警察官2人が砂埃の発生源へと走る。



その頃、憩子は現場のずっと手前の、公衆電話ボックスにいた。

「あ、もしもし! 豊岡さん、良かった。四方方憩子です。ごめんなさい、今すぐ来てください! 現場は・・・」


通話相手は印刷会社の豊岡。

「・・・分かった、すぐそっちに行くから、絶対ムチャしちゃダメだよ!」

小声で応対し、受話器を置き、駆け足!

「部長! 夜食の買い出し行ってきます!」

「お、たのむで~」


パボ課の通信室にも、現在のこのパニックの連絡は既に届いていた。

「いかんぞ、こりゃ! いかん!」

斑鳩警部がオーバーコートを引っ張り取って羽織りながら駐車場へと駆け出す。

「警部! 坂本チームは西の国道から向かいます!」

他の数名の警官たちも斑鳩警部に続きパトカーを出動させる。

だが、手薄になったパイオボイニャー対策課の建物内に浸入する影に気付く警官はいない・・・。



破壊音と衝撃が街をグラグラ揺らす。

そんな渦中、ビルディング屋上から大男を撮影する者がいる。

ペニーの能力ペイシェント、動物テレビ電話。

送信カメラになっているカラスを手にしているのは、朝のファイヤーレディー、可燃花炎火かねんばな・ほのか、通称ファイファイ。


片や受信側、アインザッツ博士の屋敷内の大広間。

カラスの羽モニターに映る砂埃中の大男を山本山マグマと雨滝風理雄が視聴している。

「ミスターA、我々はどうすればいい!?」

「・・・マグマくん、僕らはアインザッツ博士の理想を叶える手伝いをしているんだ。正義の味方じゃない・・・!」

「しかし! これでは! 被害者が出てからでは遅い!」

「あぁ、分かっている。分かっている・・・」



夕映えから時は経ち、暗くなり始めた繁華街。

電飾に彩られてはいるが人影はない。

見える姿は砂姫乃と夜風のパイオビッカー2人と警察官2名、それと砂埃の発生源の大男・・・身長は、そう、ビル2階ほどの高さだろうか。

実際に目の前にすると結構、大きい。

体格はガッシリした巨体のプロレスラーと言ったところか。

顔はオコゼ系強面で髪型は長めなワカメ。

マンガの原始人みたいに茶色の毛皮らしきものを着ている。

両手は背筋を伸ばしても地面に着くほどに長い。

大男はその長い両の腕を大きく振り回し、建物を、看板を、自動車を、街路樹を、道路を、とにかく目に入ったもの全てを拳で殴って破壊して回っている。

まるで人間が造ったもの全てを粉々に砕き、消し去るのが願いかのように。

砂姫乃がロッドを手に、警察官2名が拳銃を構え、暴れる巨漢の進む方向に先回りする。

棒術女子中学生がロッドを握り締め、大男の前に立ちはだかる。

「止まって! 止まってよ!」

飛んでくる破片をロッドで跳ね除ける。

「あなた、前にも暴れてた人!?」

眼前に突然現われた小さな女の子に驚いたのか大男が動きをストップする。

意外にも砂姫乃の言葉をしっかりと聞いているようだ。

破壊行為を止める。

「あなたは、あたしのお姉ちゃんたちを傷付けた! どうしてなの!?」

警察官と夜風が固唾を飲んで見守る。

大男が不思議そうに首を傾げ、続けて目の前の女の子を無言で睨む。

度胸の据わった砂姫乃も負けじと睨み返す。

「答えて!」

今ひとつ伝わらないと考えた棒術少女は話題を変えてみる。

実は砂姫乃も自身の怒りを沈め、冷静に抑えるのに苦心しているのだ。

「あたしの名前は雨滝砂姫乃あまたき・さきの! あなたの名前は!?」

だが砂姫乃の語り掛けも空しく、大男は天にも届くほどの大声で

「ベ~ン! ジ~ャァ~! ネィ~ッ! ゾッウ~ッ!」

と宇宙人語かと思うほどの謎言語で意味不明の雄叫びを上げ、再び暴れ出す。

「言っても分からないなら、あたしはあなたを倒すよ!」

破壊された残骸が飛んでくるのを移動とロッドで避けながら、棒術使いが戦闘態勢に入る。

(仕方ないな・・・)

砂姫乃が心の中で惜しむ。


「うなる一閃、打撃羽根! たたく乙女の尿意棒!」


回転ジャンプした砂姫乃のロッドの一撃が大男の膝を打つ!

ガバシャッ!

固いような柔らかいような妙な手応え。

打撃を喰らった箇所から幾つかの細長い破片が飛び散りベタベタと道路に落ちる。

だがまったく本体にダメージを受けた気配が無い。

大男は砂姫乃のことなど素知らぬ顔で破壊行為を続ける。

仕方なく砂姫乃、夜風と警察官は為す術もなく追うしかない。

そんな最中にあっても、夜風は冷静に物事を見極めようと暴れるパイオビッカーの観察を継続する。

(あいつ何者なの? 人間よね?)

グワシャッ!

大男がパンチを繰り出し停めてあった自動車をペッシャンコにする。

(砂姫乃の攻撃で身体の一部が壊されて膝が欠けて、でもすぐに再生したわ・・・)

拳で街を破壊しながら大男は進む。



そんな様子をカラスモニター越しにもどかしく見ている山本山マグマ。

「あれはこの前の棒術の女の子か! あのじゃ勝てないぞ!」

「・・・」

ミスターAは黙ってモニターを見ている。

「アインザッツ様ならあの娘を手伝うように言うはずだ! 鳥男の時みたいに!」

逆立ち男マグマが相変わらずの大声で進言する。

「・・・おじさまなら、きっと助けるようにおっしゃるわ」

ペニーが口を挟み、マグマが賛同する。

「だよな!」

ミスターAこと雨滝風理雄は大きくうなずき、モニター内に映し出される自分の娘、砂姫乃の手助けを、いや、それもあるが何より人類に敵意を剥き出している、あの大男を倒すべく覚悟を決める。

「マグマくん、行こうか・・・」

「ミスターA、そうこなくちゃ!」



「これ以上は危ないんで、ここでいいです。お釣りは取っといてください」

「2000円ちょうどだよ。お客さんジャーナリストかい? じゃーな。気を付けて」

タクシーを降りてきたのは大きめの花瓶を抱えた豊岡。

遠くに砂埃を目視確認する。

「遠いな。よっしゃ! 走るとするか!」

この周辺には被害が出ていないのでまだ走り易いが、大荷物を背負った会社員に長距離走はキツい。

しかし仲間の救助と悪者の封印のために頑張るしか選択肢はない。

「ごめんなさーい、豊岡さーん!」

走り始めてすぐ、憩子が横道から追い掛けてきた。

「あ! 憩子さん! 大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。だけど砂姫乃ちゃんと夜風さんとおまわりさんが2人、大男を追っ掛けてて・・・」

憩子は能力ペイシェントで現状を把握している。

「とにかく急ぎましょう!」

ここからだと走って急いでも10分近くは時間をロスしそうだ。

豊岡も憩子も一所懸命に走るが気ばかりが焦る。

「ウチが・・・送るよ・・・」

曲がり角で待っていたのは、天倉寺明日花。

「明日花さん!」

「ウチが・・・砂姫乃たちのところに連れて行くよ・・・」

「憩子さん、この人は?」

「ごめんなさい豊岡さん、それはあとで! 明日花さんお願いします!」

「・・・うん」

明日花は能力ペイシェントを発動する。


こよみの車、地図ちずの舟・・・、あしたに送れ、我が心・・・」


空間にトンネルが開かれる。

「入って・・・1分であっちに着くから・・・」

「ありがとう明日花さん!」

「どうもありがとうございます」

3人は亜空間に飛び込む。



街中では大男が大暴れを繰り返す。

両腕を振り回し、手当たり次第に破壊の限りを尽くす。



こちらはどの時点で発動したのかミスターA以外は分からない時間停止中の世界。

風理雄のでんぐり返しの上に乗せられたマグマがくるくる回る。

現実の時間経過は0分だが、でんぐり返しで山奥から街中までは相当に体力を使う。



大男を追う砂姫乃、夜風、警察官2名。

「まずいな・・・マスコミが来た・・・」

若い警官がテレビの中継車とヘリコプターがやって来たのに気付く。

「困ったわね・・・」

夜風もパイオビッカー活動は世間には秘密なのでやりにくさを感じる。

「砂姫乃、これ着けて」

夜風は、こんなこともあろうかと用意していた大きめのマスクを砂姫乃に手渡す。

「ありがと! ちょっとは変装できてる?」

「えっと・・・ちょっとだけね・・・」

夜風もマスクを装着する。

ただの風邪用マスクだけど、素顔丸出しよりマシだ。



砂姫乃の友人クラスメイト、真美がテレビのバラエティー番組を見ていると、いきなり臨時ニュースが始まる。

〈番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えします〉

「ん? なんじゃ?」


〈パイオビッカーと思われる男が街を破壊しているとの情報が寄せられました。え~、現場の公家木千代くげき・ちよさん・・・!〉

〈はいこちら公家木です! ただ今、現場に向かう途中の車内なんですが、街のあちこちに破壊された跡が・・・〉

「これって市街地まちの方だわ!」

愛子も臨時ニュースに驚く。


斑鳩警部も現場へと急ぐカーラジオで臨時ニュースの報道を知る。

「マスコミめ・・・生中継か・・・面倒なことをしおってからに・・・!」


テレビ局スタッフ5~6人と公家木レポーターが中継車を降り、カメラを構え大男を追跡し始める。

ディレクターが怒鳴る。

「急がんかい! 走らんかい! 独占スクープじゃい!」

大男が去った後の砂埃が晴れるとマスコミ集団がワラワラ追い掛けてくるのが見える。

砂姫乃はそれに構わず時折、大男を止めるべく攻撃を加える。

「こらーっ! いい加減にやめなよーっ!」


テレビ局のカメラがその攻防の一部始終を撮影、生放送している。

〈あぁっ! 今、若い女性・・・かと思われますが、大きな男と戦っている模様です! 彼女もパイオビッカーなのでしょうか・・・!?〉

点けっぱなしで放置された大型街頭モニターにも臨時ニュースが映し出されている。


「ファイファイ、こっちはいいから、大男を止めて・・・」

ペニーがカラス電話から炎火にお願いをする。

「そっちにミスターさんとマグマさんが行ったわ・・・。お手伝いしてあげて・・・」

「ペニー、分かったファ。頑張ってみるファ」

可燃花炎火はカラスを夜の空へ放すと大型バイクに股がり移動を開始する。

ドドドドッと低いエンジン音を轟かせビルディング屋上から外壁伝いに垂直に降り、そのままアスファルト道路を焦がしながら大男を倒すべく一直線に向かう。

四気筒エンジンが唸る。ドドドドド・・・。



砂姫乃と夜風、警察官2名が大男を近くにしながらも倒しようがなく、手をこまぬいている。

「先輩、どうにかなりませんかね?」

「分からん。どうすりゃいいんだ!」

警察官がもどかしい思いを吐露する。

それは砂姫乃も夜風も同じである。

と、その時、4人の右すぐ横の空間が歪み、続けて裂けてトンネルができ、中から憩子、豊岡、明日花の3人が出現する。

「いこいこ! 豊岡さん! 明日花(さん)!」

砂姫乃と夜風が声を揃えてビックリし、そして嬉しく思う。

「ごめんなさい、砂姫乃ちゃん、夜風さん、お待たせ!」

憩子は不思議現象(明日花の能力)に驚愕するおまわりさんを含む4人が無事であることに安心する。

「あ、警察の方もお疲れ様です」

豊岡が律儀に挨拶する。

「え。あ。はい。パイオツです」

警察官の2名も驚愕から気を取り直し挨拶する。

「さぁ! みんな行くよ!」

砂姫乃が改めて気合いを入れる。

「はい!」

「えぇ!」

「了解しました!」

「行こう・・・」

中年警官は能力者の追加メンバーを心強く思う。

「パイオビッカーが5人か!」

若い警官も頼もしく思い、感謝の言葉を続ける。

「ありがたいです! これで大男を逮捕できる!」

中年警官が大きくうなずく。

「じゃあ、僕が封印してみるから、砂姫乃さん、時間稼ぎしていて!」

豊岡が強引に花瓶封印する作戦だ。

「了解! じゃあ行ってくるよ!」

砂姫乃がバッと飛び出す。

「警察の方も、彼女を援護してやってください!」

そう告げると豊岡は大きな花瓶を抱え、その場でなり振り構わずくるくると回転を始める。38歳、印刷業、回る。

「大変だね」

中年警官が労う。

豊岡はひたすら回り続ける。


「やめて! やめてってば!」

大男に対峙した砂姫乃は再び話し合いに持ち込もうと努力する。

しかし大男は暴走を止めようとしない。

時折、立ち塞がる砂姫乃に対し拳を振り上げるが、その都度、警察官2名が拳銃を発砲、大男は攻撃先を棒使い少女から街並みへと変える。

砂姫乃はやむを得ずロッドで大男を幾度となく攻撃。

ダメージは与えられなくても多少の足止めはできると信じて。


そんな姿を真美や愛子、大勢の人たちがテレビの向こうで見ている。

誰もが棒術で立ち向かう少女と警官を応援する。

「頑張れ! 負けるな!」と。


真美がふと気付く。

「がんばれ! がんば・あれ? あれ? ・・・あの子のバレッタ・・・私が作ったやつ・・・?」

ブラウン管に顔を寄せ、よ~く見てみる。

マスクで顔は判別できない。

が、髪飾りは真美独自の色と形。

「・・・私の作ったバレッタかな? え? ・・・まさかあの子、砂姫乃・・・? うそ! まさか!」


愛子もテレビの中で戦う女の子のバレッタに感付いていた。

「・・・もしかして砂姫乃!?」


豊岡の回転は続いている。

いよいよ目が回り、ふらふらし始めた。

能力ペイシェント発動だ。


「男泪を花瓶に隠し、よろず吸い込む回転封印!」


花瓶から竜巻が発生する。

砂姫乃はそれを察知すると、さっと身を引き飛び退く。

豊岡が作り出したいつもより大きな竜巻はゴゥゴゥ風音を響かせ大男まで荒れ狂う龍の如く伸びて行き、ついにガッチリと捕らえ封印を開始する!

・・・はずだったが、封印できない!

花瓶から発生した竜巻は、暴れる大男の左肩にぶち当たると砂姫乃の一撃目と同じように身体の一部だけを飛び散らせた。

だがやはり欠けた部位はすぐに元通りに再生してしまう。

封印できたのは砕けた一部分だけだ。

「あれ?」

豊岡は回転を止めると初めての失敗に困惑する。

「ふ、封印できない!」

「えぇ~!?」

砂姫乃、憩子、夜風、ついでに明日花、警察官2名も声を出して焦りまくる。

夜風も戸惑うがみんなと違い頭をすぐさま切り換える。

「(やっぱり。何かがおかしいわ。もしかしたら・・・)あの大男、身体をバラバラに分解できるの・・・?」

憩子たちが夜風の顔を不安な表情で見る。

「・・・え?」

封印サラリーマンは花瓶を「よいしょ」とアスファルト道路に置く。

「夜風さん、それってどういうこと?」

豊岡が聞くが、夜風は考えがまとまらない。

「まだよく分からないけど・・・」

砂姫乃が駆け足で戻ってくる。

「あいつ、どうなってんの?」

夜風が説明する。

「うん、今、話そうとしてたんだけど、攻撃されても身体がバラバラになって・・・ダメージがぜんぜん無くて・・・まるで本体が別にあるみたいで・・・あぁ分からないわ!」

「まぁまぁ夜風、落ち着いてよ(あたしもおトイレ行きたくなってきたけど)」

砂姫乃がフォローを入れる。

「・・・とにかく、あいつを止める方法・・・考えなきゃ・・・」

明日花も一緒に悩む。

「みなさんパイオツです。あの~、大男もですが秘密組織としてはマスコミも何とかした方が・・・」

若い警官が話に加わる。

「あぁ、そうですね」

豊岡があっちの方のマスコミの一団を気にする。

「おまわりさんが行ってくれれば・・・」

憩子が提案する。

「あ、それもそうだね。みなさんの護衛ばっかり考えてました。行ってきます」

若い警官が行こうとした、その時。


「あっちは我々に任せてもらおう!」

突然の声に砂姫乃、夜風、憩子、豊岡、明日花、警察官が振り返る。

声の主は、建物と建物を結ぶ高架の歩道にいた。

全員が見上げる。

「あれ誰?」

「さあ?」

砂姫乃の問いに豊岡が答える。

ペデストリアンデッキにいたのは背の高い老紳士。

さらに両脇から姿を見せたのは、犬井一子と梅子だった。

「あっ! おっぱい鉛筆の人と、えっと・・・梅干しの人?!」

砂姫乃が驚く。

夜風は2つの意味で驚く。

「2人とも逮捕されてるはずじゃないの!? じゃあ、まさかあのお爺さんは・・・」

「両手に花だなぁ・・・痛てっ!」

豊岡の一言に夜風が腕をつねって制裁を加える。

だが驚いていられるのも束の間、老人の指示で屋上の女性パイオビッカーがそれぞれ戦闘体勢に入る。

「犬井くん、射出いでくん(梅子)、マスコミを殺せ!」

「はっ! アインザッツ様! ご命令のままに・・・って言うわけないじゃないですか!」

犬井一子が突っ込む。

梅子も突っ込む。

「アインザッツ様、冗談でも殺せ!はダメです」

「やはりそうか。そんな気はした。すまぬ。もとい、マスコミを追い払え!」

「それならば承知しました!」

犬井はそう返事すると、尖った鉛筆を数本取り出し、豊満なバストに押し当て、その反動でおっぱいペンシル棒手裏剣を発射する。


「刺さる視線に頬染めし! 弾む胸からペンシルアロー!」


続けざまに梅干しを食べ終わった梅子が種弾シードブリットを吹き出し狙い撃つ。


「口に含んだ、梅の種! 吹き出す狙撃、スッパイナー!」


ペンシル手裏剣と種弾はマスコミたちのカメラ、マイク、無線、その他モロモロ、中継車のフロントガラスやサイドミラーやらを見事に直撃、機材をぶっ壊し、ことごとく使い物にならなくする。

眼下の異様な攻撃に危険を感じたヘリコプターはとっとと逃げ出す。

こうしてお茶の間の臨時ニュースは突然の終了を迎える。

〈ええ~以上、現場でした〉

「何だったの今の? 映画の宣伝?」(40代女性)

一般の目にはよく分からない臨時ニュースになったようである。

但し、現地の被害者たちと関係者、真美と愛子を除いては。


こうしてマスコミを追い払うことはできたが、当の大男は暴れたまま・・・かと思いきや、おっぱいペンシル棒手裏剣と梅干し吹き出し弾丸に見入ってしまっていたようで手は止まっていた。

ひと段落すると、思い出したのか再度、街の破壊行動を始める。

「ガオーッ!」

しかもさっきまで高架型歩道にいた犬井一子と射出梅子、それとアインザッツ様と呼ばれていた老紳士は忽然と消えてしまっていた。


またしても封印不可能問題が復活する。

「打撃も効果ないし、封印もできない。どうすればいいのかしら・・・」

夜風がこぼす。

その次の瞬間、ドドドドド!っと大型バイクが急接近してくる。

ライダーは砂姫乃たちの真横をシュバッと通り過ぎると、大男の進路を塞ぐ。

呆気に取られた豊岡チームと警察官らが見ていると腰のくびれた女性ライダーがヘルメットを脱ぐ。

次の瞬間、ゴゥブワァーッ!と空気を引き裂き、深紅の火柱が天を焦がす。

次にライダースーツの胸元をセクシーに開くと、そこからも真っ赤な炎を巻き上げる。

「ファイファイ、そいつをころ、倒せ!」

見ると高架歩道にさっきの老紳士と犬井と梅子が戻ってきている。

「あれ? 戻ってきた」

憩子が突っ込む。

ライダーの女性=ファイファイはバイクから颯爽と降りると左右の手を頭上で交差させる。

その手をクロスさせたまま、ゆっくり胸元まで下ろす。


「天地に炎、人に知能、我が目に魂、世は楽しい」


素早く両手を左右に拡げるとボゥアッ!と辺り一帯の空気を震わせ全身が猛烈な勢いの炎で包まれる。

いや、正しくはファイファイ、彼女自身が炎なのだ。

「ファイファイは焚き火に落ちた“パイオボイニャーの布”によって命を与えられた、火の化身なのだ!」

老紳士、すなわちアインザッツ博士がファイファイを紹介、解説する。

さすがの大男も巨大火柱を前にひるみ、悲鳴を上げる。

っち! っち!」

炎の攻撃にも驚かされる砂姫乃たちだったが、それはそれとして大男が普通に喋ったことにも驚く。

「あいつ喋れたんだな」

豊岡が代表して口に出す。

熱がる大男を前にファイファイは新体操らしきダンスを華麗に踊り始める。

大男は熱がりながらも動きを止め、踊りに気を取られる。

ファイヤーレディーはリズムに合わせ左右の手からそれぞれ火炎のロープを噴き出し、それを新体操手具のリボンのような優雅さで回しながら攻撃を繰り出す。

左の炎ロープは螺旋を描き巨漢の両手を縛り上げ、右の炎ロープは波打ちながら巨漢の両足の自由を奪う。

さらにダメ押しとばかりに火柱を上げた頭で大きな弧を描き、大男の頭部を業火で攻め立てる。

その連続技は常にリズムに合わせステップを踏みながら繰り出され実に美しい。

「熱っちっち! こりゃあ敵わん!」

予想外に饒舌な大男は火炎攻撃に恐れをなしたのか暴れるのを止め、火炎攻撃を力業で振り払うと後退りし走って逃げ出す。

ファイファイはそれでも火炎ロープをぶるん!ぶるん!投げ縄状に回転させながら大男を追い掛ける。

「ファ~! 待たんかファ~ッ!」

巨人の縄縛りに火攻めという凄まじい光景に砂姫乃、憩子、夜風、明日花、警察官2名が「ぽか~ん」と言葉も失い、走り去っていくのを見送る。


しかし、高架歩道のアインザッツ博士はこう言い放つ。

「あの大男は今は逃げた。だが、すぐに戻ってくる。私の仮説が正しければ!」

砂姫乃たちが一斉にアインザッツを見上げる。

「どういうことよ!?」

砂姫乃が問う。

「あなたの仮説って何?」

夜風も続けて問う。

アインザッツは口元に不敵な笑みを浮かべる。

「私は“パイオボイニャーの布”を送ってきた地球外知的生命体が、ある法則に従ってパイオビッカーの活動をコントロールしていると考えておる」

夜風が聞く。

「あなたの妄想ではないの?」

アインザッツが答える。

「やも知れぬ。だがあの大男の行動で妄想が確信に変わる」

砂姫乃、憩子、夜風、明日花、豊岡のパイオビッカーは、果たして謎の地球外知的生命体に何らかの動きを制御されているのだろうか・・・?

「お前たちも、あの大男が半年前4月30日の赤口ジャックに街で大暴れしたのを覚えておろう! あれも奴が法則に従ってコントロールされた結果に過ぎぬ!」

「やっぱりあいつが・・・!」

砂姫乃は、大男が姉の仇だと確証を得る。

老博士がバッと掌を広げ、下に立ち尽くす者たちに予言する。

「見ているがいい。奴は今日この赤口ジャックの一日のみ、しかも出現時刻からおよそ3時間しか活動できぬはず! 故に、必ず再び舞い戻る!」

そう言い切るとロングコートをババッとはためかせ、また姿を眩ませる。

「どういうこと・・・?」

砂姫乃が不安がる。

「確信ないくせに、やけに自信たっぷりだわね」

夜風が毒づきつつ、それでも法則性を気にする。

「ごめんなさい、あのお爺さんも大男も怖いです・・・」

憩子が恐れる。

「パイオビッカーに・・・ウチらも知らない・・・秘密が、ある・・・?」

明日花も戸惑う。

「あのアインザッツって人は何を掴んで、何を企んでいるのだろう?」

豊岡も考え込む。

「先輩、まさか宇宙人はパイオビッカーを操って地球侵略を?」

「そんなわけ・・・分からん・・・。パイオビッカーは悪の使いなのか・・・?」

警察官2名がパイオボイニャー事件の裏側に触れた気がして、小声でコソコソ恐怖する。

それを聞き逃さなかったのが彼。

「いやいや。悪いとすりゃ宇宙人だ。もっとも、あの爺さんが妄想家じゃなければ、だがな」

斑鳩警部が誤解を起こさせまいと注意喚起する。

若い警官が真偽の分からない言葉に惑わされまいと、

「そうですよね・・・」

と返事をするも。

「あれ?」

いつの間にか来ていた本庁警部にビックリ。

その場にいた全員も一緒になって総ツッコミ。

「斑鳩警部! いつから来てたんですかっ!?」

「ん? あ。さっき」

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